「プラッツ」カテゴリーアーカイブ

プラッツの関連記事一覧。プラッツは静岡県の模型メーカーであり、国内外のプラモデルを中心に、ツール/マテリアルを含め幅広い製品群を取り扱う輸入代理店としても活躍。

「THE アメリカな酒とプラモデル」でエンジョイ!/AMT シェビー・シルバラード モンスタートラック コカ・コーラ

 JACK & COKEというつよつよカップリングの缶アルコールが定番になって1年が経ちます。テネシー・ウィスキーの代表であるジャックダニエルと、アトランタ生まれの資本主義の象徴コカ・コーラ、それぞれ100年以上の歴史を刻んできた両者が手を組み、夢のタッグでザ・アメリカを体現したこのお酒。強個性の組み合わせながら意外と後味スッキリでたまに飲みたくなる。そしてたまに組みたくなるのが同じく北米文化を体現したアメリカンカーモデルです。

 コカ・コーラ柄のモンスタートラックという絵力にグッときて手にしたAMTのシルバラードカスタム。箱を開けるとボディとシャシーフレームの一式が梱包された袋や、特大エアボリュームのタイヤやらがゴロゴロ出てきてもうニッコリです。キャビンと荷台は一体ではなく、ツメで嵌合しているだけなので分離できるそうですが外れなかった。でも、THE・アメリカです。そんなの気にしない。

 シボレー・ピックアップトラックの、アメリカの象徴であるシルバラードの顔面。メッキパーツをうっとり眺めるのもアメリカンカーモデルの醍醐味のひとつ。

 ハイリフトされた下回りを組み上げるといよいよモンスターな様相があらわになります。白いプラパーツはタミヤの白ふた接着剤とMr.セメントSPでスピード感もって組み上げました。接着剤部のバリ除去をしておけばガッチリ組み上がります。一方、メッキパーツは瞬間接着剤と硬化促進剤との信頼のタッグで形にしました。

 「アメリカンならバーッ!と缶スプレー塗装だろ」と勝手な決めつけでタミヤスプレーしました。ピュアな白と赤、それとセミグロスブラックがあればコークなクルマ模型はバッチリとゴールできるかと。

 SOF氏の記事に「始めは焦らずに色ムラを抑制するため薄く重ね、最後にツヤを出すようにするとキレイに仕上げられる」との教えを参考にして缶スプレー塗装したら過去イチ上手く塗りきれました。嬉しさ爆発。

 このプラモを合間を見ては組んでいた私の姿を見て、息子がコカ・コーラな弁当箱と箸セットを買ってもらって帰ってきました。「え。なんで?」と尋ねると「カッコいいから!」とのこと。赤地に白ロゴの古典デザインが小学校に入ったばかりの息子にもブチ刺さった様です。さすがロゴデザインの横綱、シンボルとしての力強さを目の当たりにしました。キットの説明書には他にもコカ・コーラのデリバリーバンとかあるよ!と紹介されていて、これまた息子にねだられました。それは私も欲しい。次は何を組もうかな。

ダテツヨシ

「つくる」をテーマに、世間話をしています。

バキバキ濃い味、組み立てに没頭する直球の飛行機プラモデル/プラッツ F-15J

 ぐわ~、これ! これが見たくてこのプラモを選んだんです!!
 これはプラッツの1:72 F-15J、その『お腹』にあたるパーツ。わたしF-15は初めてなんですけど、この飛行機のお腹ってこんなに複雑だったんですね。起伏に富むのに、意外と平たい場所が多くて……そこにバキン! ゴキン!っと豪快なほどに濃い彫刻が入っています。しかもパーツの両サイドは腕を突き出したように飛び出ていて、その脇腹は空白ですけど……何がどう組み合わさるんでしょう?

 さて、F-15といえばファインモールドによる新製品が登場したばかり。模型誌でも盛んに取り上げられ、ここ半年間でプラモがもっとも組まれまくっている飛行機なんじゃないでしょうか。そんなF-15のプラモがタイムラインにたくさん流れてきて、わたしもとうとう作りたくなってきたというわけです。

 ──ですが、これはその新製品ではなく、2015年発売のプラッツ製のもの。選んだ理由は先ほどの通りで、バキッと深い彫刻が入りまくっているらしいから。わたし、ちょっと大げさなくらい陰影が出るプラモが好きなんです……。多くの選択肢から好きなテイストのキットを選んで作れるのは、王道メジャー機の大きな魅力ですね。

 で、この組み立てがものすごい没入感。カチッと彫りの深いパーツたちは立体的に噛み合い続け、胴体中央部をコアとして各セクションがバシバシ合体していき、だんだんとF-15の形になっていくのです。組み立てているうち「あ~、なるほどね」とか「ほう、ここがこう……」なんて独り言がつい出ちゃうタイプ。ちょっとパズルっぽい感じがあるのかもしれません。こういうときわたしは、塗装のことは一旦おいといて一気に組み上げちゃいます。いまはこのパズルに集中するのが楽しいんですからね。

 そんなこんなで組み上がりました! 彫りの深いパネルラインが模型の表情を引き締めてくれるおかげで、F-15の広い背中も間延びせず、組み立て中こちらは終始ニコニコでしたよ。

 細かなパーツの数こそ多いものの、その多くはガイド穴が明確なので心配無用。どんどん嵌まっていくので、確かな充実感のもとに組み立てが進みます。

 あとはまとめて塗るだけ。筆でザザーッと塗って完成です!

 このキットの特徴たる濃い味の彫刻は、もりもり筆塗りした後でもエッジ健在。そこにスミ入れ塗料を流せば、気持ちいいほどぐいぐい食い込んでいって、粗めの塗装でもなかなかバキッとした雰囲気になりました。そう、これがやりたかったんです……!

 彫りが深くてハッキリしたプラッツ版のF-15J。情報量豊かでありながら過剰な繊細さもなく、どんどんアクセルを踏めるF-15なのでした。ガツンと作ってワハハと飾りたいときの力強い選択肢ですね。こんな濃い味のプラモがどんどん増えますように!

出口ぶな

1993年生まれ。プラモは2日間で完成させたい派。

指先でつまめるサイズのプラモデルでクラシック・ミニの姿を/エレールと為替と仕上げのバランス

 小さなハコを開けると白くてかわいらしいパーツが飛び出してくる。まるでドルチェみたいに。エレールはフランスにルーツを持ち、いまはドイツ企業の資本で活動する模型メーカー。一新されたパッケージはパッと目を引く黄色に統一されていて、いかにも舶来の模型を手に入れたという感じがする。日本語はどこにも書かれていないけど、イラストを見れば組み立てられてしまうのがプラモデルのユニバーサルな魅力だ。

ヨドバシカメラ エレール HE80153 1/43 オースチン ミニ

 エレール製1/43スケールのオースチン・ミニ。ボディをつまみ出すと、エンジンフード前方からニョキッと枝が出ていて、さながら串カツのような見た目。ウインカーやドアハンドルはボディーと一体になっていて、フロントグリルから下とリアのトランクカバーから下が別パーツとなっている。幅わずか34mm、長さ71mm、ミニという名前が体現する、小さな車の小さな模型だ。

 タイヤはプラスチック製でホイールは外側だけ別パーツ。リアルな質感は望むべくもないが、「気軽に貼って気軽に塗る遊びを小さくまとめたプラモデルなんだから、そのようにすればいいんだ」となんだか気が楽になった。ここがもしリアルなトレッドの入っている軟質樹脂のタイヤだったら、そこだけが浮いてしまうのを恐れて全体を研ぎ澄ますように作らなければならない……と身構えていた。

 組み立てはごくシンプルで、完成後には見えなくなるエンジンが用意されているほかは、ほとんど外から見えるパーツを貼り付けていくだけで完成する。ボディ以外を全部真っ黒にして、ホイールだけ銀に塗ればとりあえずミニらしい見た目にはなる。もちろんこだわる向きは内装を好みの色に仕立ててもいいだろう。

 1/43のカーモデルというと、もっと大きなスケールの模型に見劣りしないようひたすらこまかな工作と塗装で精密感を出さなければいけないと勝手に思っていた(とくに1/43のメタル製キットなんかはパーツ自体も繊細で、勢いで組み立てられるようなシロモノではない)。しかしエレール特有の「カタチは確かだけどどこかおおらかな雰囲気」を前にして、これならなんとかなりそうだと塗装の下ごしらえを済ませる。

 ボディはピカピカのツヤではなく半ツヤくらいでも充分に見栄えがする。ウインカーもクリアーオレンジで塗るより、ただのオレンジ色を筆でツルンと乗せるくらいがくっきり見えてちょうどいい。シルバーの塗り分けだけは面相筆で注意しながら乗り切って完成。ミラーはほとんど点留めで接着することになるのが設計上の弱点だ。

 クローズアップで見れば小さく解像度のやや低い模型だが、遠くに置いて眺めるとずいぶん存在感がある。惜しむらくは国内における希望小売価格が4180円とかなり値が張ることだ。エレールが本国で設定している10.99€という価格(タミヤの1/48スケールの乗用車を考えれば順当な感覚だ)を考えると、輸入その他にかかる経費を含む妥当な売価と言えるのかもしれない。とはいえ、模型店ではどうしても他の製品と価格を比べてしまうのが人間の性質。これくらいのカロリーと適度な難度で楽しめる模型を欧州の人々と同じように1800円内外で手に入れられる環境がもし整えば、余暇の使い方もずいぶんと変わるのではないかと感じた。

ヨドバシカメラ エレール HE80153 1/43 オースチン ミニ

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

BEEMAXの「追いパーツ」にはプロ並みのプラモデルを作れる可能性が全部入ってる!

 BEEMAXのF1プラモを褒めちぎる理由は、組むのが楽しいことだけじゃない。もしあなたが「もっとスゴいもんを作りたい!」と思ったときにそれに応えてくれる「追いパーツ」も用意してくれていることにある。たとえばボディカウルの中に収まるモノコックは表面に大きさや配列の違うツブツブをこまかく彫刻することでCFRPの織目を感じさせる表現になっているのだが、実際は部位によって色も違えば質感も微妙に異なる。

 こうした質感に迫ろうとすると、かつてはCFRPの模様が印刷された大判デカールを買ってきて、部位ごとの形状に合わせて自分で切り出しや貼り込みを頑張る必要があった。しかしBEEMAX製のキットにはおおむね「専用のディテールアップパーツセット」というものが発売されており、あらかじめパーツのカタチにビタリと合わせてあるデカールを説明書の言うとおりに貼っていけばいい。

 BEEMAX製品に同梱されたデカールはいくら褒めても褒め足りないのだが、とにかく薄くて発色が良く、曲面にも馴染みやすく、さらに水に漬けた瞬間にスッと貼れる状態になるのが素晴らしい。さらに印刷面周囲の透明ニスも肉眼では見えないほど余白がないので仕上がりも美しい。

 さらにエッチングパーツ(金属製の薄板を特殊な加工で型抜き/彫刻したもの)もセットされており、マシンのごく薄い部分や金属光沢を放っていてほしい部分をプラスチックや塗装の質感とは異なる表情にできる。簡単に言えば、「精密感が出る」というヤツだ。写真をよく見ると、ひとつひとのパーツが透明フイルムに繋ぎ止められているだけで、切り出しの必要はない。ピンセットでつまみ上げればすぐに貼れるようになっている。

 大量の細かいエッチングパーツを見ると「すべて貼らなければいけないのか……」とひるんでしまうが、貼るのが楽しそうなところ、貼ると目立つところだけに絞って使うのがいい。たとえばブレーキディスクの露出したところなど、パーツの凹凸と全く同じ形状の金属板がカチリとはまり込むのがとてつもなく気持ちいい。

 タイヤのグッドイヤーロゴを塗装するためのマスクや前後ウイングの翼端板など、塗装で仕上げることを前提としたサービスもあるが、正直言えばBEEMAXのMP4/2Bはシャーシが黒、ボディが白のプラスチックなのでディテールアップパーツに入っているデカールとエッチングパーツを奢っていくだけでもかなりリアルな見た目になる。塗装せずとも「プロ並み!」と思える仕上がりが手に入るのは素晴らしいことだし、これをフルに使いこなせればあっと驚く完成品になるだろう。

 仕上がりのレベルを決めるのはあくまでもあなた。ふと傾斜の緩んだ場所で立ち止まってもいいし、天に突き上げるような頂きを目指してもいい。用意されたマテリアルをどこまで使うのかはスキルやテンションにもよるだろうが、その幅を大きく広げてくれるおもてなしとして、BEEMAXのディテールアップパーツセットは「全部入り」でユーザーをがっしりと抱きとめてくれる。

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

タミヤへのリスペクトを感じながら快適に組み上げるF1モデル、BEEMAXのMP4/2B

 考えてみたら、F1マシンのプラモデルはタミヤ製のものしか組んだことがなかった。入手しやすく、組みやすく、モチーフの年代も幅広い。タミヤと同じ1/20スケールで発売されているBEEMAXというメーカーのMP4/2Bはおなじみのマルボロカラーが眩しいけど、みんなが知っている宇宙最強のマクラーレン・ホンダの組み合わせではなく、TAGポルシェと呼ばれるエンジンを積んでドライバーの腕力でなんとか勝ち点をもぎ取っていた1985年のマシンだ。自分にとって馴染みがないモチーフというのは、プラモデルを作るうえで格好のチャンスである。プラモデルを作れば、昨日までの他人と友達になれるのだから。

 パーツのルックは上々。立体感の強い彫刻と、いかにも詳細なリサーチを感じさせるパーツ表面の微妙な起伏を眺めておもむろに組み始める。車体を被せればほとんど見えなくなるから、塗装のことは考えずに淡々と。いきなり自分で穴を開ける指示が出てきたり、そのままではうまくハマらないところがあったりするが、これはあくまで「ちょっとした調整」の範疇に収まる。特別な工具がなくても、ニッパーとナイフと接着剤さえあれば順調に組み上げられると言っていいだろう。

 なによりパーツの設計は確かなので、収まるように収めていけば排気管の行き先があやふやになったりすることもないし、ノリシロが行方不明になっているところもない。コンパクトな1.5リッターV6のエンジンにターボチャージャーが20分ほどで手に入るのは、パーツ数が良い塩梅に少なくまとめられているからだ。「現代的なキットとは精密でなければならないし、そのためにパーツを可能な限り細分化する」という哲学ではこうはいかない。組んでいるときのスピード感は、タミヤ製のF1モデルを組んでいるのに極めて似ている。

 ホイールをアップライトに取り付ける段になってあっと驚く。センターロックナットを模した六角頭のネジを、プラスチックパーツとして用意されたボックスレンチで留める設計になっている。これはまるで、往年のタミヤ製1/12スケールF1モデルを模しているかのようだ。

 写真を撮ったり休憩を挟んだりしながら、シャーシが組み上がるまで3時間フラット。何も考えずに組んで、ピシッと4輪が接地するのには驚かされる。ここまでに使ったパーツはすべて真っ黒だが、表面の質感はCFRPや金属を感じさせるよう部位ごとに変えられている。抑制されたパーツ数で、パーツがあるべきところに収まり、気を抜いて組んでいてもシャキッとしたマシンが出現する。これは当たり前のようでいて、なかなか真似できることではない。

 細密化やトリッキーな技に走ることなく、実直な設計で「ちょっとマイナー」をモデルアップしてくれるBEEMAXのフィロソフィー。もしF1モデルの「お手本」があるとしたらそれはタミヤ製品だと信じているが、彼らその姿をまっすぐに学び、まだ模型化の日の目を見ていないマシンをみんなに届けようとしているのに違いない。

からぱた/nippper.com 編集長

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素敵な喫茶店とアメリカンカープラモ。ロケーションの魔法に魅せられて。

 素敵な場所は、プラモの魅力も高めてくれる。先日パッケージのかっこよさに惹かれて「AMT 1/25 1966 フォード サンダーバード ハードトップ/コンパーチブル」を購入した。プラモを買ったその足で、いつもお世話になっている方と合流。そして、とても素敵な喫茶店に連れて行ってもらった。

 幸いにもお客様が僕たちしかいなかったので、コーヒーを待ちながらプラモの箱を開けてみることにした。すると、いつも自分の部屋で見るよりも、ひとつひとつのパーツがとってもカッコ良く見えたのだ。ロケーションの魔法である。

▲既にこの状態まで塗装されているタイヤ。素晴らしくきれい。そしてアンティーク調のテーブルが、タイヤのかっこよさを引き立てる
▲良いパーツを見ながら飲むコーヒーは美味しい。最高の時間だ

 あまりに素敵な景色なので、プラモデルの箱を置いて写真を撮っていいかお店の方に訊いてみると、快くOKしてくれた。お客様が少ない時間に来たのもラッキーだった。棚の上や素敵なテーブルの上に置かれただけで、いつも見ているプラモデルの姿が、全く異なって見える。魅力的で、愛おしく、買ってよかったなという気分を盛り上げてくれた。

 かっこいいと思って買ったプラモを、自分がいいなと思う空間にポンと置いてみる。それは写真だけでは伝わりきらない良さと、自分だけで納得できればよい快感がその瞬間に訪れる。ロケーションの魔法にかかった模型は、僕にとってさらに大切なものとなるんだ。たとえ買ってきた箱の状態で部屋に置いてあっても、その魅力はいっさい衰えることなく僕の部屋で輝いている。

フミテシ/nippper.com 副編集長

1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)

あんこうチームを守れ! IV戦車の「金属製シュルツェンパーツ」を攻略するのであります!!

▲両サイドに付いている金属パーツ! これがシュルツェンだ。このパーツを攻略しますよ

 戦車模型にはプラパーツ以外に金属パーツがセットされていることもあります。金属パーツは、プラスチックよりも薄くシャープな形状を表現できるのです。『ガルパン』の主役車両「IV号戦車 H型(D型改)」のプラモにも、本車両のアイコンともいえる「シュルツェン」が金属パーツで表現されています(車体のシュルツェンのみ)。今回は金属パーツシュルツェンを攻略してかっこいいIV号戦車を作り上げますよ!!

 キットには2枚のパンチされた金属プレートが入っています。これが実車のIV号戦車でも使われた増加装甲のシュルツェン。プラモデルだとだいたいはプラスチックで、片側5枚をひとパーツにまとめた形状で成型されなるのですが、ここを実車の縮小版のように金属にしているのです。まずはプレートからパーツを取り出すために、まだ繋がっている部分をナイフでなぞります。

 ナイフで数回なぞったら、くにくにと曲げるとプチっと折れて外れます。ナイフで切り出そうとせず、線に沿って数回なぞり、その後折るという方法が一番綺麗にパーツを外せます

 あらかじめ開けられた中央の穴付近を見てほしいのですが、フチがめくれています。このめくれが残っているとシュルツェン架にかけづらいので、この金属プレートも処理しましょう。

 240番の紙やすりでガシガシ削ります。布テープを逆向きに巻いた両面テープを滑り止めにすると、気持ちよく削れますよ。

 塗装の厚みを考慮して、四角い金属ヤスリで穴を少し削ります。ここまでやるとシュルツェン架にもサクッとかけられて、接着なしでシュルツェンがまとまるんですよ。このひと手間、とてもおすすめです。

 ここまでやったら、一枚一枚引っ掛けていきましょう。その瞬間は、まさに実車の再現をしているようで楽しい!!

 金属対応のサーフェイサーに、オキサイドレッド系の茶色いものがあるので、シュルツェンに吹いてみました。キットの茶色の成型色と相まって、これだけで劇中のようなかっこよさ!! うーむ、いい眺めだ……。

 IV号戦車ってD型ぐらいのシンプルな単砲身の姿と、この複雑極まりないH型の姿とふたつがあるのがたまらないですよね。あんこうチームを作っていると、自然とIV号戦車のおいしい姿を追求できるのもたのしいところです。IV号戦車は何度作っても飽きないですよ。みなさまもどうぞ。

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

タミヤのベテラン流し込み接着剤で、「ガルパンIV号戦車の精密履帯」を攻略です!

▲箱に何やら「精密履帯パーツ付属」って書いてある!!

 祝、『ガールズ&パンツァー最終章 第4話』公開。公開前後にあんこうチームのIV号戦車H型(D型改)のキットが発売されました。それがこちらです。いつもの衣装とは違うへそ出しがかわいいあんこうチームと、「精密履帯パーツ付属」というのがポイントです。今回はこの精密履帯ってなんやねん! て部分にクローズアップしたいと思います。

▲キットにはベルト履帯も入ってる! しかも黒い。そしてもうひとつは、ばらばらになった履帯の袋詰め。どちらも選べるのはいいですね〜〜

 今回の中身の目玉が精密履帯です(ベースキットのIV戦車を開発した中国メーカー・ドラゴンでは、この履帯を”マジックトラック”と呼んでいます)。戦車の履帯が1コマずつパーツ化されているのです!! じつはキットには上のベルト式履帯も付属しているので、お急ぎならこちら……ですけど、せっかく精密履帯がついているのだから、ぜひ使っていきたいところ。作るの大変そうに思えますが、ひと工夫で意外と早く組めちゃいます。


 両面テープ、35㎝以上の角材などの棒、そしてタミヤセメント流し込みタイプ(濃いグリーンの蓋)を用意します。速乾タイプだと乾燥が早すぎてカチカチの直線履帯が出来上がってしまい、戦車に巻き付けることができなくなります。古参の通常流し込みだと乾燥がゆっくりなので、こちらがベストです。棒がない場合は、カッティングマットにマスキングテープを貼って、その上で接着しても良いです。

 そして角材のうえに履帯を並べます。ピッタリ寄せて並べたら、流し込み接着剤を履帯に塗って一気に接着していきます。流し込み漏らしのないよう接着剤を流したら、タイマーを40分でセット。自分のこれまでの経験で、40分くらいするとちょうど良い具合でパーツが接着されています。

 履帯には左右があって、色の濃さをちょっと変えて成型されています。片方の端のピンが少しだけ出ているという違いもあります。

 40分が経過しました。履帯を棒から少しずつめくるように剥がして、本体に巻き付けていきましょう。接着剤が完全に硬化する前なので、こうして転輪に巻き付けられるんですね。巻く前に向きは確認してください。前の歯車(起動輪)に数枚ひっかけて、誘導輪のところでぐるっと曲げます。

 接着剤が生乾きのうちに、履帯の上側をたるませて、履帯の重みを演出しましょう。このたるみはベルト履帯には難しいしぐさで、精密履帯ならではの作業。指で押してカーブをつけていきます。

 いいじゃないですか、このゆるっとした履帯の感じ。プラッツ/ドラゴンの最近のキットはこうしたひとコマずつバラバラの精密履帯付属キットが結構あるので、みなさまも流し込んでまとめる方法で攻略してください。薄くて小さい履帯は乾燥時間を+10分、パンターなどの大きい履帯は-10分するとちょうどよいですよ。ベルト式のものと比べると工作にはコツが必要ですが、精密さと案外スピード攻略できるバランスがよくて、私は大好物です。ということで精密履帯の攻略完了です!

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

プラモデルだから味わえる「F1の内側のかっこよさ!」ケーブルを這わせてロータス99Tの中身を”創造”しよう!

 モノコックを取り付けて、内臓だけのロータス99T。これが見たかった……F1のプラモデルを作る意味を最も感じる場所です。キレイな完成品が欲しければ、いくらでも完成品があります。この走るために研ぎ澄まされた内臓は、プラモデルだからこそ楽しめて、手でそのパーツの意味を理解できるのです……!!

▲ケーブルがごちゃごちゃしてるものって素直にかっこいい……でかい模型だからこそ取り回しもしやすいので楽しいのです!

 コネクターやオイルの配管、ケーブルなどは中身をさらにカッコ良くしてくれます。怖がらずどんどんつけていきましょう。説明書もある程度教えてくれますが、ちょっと分かりにくい所もあったりします。そんな時はネットで検索して実物の写真を見ながらイメージで貼っていきましょう。時には瞬間接着剤で雑に貼り付けていきます。端を隙間や裏側に追い込めばそれっぽくなる(ここ大事!)ので、ガンガンいきましょう!

▲ケーブルが付くと、「血が通ったぜ」って気分になります。内臓のかっこよさを爆上げします

 もう勢いでガンガンケーブルをつけていきます。配線の本当なんて、ホンダかロータスのエンジニアでなければ正解はわかりませんから、我々は雰囲気でやればよいのです。端はエンジンとモノコックの間とか、配線の裏とかに忍ばせればいいんですよ。できてしまえばカッコイイ~!

▲完成すると中身は見えないけど、作った俺には見えている。感じている……。そしてこの伝説のマシンのかっこよさの全てを楽しんだぞという満足感がある!

 F1におけるターボエンジンは、1988年に一度終了することになります。このターボ晩期に最強だったエンジンがこのホンダ製のターボエンジンであり、1987年のマシン、ロータス99Tや日本人初のフルタイムF1パイロットである中嶋悟、日本を愛し日本のF1ファンにも愛された音速の貴公子アイルトン・セナの2大看板をもって、日本に猛烈な印象を残すことになります。

 のちにF1は社会現象となり、ターボエンジンというのは排気を活用してタービンが吸気を圧縮するという手法であるにも関わらず、とにかくなんか強かったり速かったりするものに”ターボ”という名称が用いられることになりました。戦隊ものはターボレンジャーとなり、スコープドッグにはターボカスタムというバリエーションが誕生し、スピードが速くなったストリートファイター2はターボという名称がつき、連射コントローラーにはターボという名称が使われ、カップ焼きそばの湯切りにすらターボという名称が使われたのです。その元ネタともいえる著名なターボマシンが、フラッグシップといえる1/12スケールで、ようやく、ようやく発売されたのです。みんなも、99Tでターボ(概念)していくんだ……!!

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

そのパワー、1000馬力!? 最強ターボエンジンRA167Eを組み立てろ!/BEEMAXのロータス 99T 1987 モナコGP ウィナー

 ビーマックス/プラッツの1/12ロータス99Tは、ビッグキットらしい大きなパーツや多くの金属マテリアル、楽しいパッケージングでワクワクさせてくれる内容でした(下のリンクの記事も読んでね)。さて、もうちょっとパーツを見ていきましょう。このパーツはエンジン下部とギアトレーンを合体させることで、車体後部の剛性とアライメントに貢献します。

 ぶわーっと小さなパーツをまとめたランナーもあります。このころのF1に詳しい人なら、これはどこのパーツか、というのがわかり、初体験の人はドキドキワクワクの連続だと思います。

 このぐるぐるのパーツがターボチャージャーのキモです。排気でタービンを回して、吸気側の空気を圧縮します。圧縮された空気を燃焼することで、より出力が上がるという仕組み(超ざっくり)です。現在のF1ではこの回転軸のところにMGU-Hとよばれるモーターを組み込んでエネルギー回生をしていますね。進化!

 銀色のランナーはコネクター系やシートベルトの金具など。1/12でどこでも何度も使えそうな汎用性のあるランナーですね。

 いよいよ組み立て、その前に。組み立てるときは細かいネジなど金属パーツを使うのですが、こちらにメモをしておきましょう。組み立て前に説明書もよく読んで、どこでどう使われるかを確認して、メモします。

 穴を開けたりパーツを貼ったりしつつ、すすみます。右のエンジン内部に丸い部分があって、シリンダーがイメージされます。1.5リッターV6ターボなので、1気筒あたり250ccのサイズ。レッドブルのふつうの缶ぐらいのシリンダーが入っているわけですね。もうこの段階でちょっと盛り上がっている自分がいます。

 サスペンションアームなどの受けは強度を確保するために金属をインサートします。これもネジで本体に留めていきます。付属のドライバーが偉いのは、パーツのあいだや金属プレートのせまい幅に合わせて先端が細いところです。

 四角い断面系のアームがウィッシュボーン、手前の細い軸はプルロッドサスペンションの軸、そして太い軸はエンジンからの動力をタイヤまで伝えるドライブシャフトです。こういうサスペンションなどの役割が組みながらだとよくわかります。

 これです、これがRA167Eです!! 予選で1000馬力を超えているという、伝説のエンジン。本来はアンダートレイと組み合わせながら完成させるのですが、この姿が見たくてちょっと頑張ってみました。黄色いダクトから空気を取り入れて、タービンで圧縮、前側のラジエターに送り出し冷却、のちにエンジンの上に回して、燃料を噴射し、エンジン内部に吸気。圧縮、爆発、排気された空気はエンジンの横から這い出て、タービンを回します。その後後部に排出されていく……この一連の流れがパーツとして繋がっていく、これがたまらないわけです。

 このぽんと突き出たパーツが”ポップオフバルブ”というターボを規制するべく取り付けられたパーツです。空気を一定以上圧縮させないために圧を逃がす構造になっていて、この年は4バール(0.4Mpa)にまで制限されていました。ところがこのポップオフバルブが何かとばらつきのあるパーツらしく、ハズレを引くとえらい目に合ったとか。ターボエンジンのファン(タービンではなく人)からするとにっくきパーツですね。

 でかい。まだまだケーブルをつけるところがあって、配線のしがいがあるサイズです。アップデートパーツまで使うと、相当配線だらけになり、さらに解像度が上がります。

 3本出た管は、手前の2本が排気管で、奥の一本がウエストゲートの排気管になります。排気管から出てくる空気を抜いて、タービンに圧がかかりすぎないようにしています。つまり3本とも排気を通すのですが、ちょっとだけ役割が違うんですね。

 F1プラモデルの醍醐味であるエンジン部分。ここを組むだけでも楽しく、ヤマ場がいっぱいあります。こうやってアンダートレイの上に載せて、ぐるぐる眺めるだけでも楽しい。これが1000馬力出して、540kgのマシンを走らせるんですよ……。まさにF1テクノロジーの詰まった、そして当時のターボエンジンとして行き着いてしまった最強ホンダのエンジン。これを1/12の大迫力で味わうのはまた格別なのです!

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

来た、来た、ついに来た!「ビーマックス/プラッツのでっかいF1キット、ロータス99T」をオープン・ザ・ボックス!!

 地上波放送からFormula1が消え、カーモデルのモチーフも多様化した昨今、F1マシンのプラモデルというのはだいぶレアになってしまいました。しかしF1マシンの模型はなくなったわけではなく、常にどこかのメーカーが供給する定番モチーフとして細々と続いていたのです。

 そこに、BEEMAXというメーカーが「1/12でロータス99Tを立体化するぞ」というビッグな夢をぶち上げたのです。F1の標準的なスケールは1/20、カーモデルなら1/24というところに、フラッグシップモデルとなりうるサイズ、1/12で突入してきたのだから、F1プラモデルファンは踊りに踊ったのでした。

 ロータス99T。日本人初のフル参戦を果たした中嶋悟と、”音速の貴公子”として知られる、伝説のアイルトン・セナがタッグを組んだ輝かしきドライバーズラインナップ。ターボ絶頂期にあって最強のエンジンを送り出した、ホンダのRA167Eを搭載。そしてフジテレビでの全レース放送、日本でのF1黄金期を迎える時代、それを象徴する1台にして、タミヤからも1/20スケールのキットが発売されている名車です。

 箱の中にドサドサと入ったパーツの数々。大きな箱の中身には、ボディカウルを包むための飾りがあり、こうしたパッケージングにちょっとした特別感を覚えます。

 ゴロンと一体化されて入っているカウルの状態で、すでに往時のF1の姿が見られます。後半部下面の一部を除けばほぼ実車同様の形で、これをクルー何人かでよいしょと持ち上げるシーンを、当時何度もテレビで見られたものです。

 ねっ。デカいでしょう。プラスチックなのにちょっとした重みすらあります。特大サイズのF1、カウルがここまで一体になっている意義を感じますよ……!

 箱の左にあったツールボックスはネジなどの金属、そしてケーブルやチューブ、サスペンションのプラスチックが入っています。さらに、ドライバーまで。箱が工具箱をイメージしたデザインになっているのも粋です!

 タイヤを運搬する台車を印刷したパッケージの中身はタイヤです。こういうちょっとしたパッケージのなかの梱包で遊ぶ、ワクワクさせるところは上手です。

 組み立て説明図の表紙! 古くからのF1ファンならわかると思うのですが、タミヤへのリスペクトがビシバシ伝わってきます! パッケージ内の梱包もそうですが、1/12スケールでタミヤがやってきたことにめいっぱい敬意を払っています。

 ああもう、まだランナーの一部にしかたどり着いていないのに、語ることが多すぎる! このうずまきのパーツがターボの大事なパーツで、とか……エンジンは組みながら見ていきたい。

 デカールもいい色で、品質もよい。ホンダの文字が輝いてますねえ! いまでもホンダエンジンはF1で活躍していますよ、オヤジさん……!

 ところで話は変わりますが、同時に発売されたのがこちらのディテールアップパーツセットです。箱も99Tカラーでおしゃれです。


 エッチングパーツや、ケーブル、シートベルト用のリボンなどが入っています。またデカールも。……デカールにはあまり言及しないんですけど、買えるうちに買ったほうが、絶対いいでしょうね。そのほうがラクダから。

 1/12のF1はやはりプラモデルのなかでも最上級のごちそうアイテムですが、じつはこのビーマックスのロータス99TだけでなくMENGモデルが1/12でF1マシンを発売しています。とんでもなく幸せなことで、もう頭の中であのころのF1を象徴する”TRUTH”が聴こえるような、そんな事態です。この2023年に、とんでもないことが起きている、胸躍るF1プラモデルの世界がある、というのを書いて、まずニッパーを握ることにいたしましょう。

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

電動工具のパーツに導かれ、シトロエン公式の強烈な「模型製作資料集」にぶち当たった話。

 ラリーカーのプラモデル。説明書を見ていたらフロアに電動工具が転がしてある。ハンブロールの47番、光沢のシーブルーで塗り分けてね、と書いてあるのがいやに具体的だが、マキタならもっと黄色みが強いし、ボッシュなら真緑である。そもそもラリーカーなんだから工具が積載されているのはなんとなくわかるが、こんなに即物的に「電動工具が転がっています!」というのにはなんか強い意志を感じる。

 パーツの形状もいやに生々しく、その横にあるよくわからないカタチのパーツも気になる。このプラモデルを設計した人の印象に強く残っているのだとしたら、’18年のツール・ド・コルスを走ったシトロエンC3に何か所以のあることかもしれないと思ってインターネットの海をさまよう。あれやこれやとググり、そしてよくわからない。よくわからないが、室内の様子がいちばん明確に把握できるのは、なんとシトロエンの公式サイトだった。

(画像はCitroën Originsより)

 シトロエン公式サイトのなかに設けられたスペシャルページ、「シトロエン・オリジンズ」は1919年から今年までに作られたさまざまなシトロエン製品のアーカイブである。360°回転させられる外観の画像と、内部をぐるりと見渡せるインテリアの画像。そして美しく撮影された細部の写真たち……。2017年のところに目当ての「C3 WRC」があるのだが、それ以外も恐ろしい情報量で見る者の時間を溶かし尽くす。

(画像はCitroën Originsより)

 被写界深度がめちゃくちゃ浅くて、非現実的な(しかし緻密に計算され尽くした)ライティングで撮影された画像たちはどこかミニチュアのようだが、細部を観察するとこれが模型やCGではなく、まぎれもない実車であることがわかる。なにより、「そんな細かいところまで俺たちに見せてどうしようって言うんだ!」と言いたくなるほどのディテール写真の山。

(画像はCitroën Originsより)

 室内に電動工具は認められずじまいだったが、C3のあらゆるディテールをまじまじと眺めているうちに「このプラモデルをどう完成させればそれらしくなるのか」という観念は巨木のように育ち、いつのまにやらシトロエンの綺羅星の如しクルマたちのことを好きになっている……。なんという説得力。なんという罪な資料たち。

 ベルキットのシトロエンC3のパッケージの中には、このクルマを作るために必要と思われるものがすべて揃っている。細部まで表現されたデカールも、極薄の金属光沢を放つエッチングパーツも、窓を美しく塗り分けるためのカット済みマスキングシートも。ラリーカーを愛し、それを模型にするために異常な情熱を燃やすベルギーの同士の熱量が、フランス車に対する憧れを呼び覚ましてくれた。プラモも良いが、シトロエンのサイトも最高だ。秋の夜長にじっくりと眺めて、プラモデル製作の魂に火をつけてほしい。

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

憧れのブラックバードを爆速で作れるご機嫌なプラモデル。「プラッツ 1/144 アメリカ空軍 SR-71 ブラックバード」

▲1/144スケールだけど全長約22cmで作りごたえも抜群!! ブラックバードデビューに最適!!

 飛行機・飛行機模型にあまり馴染みがない人でも「ブラックバード」という言葉はどこかで聞いたことがあるかもしれません。真っ黒い機体に美しく伸びた機首、そして大迫力のエンジンという美しさの塊みたいな超音速・高高度戦略偵察機です。そんなブラックバードを、「組むだけで素晴らしい完成度を味わえるキット」をご紹介します。それが、プラッツより発売されている1/144スケールの戦闘機モデル、「SR-71A ブラックバード」です! キットのパーツは中国を代表する模型メーカー・ドラゴン製になります。

▲箱を開けたらほとんどできてる!! これだけのパーツ数でかっこいいブラックバードが完成します

 部品の表面が良い感じに半ツヤ。塗る場合だったら塗料もしっかりと食いついてくれそうな理想的な表面状態。ウェルドやバリ、ヒケも見当たらずきれい。これだけ綺麗なので、組むだけでも十分にかっこいいですね。

 特徴的な前方からの平たいシルエットも美しい。この機体は「迎撃ミサイルよりも速く飛び、偵察を成功させよ」とのコンセプトで開発された、音速の3倍もの速さ、つまりマッハ3で飛行する特殊機体(映画 「トップガン マーヴェリック」に登場するダークスターのモデルでもありますよね)。他の戦闘機には見られない特徴が多く存在します。

▲正面から見るとこの平べったさ。上から見た時とは全く異なる印象を受けます。こんな飛行機が実際にあるのですから、人類はすごいですね!

 特徴的なモールドも丁寧に成形されています。1/144と小さなサイズのキットなのに、箇所による間隔や太さの違いもハッキリしており、シャープで角のダレも見当たりません。

 各部のディテールが1/144スケールの飛行機模型でも模型映えするように、少々オーバースケール気味にメリハリあるものとなっています。そのおかげで、出来上がった時の立体感が凄まじいです。

 全パーツを組付け。なんて美しい! 降着状態としていますが、飛行状態でも組み立て可能です。この芸術的な姿を少ないパーツ数で楽しめます。SR-71が大好きな人、初めてSR 71を作る人、どちらも幸せになれる素敵なプラモですので、ぜひゲットしてください。

シンサク

1991年生まれ。模型やテニス、乗り物が好き!!

究極の可動式サスペンションを組んで楽しもうぜ!!「プラッツ ガールズ&パンツァー 最終章 1/35 M4A1 シャーマン 76mm砲搭載型 サンダース大学付属高校 リニューアルパッケージ」

▲ガルパンパッケージで、鋳造車体のかっこいいシャーマンを作ろうぜ!

 〉プラッツ ガールズ&パンツァー 最終章 1/35 M4A1 シャーマン 76mm砲搭載型 サンダース大学付属高校 リニューアルパッケージ

 プラッツが模型メーカー各社の協力を得て展開する、アニメ『ガールズ&パンツァー』の戦車模型。この度サンダース大学附属高校のM4A1 シャーマン 76mm砲搭載型が、パッケージを新たにして再登場となりました。リニューアル版は初回特典として「バトルダメージデカール」が付属します。

 こちらのプラモは、全世界のシャーマンファンに愛されているアスカモデルのシャーマンがセットされています。このキット、只者じゃ無い戦車模型でして、1回で記事を終えるのは難しいので、2回に分けてお届けしますね。

▲サンダースのみんながキットレビューしてくれるぞ! フミテシの出番はおしまい! 完ッ!!!

 ガルパンキットのお楽しみは才谷屋 龍一氏によるイラスト解説。BB戦士のプラモのように説明書に漫画が掲載され、それぞれの高校のメンバーがキットレビューしてくれるのです。つまり、これを読んでいただければおしまいなのです。はい。でも、実際に組んだライブな声も大事ですよね。だからフミテシ頑張ります!

▲このヌメ〜っとした曲面。見事なまでの鋳造車体。これを一度味わうと丸っこいシャーマンが大好きになっちゃう。かっこいいのよ

 シャーマンは多数のバリエーションが存在します。それに真摯に向き合ってきたのがアスカモデル。キットのランナーの中にも使用しない細かな差異を表現できるバリエーションパーツが収めれていて、シャーマン研究の歴史が樹脂化しています。全部組んだ後に、「この使わなかったパーツはなんだろう?」なんて眺めながら、色々なシャーマンをネットで検索してみるのも面白いです。

 M4A1 76mm砲搭載型は、アニメでは副隊長アリサの登場車として活躍します。実車は、強力なドイツ戦車に対抗すべく搭載された、76mm砲新型砲塔と、通常のM4の溶接車体とは異なる、丸みを帯びた鋳造車体となっているのが特徴です。

▲このキットの最大のお楽しみがナオミが言っている通り「可動式サスペンション」

 今回は本キット最大の特徴である可動式サスペンションをご紹介します。作る工程は多いのですが、完成するとボインボイン遊べるし、情景を作る時に段差を乗り越えたりする表現も可能となります。それを実現する特殊パーツが「発泡ゴムシート」です。

▲発泡ゴムシート! これをカットしてボギーの中に仕込むのじゃ!

 この黒い弾力あるシートを、説明書に記載されているサイズにカットします。カットしたもの3枚が標準。シャーマンは6つのボギーを組み立てるので、18枚カットして仕込むことになります。

▲ふふふ。これがアスカモデルのシャーマンよ。じっくり説明書を読もうぜ。接着しない箇所がほとんどなので、パーツをしっかりと押さえながら挟み込んでいきます
▲高さを固定できるプラ製のスペーサーパーツもあります。こちらはランナーからカットして、ボギー内部に接着するだけ

 シートをカットして仕込むのがしんどい……、もしくは動かなくて良いから高さを揃えたいって人のためにプラ性のスペーサーパーツもセットされています。これはランナーから切り出してボギーの中に接着するだけでおしまいです。

 「これを仕込めばお手軽に楽しめますね」なんて、いつもの感じで来ると思ったでしょ! フミテシを侮らないでね。俺にかかれば、発泡ゴムシートの切り出しなんて2分で終わるからね。俺はボインが大好きなのさ!!

▲指定のサイズに1枚カットしたら、あとはそれをガイドにハサミでザクザク切っていきます! 多少不揃いでも全く問題無し! 大体でもボギーの中には収まるよ〜〜

 律儀に1枚ずつなんて切らない! 中に収まれば良いのだから大体で良いのです。見えなくなるし。1枚しっかりとカットしたら、それをガイドにシートを切っていけばすぐ終わる! この切り出しさえ突破すれば、パーツの合いも最高なのでサクサクと可動式サスペンションが完成するのです。

▲まずこのサスペンションアームを12個作るのです!!

 押忍押忍!! 12個、どんとこい!! サスペンションアームを先に作ります。この後、先ほどの説明書で見せたボギー製作に入ります。

▲このようにカットした発泡ゴムシートをセット。3枚入れるとスペースにピッタリ。プラパーツだけでなく、シートが入る隙間のサイズも完璧。本当に各パーツがぴちぴち合います
▲接着!!! このボギーに、先ほど作ったサスペンションアームを取り付ければ完成です
▲こちらが素の状態。指で押してみると……
▲発泡ゴムシートと可動式のサスペンションアームによって、ぐっと沈み込みます
▲これを6ユニット作るのだ!! 最後の2個くらいになると空気を吸うように組める!

 これぞアスカモデルのシャーマンの足元を支える至高の可動式サスペンション!! 6個組むのに1時間半費やしました。でもそれだけの価値はあるし、ボインボイン押しているのも楽しい。各部もすごくシャープで、このディテールの良さが車両に取り付けられた時にさらに、戦車をカッコよく見せてくれます。シャーマンプラモの最高峰を、ぜひこの機会に楽しんでください! それでは、またお会いしましょう〜〜。

 〉プラッツ ガールズ&パンツァー 最終章 1/35 M4A1 シャーマン 76mm砲搭載型 サンダース大学付属高校 リニューアルパッケージ

フミテシ/nippper.com 副編集長

1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)

飛行機プラモに人間の限界を超えたディテールを/エデュアルドのMiG-15UTI

 チェコのエデュアルドというメーカーの飛行機模型は世界最高レベルのカッコよさ。ディテールもシャープだしパーツの合いはいいし、どれを掴んでも最近のは全部出来が良い。ソ連製ジェット戦闘機の最高傑作、MiG-15の複座型(人が前後に二人乗りになるやつ)なんかもバシッとプラモデルになっているのが偉い。

ホビコレ プラッツ 1/72 MiG-15 UTI (ミグ15複座型) フィンランド空軍

 で、もともとエデュアルドというのは色んな国の飛行機プラモデルをさらにかっこよくするためのパーツを売っていた会社で、いまもディテールアップパーツの販売をしながら自社でもプラモデルを作るようになった。エデュアルドが自分の会社の飛行機をさらにかっこよくするために自分でパーツを別売りしている、となればもうそれは完成度がバカ高いものができることが約束されているっちゅうわけです。

 それなりに値段はしますし細密に加工された金属板を切ったり折り曲げたりして貼り込んでいくのはかなり難しいけど、しかし自分の目と手で工作しろと言われたらまず不可能なレベルの緻密な造形が手に入る。もっと言えば、上の写真みたいに印刷済みで塗装しなくてもいいパーツすら用意されています。つまりエッチング製のディテールアップパーツはプラモデルの名人が作り込んだような精密感がお金さえ出せば得られるところにアドバンテージがあるんですよね。

 飛行機模型のみどころのひとつ、コクピットの計器盤です。プラモデルのパーツに極薄&印刷済みの金属板を二枚重ねで貼り込むだけでもう肉眼ではわからんくらいの超細かくて立体感のあるメーターが出現しました。自分の会社のプラモデルの設計データをもとに作っているから輪郭だってバッチリ合います。小指の爪くらいの面積にこれだけの情報量があれば誰でもびっくりするはず!

 シートベルトを追加したりフットレストをプラパーツから金属に置き換えたりと、難易度は場所ごとに違いますが、瞬間接着剤とよく切れるナイフとピンセット、そして拡大鏡があれば取り組めます。もしこれをゼロから自分でやってね、って言われたらまずできないし、シートベルトのステッチ(縫い目)なんか人間の手では描けない。用意されていることが超大事!

 コクピットまわりに用意されたエッチングパーツをガンガン貼り込んでいくと、こんなに緻密な景色になります。凝縮感がすごい。あとMiG-15は機首から吸い込んだ空気が左右に分かれて、パイロットの左右の壁がそのままダクトになっていることがわかってこれがめちゃくちゃに楽しい。さらに複座の機体は単座の機体の2倍コクピットを楽しめる。前後にボヨーンと長いコクピットを覆う風防がこれまた猛烈に未来的なフォルムでかっこよろしい。

 コクピットに風防と天蓋を取り付けると……あんなに一生懸命貼り込んだエッチングパーツはほとんど見えない。

 じつは私、「モデラーは見えないところまで作り込むのが楽しい生き物なのだ」みたいなのがあんまり得意じゃない。誰にでも「見えなくなるところを作りたい日」と「そうじゃない日」があるので、いつでも気分でそれを選べることこそが自由なんじゃないのかと思います。

  見えなくなってもちらっと感じられる精密感、というのもまあいいのですが、むしろエッチング製のディテールアップパーツって「すっげえ細かい工作を(じつは誰かがお膳立てしてくれているから)できる自分SUGEEE」ってなっている状態の脳汁ドバドバ具合がいいんじゃないかと思うんですよ。

 どこをどれくらいディテールアップしたいかによって3種類から選べるエデュアルドのMiG-15UTI用エッチングパーツ。人間の手技では追いつかないような細密な造形と塗装を手に入れられるという意味ではまさにプライスレスな存在。せっかくお金を出したから全部使わないと……とビビる必要はありません。どこまでやるかは己が決めて、使いたいものを選んで投入しましょう。プラスチックパーツを貼って塗るだけではたどり着けない(そして自分だけがニヤニヤできるような)めくるめくミクロの世界に誘ってくれます。みなさんも、ぜひ。

ホビコレ プラッツ 1/72 MiG-15 UTI (ミグ15複座型) フィンランド空軍 エッチングパーツ3種付

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

プラモデルにおける「ガイドのない塗り分け」/ロスマンズカラーを走り切れ!

 はー困った。ラリー仕様のポルシェ911RC RSを組んでいたら、ボディの上は白、腰に走る赤白金のラインより下はロスマンズブルー。デカールが入ってれば貼るだけですが、ロスマンズブルーは自分で塗り分けてちょ、という指示だ。あとから知ったんだけど、ボディの塗り分け用マスキングシートが入った特別仕様も売られているらしいのでそっちを買えば今回の記事は関係ないです。しかしレーシングカーや飛行機模型では「デカール入ってるけどその上と下(あるいは右と左)は自分で塗り分けてね!」というプラモは結構多い。どうするか。

 プラモデルがうまい友人に攻略法を聞いたのでやっていきます。まずデカールをコピーします。1枚だけだと失敗したときに悲しいし、1枚10円だから2〜3枚コピーしておきましょう。

 塗り分けラインの上に貼るデカールのコピーを極太マスキングテープの上にスティックのりで貼ります。スティックのりはとりあえず固定できればOK。ガッチリ貼らなくていいので、サーッとのりを塗ってマスキングテープの上でコピーしたデカールが動かなければ問題ありません。

 デカールのちょい内側をデザインナイフでカーっと切ります。塗り分けラインがデカールの中に収まっていればいい(塗り分けラインに1mmくらい上下にズレていてもその上からデカールを貼ればいいので……)。

 コピー用紙を剥がしたら自作のマスキングシートをフェンダーの前とかドアノブの高さを基準にして丁寧に貼ります。このとき「左右を厳密に対称にしないとヤバい」と思うかもしれませんが、人間はクルマの左右を同時に見ることができません。大幅にズレていなければ、目見当でだいたい左右対称になってりゃ大丈夫です。

 

 ロスマンズブルーを塗って、マスキングを剥がしました。塗り分けラインがだいぶバビバビに暴れましたが、この上からデカールを貼るので大丈夫です。大丈夫です、しか言ってないなさっきから。でも大丈夫の精神が超大事で、途中経過より結果が超大事。ちなみにロスマンズブルーはバルケッタの塗料がツヤも色味もドンピシャで最高です。いい時代だな〜。

 塗り分けラインの上にデカールを貼ったら、ハイかっこいい!デカールが透けないのが大前提ですけど、とりあえずデカールを境に色が切り替わるときはデカールをコピーしてマスキングシートを自作するとええぞ、という話でした。みなさんも、DO IT!

からぱた/nippper.com 編集長

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知波単のプラモデルに欠かせない「黄色いライン」にポスカを持って吶喊せよ!

 ガールズアンドパンツァー最終章の4話が10月6日公開されます! ということで、ウォームアップとして1/72九七式中戦車(旧砲塔)知波単学園を組み立て。小さいなかにぎっしり、でも組み立ては楽しく爆速で完了。

 となるとやることはひとつ!……と、いきなり塗料を握る前に、サッとプライマーを吹きましょう。網を埋めないように、ほんのひと吹きかけるだけ。金属パーツ、このサイズなら普通に塗っても触らなければ剥げることもないんですが、やっておいて損はありません。

 今回は日本戦車といえばこの色、という緑色、茶色、土地色のカラーを使っています。このパッケージはセット販売のものでしたが、現在はC522土地色、C525緑色、C526茶色とそれぞれ単品販売されています。C527陸軍カーキも砲身で使えますよ。

 で、じつは今回どの塗料にも明るいグレーを混ぜ込んで、色を明るく調整しています。1/72は面積も小さいので、実物に塗るような色だとちょっと濃すぎ。ついでに緑色もビンの色よりだいぶ明るくしています。グレーはは明るくしつつ色をちょっとくすませるので、白を入れて明るくするよりもマイルドな色の持ち上がりになるのがよいところです。

 1/72なのでバシバシ塗ればあっという間に迷彩もできます。ガルパンの戦車は劇中CGを載せた資料がたくさんあるのでどの面の迷彩もわかりやすいのですが、正確にしっかりやろうとすると大変!ここは雰囲気でざっくりにしましょう。サイズの小さな1/72だとなおのこと、エアブラシブラシのプッシュで全然結果も変わってくるので……。

 さて、日本戦車の前期迷彩でもおなじみの黄色い帯を描きましょう。使うのはポスカ。こうやって濃い色の上からダイレクトに描いてもちゃんと黄色が発色します。ペンタイプだし鮮やかな黄色だし、いいことばかり!

 ペンが入らないところは筆にとって、幅や細部の調整していきましょう。このあたりもCGを参考に、あくまで参考にやっていきましょう。CGの黄帯、実物の日本陸軍戦車よりもだいぶ幅が太いな……とか、改めて眺めると面白いところが見えるのも楽しいところですね。

 黄色の帯、ちょっとやりすぎた!というときは、ポスカなら水性ホビーカラーのうすめ液を使うと拭うことができます。乾いたらあらためてポスカで引いたりしましょう。使った筆の洗浄はうすめ液だけでなく水でもできます。

 デカールを貼って、金属色を塗ったりして、さあ完成です。組み立ても爆速なら、塗装も爆速。あっという間にチハが完成しました。1/72サイズにいろいろギッシリ詰まっていて、本当に楽しいキットです。

 だってこのサイズですよ……! 手のひらより小さい。単品の撮影だと、ここまで小さく見えないでしょう。1/35サイズと言っても通用しそうですが、じつはこのサイズ。そういえば、ガールズアンドパンツァーで戦車を気楽に作るようになって、完成品もモリモリ増えたんだよなぁ……なんて思い出したのでした。このチハはすぐ作れるから、塗装にも入りやすいし、迷彩をかければ塗った満足度も高いです。ガルパンキットを作っていれば、10月なんてあっという間に来るぞ~! 吶喊せよ~!

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

箱の中にあったのはミニチュア雑貨的優しさ。「エレール 1/43 ルノー 4CV」

 まるでアンティークショップで売っているミニチュア雑貨のような佇まいだった。リアルを目指した模型ではなく、手のひらに収まった時、お部屋にポンと置いた時になんとも言えない満足感を味わえる……そんな車模型と出会えた。

▲ブラインド越しの優しい光がとても似合う。丸くて可愛いフォルムは、一度握れば心をワクワクさせてくれる

 それは「エレール 1/43 ルノー 4CV」。1957年に誕生したフランスの模型メーカー・エレールが発売したプラモデルだ。今年から静岡の模型メーカー・プラッツが取り扱うことが決まり、2023年10月以降から順次模型店にエレールのアイテムが並ぶそうだ。

▲「これだけのパーツがあれば車の形になる」という最低限の要素しかない
▲説明書もシンプル。ざらっとした紙の質感もまた良いのだ

 この車は第二次世界大戦後のフランスで初のミリオンセラーとなり、フランスの大衆車として愛された車だ。実際に模型で触れてみると、シンプルに可愛くてお部屋に飾りたいなと思わせてくれる。また、このキットのシンプルさや佇まいは、なんの躊躇もなく「そのまま組んで、ポンと部屋に置いて」ミニチュア雑貨的に楽しむ優しさを、僕達に与えてくれる。

▲基本的なパーツ構成は、いたって普通の車模型。極限までシンプル。窓のクリアーパーツなども付属する。個人的には、無い方がアンティークミニチュア雑貨ぽくて良いなと思い、取り付けていない

 模型店には精密を目指したもの、かっこいいロボット、人のプラモなどさまざまなモチーフがプラスチックになって販売されている。その同じ場所には、この「エレール ルノー 4CV」のような、雑貨的佇まいを持った模型もいる。模型にはいろんな味がある。煌めく新商品だけでなく、こんな模型たちも同じ棚にいると思って模型店の棚を見てみると、いつもと違った楽しみができるのだ。

フミテシ/nippper.com 副編集長

1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)

小さくたってぎっしりのコダワリ、ガルパン10周年を知波単のチハタンで祝おう!

 ガールズアンドパンツァー最終章の4話が10月6日に公開されるぞ~~! ……ということで、そろそろガルパンプラモ筋を温めなおす季節が来ました。そこでウォームアップとして、手軽だけど歯ごたえもあるガルパンキットをチョイスしました。1/72劇場版九七式中戦車(旧砲塔)知波単学園ですよ。いまさらだけど学校名がはっちゃけてるな……。

ホビコレ プラッツ ガールズ&パンツァー 劇場版 1/72 九七式中戦車 知波単学園 アクリルスタンド付属

 1/72なので、中身は超シンプル。パーツは全部でこれだけです。大きな1枚のランナー、車体が上下でふたつ、履帯、エッチングパーツ。これだけならサッと組めそうではないですか。奥の西隊長と玉田が描かれたアクリルスタンドは10周年記念キットの特別版で、パッケージのシールが目印です。

 この1枚ランナーにもだいぶ工夫が凝らされていて、誘導輪や一部転輪が完成状態でワクにくっついています。2枚重ねる手間を省き、ホイールがピッタリ揃う一石二鳥の配置というわけです。

 車体も足周りのパーツをまとめた構成になっています。これ、全長で7㎝ぐらいのパーツなんですよ。ディテールぎっしりで、しかも車体の裏で見えない部分まできっちりやっていて……まさか、ひっくり返ってやられてるシーンを作れってことなのか!?

 ということで、足周りを爆速で完成させる図。全部の転輪が接地するように指で押さえて確認しているところです。パーツが小さいので、組み立てよりパーツ捜索時間が長くならないように、落としてもなくさない立ち回りが重要です。

 砲塔もビューンですよ。飛ぶような速さで完成。そして見てください、砲身にちゃんと穴が開いてるでしょう。後部の機銃にいたるまで、銃身は開口されているのです。銃の先端には穴が開いているべき、というメーカーの志がここにあるんだぜ。

 エッチングパーツと履帯の接着にはは瞬間接着剤を使いましょう。この排気管ガードのパーツの曲げは直径4mm前後の軸に押し付ければいい感じになりますよ。

 アクリルスタンドも組み立てて、できたぞ~。パネルの西隊長と玉田はおおよそ1/35サイズなので、完成したチハがラジコンとかそういう類に見えるサイズ。チハたんかわいい。
 手のひらサイズよりさらに小さい、パーツがまとまっていて爆速で完成できる、でもそこそこ組んだぞという気持ちになれる、そして満足感も高い。ガルパンへのギアが入る! いいキットですよ。みなさんもガルパンプラモデルを組みながら、10月までワクワクして過ごしていきましょう。

ホビコレ プラッツ ガールズ&パンツァー 劇場版 1/72 九七式中戦車 知波単学園 アクリルスタンド付属

けんたろう

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ロスマンズカラーが眩しい/ラリーを走るポルシェのプラモデル

 ここだけ見ると何の変哲もないポルシェ911のボディ。でもこれはラリーでの勝利を目指して開発された特別なクルマで、WRC、ヨーロッパラリー選手権、さらに中東ラリー選手権でめちゃくちゃ活躍したんです……って言われると俄然作りたくなってきます。セブン−イレブンの軒先に「特別な海苔を使ったおにぎりです」という暖簾が掲げられていると普段食べ慣れているシャケのおにぎりがなんだか輝いて見えるのと同じですね。

 特徴的なリアの水平対向6気筒エンジンがシャーシと一体化しているのを見ればわかるとおり、パーツはずいぶん少なくまとめられています。チマチマと実車の構造を追いかけるプラモじゃなくて、911RC RSの基本的なスタイリングと「ラリーカーとしての最低限の特徴」がうまくパッケージングされています。

 ロールケージに包み込まれたコクピットにはシートが2つ。クルマを操るドライバーとペースノートを読み上げるナビゲーターが阿吽の呼吸で過酷なオフロードを駆け抜けていきます。シート背面のCFRP模様は別売りのディテールアップパーツセットに入っています。ペロッとパーツに乗せて位置を決めたらグッドスマイルレーシングの「剛力軟化剤」を塗ってひと晩放置しておけばシートの複雑な凹凸に馴染んでくれます。いいデカールだ!

 「組み立てが確実で、塗らなくてもデカール貼ればほぼハコの絵とおんなじものができる!」と私がいつもベタ褒めしているプラッツ/NuNu製のカーモデルですが、今作はワイパーが白いパーツになっています。流石にこれは黒く塗りたい。いやまてよ、このマシンの特徴的なロスマンズカラーはデカールで完全再現されているのかな?とデカールをしげしげ眺めてみますが、どう考えても青の面積が少ないぜ……。

▲こちらはロスマンズカラーを彷彿とさせるカラーを纏った現行モデルの911 Dakar(3099万円!)

 お、白いボディに対して青は自分で塗らなければいけないのね。でもこんな曲線のストライプに合わせて青を塗るのはちょっと難しそう。ここから先はモデラーに課せられた宿題というわけです。以前の自分だったら「無理だぁ」と思っていたところですが、私にいい考えがある。それは後日チャレンジすることとして、まずはクルマの形になるところまで組んでモチベーションを上げておきます。

 いや、まだポルシェ911だな……。レーシーな雰囲気がバコンと加わるロスマンズカラーをクリアする勇気を持ったものだけが上がれるポディウムがこの先に待っています。「われこそは!」というラリー好きの皆さん、ちょっと変わり種のポルシェ製マシン、わたしと一緒に完成させましょう。きっとコレクション新たな砂漠の風が吹きますよ!

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

トヨタ ランドクルーザーのプラモで夏の冒険へGO!!「プラッツ 1/24 トヨタ ランドクルーザー BJ44」

▲この箱の中には大冒険のワクワクとドキドキが詰まってる!! トヨタのランクルの格好良さを楽しもうぜ

プラッツ 1/24 トヨタ ランドクルーザー BJ-44(ソフトトップ/ハードトップ) ホビコレ限定サーフボード付き

 8月2日にトヨタから新型の「ランドクルーザー250」が発表され、多くのファンから注目を集めています。ランドクルーザーはその見た目からも冒険心を駆り立てられる姿で、なんだか夏にもピッタリ。今回ご紹介する「プラッツ 1/24 トヨタ ランドクルーザー BJ-44(ソフトトップ/ハードトップ)」は、そんな気分を盛り上げる素敵なプラモです。

▲こちらもランドクルーザーの40系の中のFJ43をモチーフにしていると思われる軍用車両プラモ
▲ソフトトップ、ハードトップが選択できます。そのため上と後ろ半分が無いオープントップのボディがゴロンと入っています。これだけでタフですね!!

 ボディのパーツだけでランドクルーザーのタフさが手に取れます。ボディと一体で彫刻されたヒンジなどの各部ディテールは、濃いめに彫刻されていてとってもマッチョ。フロントのTOYOTAの刻印もバシッと決まっています。

▲本キットの大トロパーツ。ソフトトップ(左)とハードトップ(右)。それぞれ窓の形状も違うのでサイドパーツは異なった形状になっています。またソフトはつや消し成型、ハードは光沢成型になっているのも素敵です

 トップを変えることで大きく印象が変わるのもランドクルーザーの良いところ。ソフトはよりアウトドアな印象になり、ハードはさらにマッシブな車へと変わります。形状の違いだけでなく、艶感も変えているので、ボディだけ塗って、トップは成型色を活かした仕上げなんてのも面白いでしょう(その逆ももちろんあり! ボディを白成型色にしてトップをお好きな色でドレスアップ!)。

▲足回りはある程度一体化してくれているのですが、接続に「焼止め」という技法を使います。下のリンクをチェックしてチャレンジしてね
▲戦車模型で登場するジープなどでもみたことがあるような構成。そう言った車両が戦地のような不整地路面で見せた優れた走破性や機動力の高さといったものが、この車にも受け継がれたんだな〜と感じ取れます
▲後部座席は選択式。俺は全部荷物置きにするぜ!! って人はつけなくても良いでしょう。あなたのワイルドハートに導かれてください

 このキット、足回りの焼止め(しかも初手から来ます)だけ突破すれば、後はスルスル〜って組めちゃいます。ステアリングが切れなくても良いなら無視してプラモ用接着剤で貼ってもOKです。

 パーツもおおらかで、良い意味でワイルドなプラモ。これだけタフな外見の車を、ゴリゴリ組めるのでめっちゃ楽しいです。

▲ソフトでも♪
▲ハードでも♪(コンタクトレンズを以下略です〜)

 いや〜。どちらもかっこいい。作る前はソフト派だったのですが、作ってみたらハードの無機質なかっこよさにやられました。トップは接着しなければ交換もできるので、より擦り合わせをしてお好みで交換できるようにしても楽しいでしょう!

▲このキット「ホビコレ」で購入すると、サーフボード&ルーフキャリアパーツが入ってきます。海への冒険にも行けまっせ!

 70年を超えるランドクルーザーの歴史の中でも、40系のランドクルーザーは世界に輸出され、様々な地域で使用され続けている人気モデル。作ってみると、タフさとレトロ感が絶妙にマッチしたかっこよさを体感できます。塗らないで、組むだけでも白と黒のツートンになって、かっこいい立体が完成しますので、臆せずバシバシパーツを貼って欲しいプラモデルです。ランドクルーザーのプラモはきっと、そう言ったあなたの冒険心を待っていると思います。ぜひあなただけのランドクルーザーを、このプラモで作ってください。

プラッツ 1/24 トヨタ ランドクルーザー BJ-44(ソフトトップ/ハードトップ) ホビコレ限定サーフボード付き

フミテシ/nippper.com 副編集長

1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)

「TAKE IT EASY」な気分で名車と傑作カラーに触れられる大らかなプラモデル。イタレリ 1/24 ポルシェ 911 カレラ RSR ターボ

▲海外キットのシルバーパーツにはなんとも言えないグルーヴがある。これがかっこいいのだ!!

ホビコレ イタレリ 1/24 ポルシェ 911 カレラ RSR ターボ (日本語説明書付属)

 箱に「イージーキット」、「スーパーデカールシート」って謳われたプラモデル。「接着剤を使用しません」「工具は必要ありません」「初心者マーク」なんかよりも、圧倒的に手に取りたくなる、触ってみたくなる謳い文句だと思っています。そんなことが箱に描かれた「イタレリ 1/24 ポルシェ 911 カレラ RSRターボ」が、静岡のホビーメーカー・プラッツにより国内で販売されました。イタリアメーカーのプラモなので、プラッツが日本語説明書を編集してセットしたものとなっています。

▲箱が超かっこいい。右下にイージーキットとありますね

 このキット、イージーと言うより「TAKE IT EASY」(気楽にやりなよ)なプラモです。箱の中のもので気楽に作って形にしちゃってよと言うメッセージがすごい詰まっています。組み立てには接着剤を使用しますが、パーツ数がとっても少なく、あっという間に形になります。細部の表現とかへのこだわりはほぼ無し。名車である911のデザインのかっこよさ、そして数ある車のマーキングの中でも超おしゃれな「マルティニカラー」をデカールで纏わせて、サクッと楽しむプラモなのです。

▲スーパーデカールシートの本体・イタリアのデカールメーカー「カルトグラフ製」の発色バキバキのマルティニデカールがセットされます

 銀のボディにこのデカールを貼れば、ほぼ実車の雰囲気を味わえる仕様。しかもデカールの美しさがやばいです。これを見たら、キットのオススメ通りに、気楽に楽しんでみようと思えてきます。そして僕は、このキットで人生初の「マルティニカラー」へとチャレンジするのでした。

▲日本語説明書で、親切に解説。海外キットでも、これなら安心して作れます。プラッツありがとう!
▲パーツ数はこれだけ。トイライクな仕様だけど、形はしっかりと911になるというコンセプトです

 デカールを貼るだけと言いますが、マルティニカラーはラインを揃えたり、曲面に馴染ませたりと、なかなかに大変。でもね、貼ってる途中にズレティニしてもキレティニしても問題無しですよ。だって気楽に楽しんでほしいプラモなのですから。そして、ズレたりボコボコになったって大丈夫。完走してちょっと離れてみればマルティニカラーの911にしか見えませんから。

▲ズレティニ〜〜〜キレティニ〜〜。マルティニカラーデカールへの挑戦!! そしてまたひとつ、僕は大人になったのだ!!
▲離して見たら、わからない!! そしてマルティニカラーのポルシェ911が手元にある喜び!!

 初手でつまづいていたところが完走する頃にはスムーズにできるようになっている……もし2周目に行けるのなら、僕はマルティニカラーともっとお友達になれると思います。デカールの質は本当に良くて、この写真も貼りっぱなし。上からコートもしていません。それでこの発色になります。マークソフター、マークセッターを使用して思いっきり密着させていきましたが、デカールの溶剤耐性もしっかりとしていて全く問題無し。一枚貼るたびに自分が成長しているような感覚を楽しませてくれます。大半のラインはずれましたが、1箇所でもピタってあった時「この感覚だ!! 次はこれを目指す」みたいなジャンプ漫画の主人公にでもなったようなテンションの高まりに達するのです。

▲デカールの貼る順番を間違えて頭を抱えたことが何度もあります。ですので、大きくこのように指示されているのが本当にありがたい
▲ワオ! ズレティニカラー!! でもデカールには、予備の赤ラインが入っています。適当なサイズに切り出し、隙間を埋めるように貼って修正できます。僕はやってません

 ボディも成型色を活かしているから、塗膜のことなんて考えずにマークセッターやマークソフターをじゃぶじゃぶ使えます。これぞまさにイージーな取り扱いです。海外プラのメラメラ〜としたシルバーの上にバキバキに発色したマルティニカラーのデカールが貼られるだけで、めちゃくちゃかっこよい車のプラモが爆誕するのです。

▲塗装は一切無し。デカールを貼っただけ。こうやって棚に並べて離れて見ている分には最高です

 形と色を超スピードで楽しめるキットに、スーパーデカールがセットされたことで「気楽に楽しんでみるか」と思わせてくれるイージーキット。そして気楽に取り組んでみた人には、デカール遊びの楽しさ、難しさ、できた時の嬉しさで満腹になれるご褒美も待っています。イタリアのメーカーが提示する「イージー」にぜひともこのキットで触れてください。

ホビコレ イタレリ 1/24 ポルシェ 911 カレラ RSR ターボ (日本語説明書付属)

フミテシ/nippper.com 副編集長

1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)

「カップ焼きそばのふりかけ」とプラモデルの関係/プラッツのFS-T2改。

 プラモデルにとってデカールとは何か。それはカップ焼きそばの「ふりかけ」である。 キットという麺に塗装という味付けを施せば焼きそばとして成立するが、それは本当にあなたが求めていた焼きそばの姿だろうか? 否、デカールという「ふりかけ」をトッピングすることで、見た目や香りもソース一辺倒だった“素材”が華やかとなり、香ばしさが増す。

 これが私たちが食べたかったカップ焼きそばだ。 そして、世の中にはカップ焼きそばの「ふりかけ」を愛してやまない人々が多い(多分…)あの小さな1袋じゃたりない、できれば2袋、いや3袋は欲しい! そんな「ふりかけ愛好家」のあなたにおすすめするキットがプラッツ1/72 FS-T2改だ。

 「どこからでも切れます」と書いてあるのに切れない小袋と同じく、どこからカットしていいか分からないデカールシート、力加減を誤って袋から中身が飛び散ってしまわぬよう、カットにも細心の注意が必要だ。 すぐに食べたい気持ちは分かるが、最後の最後まで慎重に。

 みんな大好き、”REMOVE BEFORE FLHGIT”タグも付いてくる。紅しょうがを彷彿とさせる鮮やかな赤。独特で刺激的な味わいは良いアクセントになる一方で苦手な方もいらっしゃるだろう。そんな方でも”REMOVE BEFORE EAT”して美味しいところだけ味わおう。

 よかろう、そのデカール、存分に味わってやろうじゃないか。なお、美味しく食すには箸(ピンセット)にも相応の投資が必要だ。

 「ふりかけ」が青ノリだけじゃつまらない。食材が多い方が良いに決まってる。そんなあなたも大満足のエクストラなデカールたち。ワッペンを模したデザインに装備試験時のマーキング、インテークカバー用のデカールまで、大満足の数々。

 ふりかけもデカールも味わい方は人それぞれ、その深い関係性に想いを馳せながらカップ焼きそばもプラモデルも楽しんでいきたい。

iro_enpitsu

1988年生まれ。写真、カメラの趣味を楽しみつつ、プラモデルという名の被写体と出会い、今日もプラモ映えしそうな光源を求め歩く。

あなたのスキルに合わせてみごとな銀の花が咲く/nunu アウディA4 BTCC

 全部シルバーのプラスチックでできたアウディA4 BTCC。しかしnunuブランドのプラモデルは「組み味抜群&デカールがパーフェクト」というのが特徴。別売りのディテールアップパーツセットを買えば達人のような塗装テクがなくてもすごく実感のあるカーモデルが完成するんです。ホントだよ。塗装してもOKだし、塗装しなくてもかなーり満足できる仕上がりになります。

 薄くて発色良くて余白がほとんどない至高のデカールはもちろん、窓のフチの黒いところを塗るためのマスキングシートも付属。カーモデルの難しいところ、完璧にフォローしてくれています。デカール貼るの苦手って人でも大丈夫です。同じ品質のデカールがどれくらい上質なのかはBEEMAXブランドの製品を紹介した過去記事を参照してください。すごいんだぞ。

 さて、このキットの大トロはズバリ、車体前方のアンダーパネル(裏返さないと見えないけど!)です。NACAダクトの大家族。大小11個の不思議な形をした開口部がズラリならんでいます。空力的な抵抗を極限まで減らしながら効率的に空気を取り入れるNACAダクトは戦闘機やレーシングカーでよく見られるディテールですが、こんなに密集してるの見たことないよ。NACAダクト好きにはたまりませんねコレ。

 四輪駆動のラリーカーで強さを発揮したアウディがオンロードのレースでも四輪駆動にすれば速いんじゃないの?と持ち込んだA4。流石にツーリングカーに四輪駆動は重たくなるしそもそも二輪駆動でも充分速いっしょ……という先入観を覆してフツーにチャンピオンを獲得します。上に見えてるドライブシャフトがその証。

 ブレーキ周りを見ても分かる通り全体的にはパーツは少なめにまとめられているので組み立てで心が疲れてしまうこともありません。内装の一部が黒い以外はプラスチックのシルバーをそのまま活かしても大丈夫。ちなみにディテールアップパーツセットに入っているデカールで内装の黒い部分とかカーボンコンポジットの網目なんかは大部分が補えます。

 シルバーのボディに直接デカールを貼ってもこの仕上がり。巨大なアウディのロゴが車体の側面からリアに回り込むデザインも眼に鮮やか。パーツ構成、デカール、ディテールアップパーツ(というか塗るのがめんどくさい人用のサポートパーツだな!)の三段構えによって、作り手のスキルレベルがどこにあっても「できることをやれば結構な見た目のものが完成しますよ」というきわめて懐の深い仕様になっています。作ろうぜ!

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

イタレリの1/56パンターは「手頃なサイズと快適な組み味」のグッドプラモデルだ!

 こんにちは、筒アニキです。下半身が筒になっちゃったよタハハ……ということで、イタレリから発売されている1/56スケールのパンターがめっちゃいいという話をします。1/35じゃなくて1/48じゃなくて1/56。これがいい大きさなんです。手のひらでむんずと掴めるサイズ。つまりこれ、机上でウォーゲームをやるのに使われるモデルなんですが、普通にプラモデルとして売られているんだからモデラーがプラモデルとして作ってもいいんですね。ということで作りましょう。リンク置いときます。

ホビコレ イタレリ 1/56 WW.II ドイツ軍 Sd. Kfz. 171 パンターA型

 はい、いい景色ですね。パーツは2枚の枠に収まっていて、これは勝ったも同然というか「なるほど、絶対完成させられる気がする!」となるじゃないですか。プラモデルというのは「全体像が予想できないほど細かいパーツが入っていて全然できる気がしない」と「箱開けた瞬間もうほとんどできているからオレがやることが残ってないじゃん」の間に気持ちいい塩梅があるという超贅沢な趣味です。このパンターは、「やることが適度に残っていますね!」というバナナのいちばん美味い状態みたいなプラモだと思いますねオレは。

 だってほら、互い違いになった転輪が全部くっついた状態でひとつのパーツになってるわけですよ。ミニチュアを使ったゲームって、「ある程度リアルなカタチの立体物で遊びたいけどそのためのミニチュアを延々作っているとゲームができない」というジレンマを抱えているので、「爆速でカッコいいものができる」ということにいつだって本気でいろんな工夫をしている印象があります(シタデルカラーが速攻で発色して速攻で乾くのもそう!)。「こんなのリアルじゃないやい!」という人は、他のスケールに旅立てばホンモノどおり転輪を一枚ずつ貼っていくプラモがいくらでも売られていますからそちらをどうぞ。でもね、オレは知っている。こんな現実離れした造形でも、完成したらけっこうカッコよく見えてしまうことを……。

 さらに履帯(=キャタピラ)も上と下がズバーっと一体になっていてこれをガッチャンコするだけでオッケーというきわめておおらかな雰囲気です。当然ながら金型の都合で車体の前後方向にあたる部分はディテールもへったくれもない感じになっていますが、ギリギリまで頑張っていますし天面のディテールは結構シャープで立体感もあります。いいんですよ1mくらい離れて眺めたら超かっこいいから。「こんなのリアルじゃないやい!」という(以下略)。

 彫刻的な制約のない車体上面のディテールを御覧くださいよ。いいじゃないっすか。味濃いめの麺硬め。側面装甲には吸着地雷から身を守るためのギザギザ(ワッフルパターンのツィメリットコーティング)でアブラマシマシです。濃厚ですね。コンパクトに見える身体に濃い表情と強さを秘めた岡田准一みたいな彫刻です。みんなも『ファブル』を読もう。

 砲塔とか車体後面にもコーティングのディテールが入っていて、ジャーマングレーのプラスチックのおかげで陰影が強いのなんの。概してゲート(ワクとパーツを繋ぐところ)の跡が組み立てに影響しがちな設計なので、組むときはデザインナイフでキレイに削いでから接着しましょう。ニッパー、カッター、流し込み系速乾タイプの接着剤があればモリモリ組めます。

 足回りを組んだところ(このカタマリでたった5パーツですよ!)を一応お見せしますが、案外転輪に見えるし履帯に見えるでしょ。塗装して影になるところにビシッと暗い色を入れればより「別パーツ感」が出るし、そのへんは模型に自信ニキの腕の見せ所ってもんです。人間はこういう縛りがあるときのほうがいろんなアイディアが出るし工夫も映えるんだぜ。

▲冒頭でご挨拶差し上げた筒アニキを最後にキューポラにブチ込めば完成!

 1/35のヤークトパンターと比較すると、こんな感じのサイズ感。1/72だとサイズはお手頃でもフィギュアの造形に限界があったり、細部のパーツも小さくなりすぎて工作がかえって難しい……ということがままありますが、1/56なら小さすぎるパーツもほとんどないし、適度に一体化されているといろんな車輌をゴンゴン集めてカタチを楽しんだりいろんな塗装にチャレンジしたりと多様なアプローチにも優しく応えてくれます。なにより自分のモチベーションが終わる前に完成するいい湯加減がええのよ。

 完成して写真を撮ればこれが大きいんだか小さいんだか判別する手がかりはほとんどなくなり、「え、なんかかっこいい戦車ができたじゃん」という印象だけが残ります。1/56の戦車模型はイタレリやルビコンモデルから大量に発売されていて、意外と広い世界が広がっています。見つけたらぜひとも手に入れて、その爽快な組み味を感じてください。そんじゃまた。

ホビコレ イタレリ 1/56 WW.II ドイツ軍 Sd. Kfz. 171 パンターA型

からぱた/nippper.com 編集長

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大きすぎず小さすぎない、1/100スケールで楽しむプラッツのT-4。

 飛行機のプラモデルというのは1/48や1/72がメジャーな縮尺。1/32だと「でけぇな!」という気合の入ったステーキみたいな感じで、1/144だと「小さいね」というスナック感覚で味わえる大きさ。そこにフワリと割って入るのが1/100スケールです。ガンプラだとマスターグレードがあるね。それからタミヤではミニジェットシリーズという1/100の飛行機プラモがいまでも買えます。

 このスケールは1/144よりほんの少し大きい感じで、食べごたえと気楽さが同居してるのがいいのよ。で、これはプラッツから発売されているT-4のプラモデル。航空自衛隊の練習機で、「ブルーインパルスのアレ」と言うと通りがいいでしょう。

ホビコレ プラッツ 1/100 航空自衛隊 練習機 T-4 千歳基地 第2航空団 新マーク

 パッケージを開けるとほんのり紫がかったホワイトのパーツがお出まし。見たところ彫刻の印象もフォルムのメリハリもかなりいい感じです。T-4ってこんなにグラマラスだっけ?と思っちゃう。パーツ数も少ないし、これならすぐできそうだね〜ってみんなが思える分割。

 T-4って「練習機」という位置づけのわりにけっこう難しいカタチをしているんです(いや、練習機だから簡単なカタチをしていなければいけないというルールはないんだけどね)。プラッツ以外だとハセガワのプラモとかホビーボスのプラモがありますが、どれも「このカタチをどうすればプラモデルにできるかな……」と少し悩みながら挑んでいることが伝わってきます。パネルラインはもう少し細いほうがスケール的には分相応なのでしょうが、小さく作ってメリハリをつけるならこれくらい強い表現なのがいい場合もありますな。オレは好き。

 キットとしては比較的シンプルに纏めてあるし、基本的には接着剤を使わなくてもハメコミで組み立てられる仕様です。しかーし、デカールはバッキバキの本気。イタリアの名門、カルトグラフ製の超精密な印刷のものが入っていて、芥子粒のような注意書きまでほぼ完全に網羅しています。これ貼るの大変だわさ〜。でも貼れたらヒーロー。デカールはいつもそういう存在です。

 組んでみるとパーツの合いはSO-SOと言った感じ。千歳基地所属のグレーの機体なので、プラスチックパーツの色もグレーだったら最高だな……。白だとどうしても塗らないと落ち着かないし、パーツのメリハリも視認しづらい。それから、このサイズだとキャノピー(窓)のフレームを塗るのがけっこうしんどい。キットのファーストインプレッションが軽やかなので、作り方もなんとなく見えるようにマスキングのテンプレートを用意してくれるともっと評価が上がると思いました。

 ちなみにプラッツの1/100 T-4は他の基地の所属機や特別仕様機、ブルーインパルスの機体もあるから、たくさん作って並べるたい人にはオススメできます。あとはこの生真面目なキット内容にどこまで付き合うかがユーザーの選択でしょう。そんじゃまた。

ホビコレ プラッツ 1/100 航空自衛隊 練習機 T-4 千歳基地 第2航空団 新マーク

からぱた/nippper.com 編集長

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ライムグリーンの成型色が嬉しいプラモデル/amt トヨタ スープラ 1995

 amt 1/25スープラというプラモデルの箱を開けると、ライムグリーンの成型色が目に飛び込んでくる。
 プラモデルの箱をあけたらプラスチックに色がついている。それは素晴らしいこと。自由に色を付けて成型できるのはプラスチックのイイところ。だから、木製の家具を作るときに職人が木目を活かすように、プラスチックに色がついたプラモデルは成型色を活かしたいなと思う。

 とはいえ内装のすべてがライムグリーンの車は目がちかちかして運転しづらいと思うので黒で塗っていく。マットな黒がより一層ライムグリーンの鮮やかさを引き立てる。

ホビコレ AMT 1/25 トヨタ スープラ 1995

 翻ってホンモノの車の話。最近は街中を走る車にマットな塗装のものが増えた気がする。車っていうとツヤツヤでテカテカのモノがカッコいいみたいなイメージがあったが最近の車は塗装が凝っていて、マットなもの、多層構造の塗装やパールで一見すると粒子が見えないようなものなどいろいろある。ホンモノの車がいろいろあるなら、それをモチーフとして縮小したプラモデルもいろいろな塗装をしてみたくなる。

 今回はクレオスのクリスタルカラー、ターコイズグリーンを使ってみる。これを使うと下地の色味はそのままにパールの煌びやかな感じをプラスできる。角度を変えるとパールが偏光して色味を変えるのが写真ではなかなか伝えられないのが残念ではあるが、メタリックとは違う粒子の細かさは伝わると思う。

 光の反射の仕方も特徴的で面白い。例えばプラモデルにクリアーのスプレーをかけると、ワックスをかけた本物の車のようにツヤツヤにすることが出来る。その時の光の反射は直線的なハイライトが入るが、クリスタルカラーをかけると少しボヤッとしたハイライトが走る。マットな塗装と似た雰囲気ながら派手な感じがしていい。

 ツヤツヤに塗装したプラモデルもいいのだが、細かく入る反射がうるさく感じるときもある。プラモデルの成型色やカタチをそのまま味わいたいときのひとつの選択肢として「クリスタルカラーはアリ」と思わせてくれた魅力的なライムグリーンに感謝したい。

ホビコレ AMT 1/25 トヨタ スープラ 1995

もとぴ

東京在住。世界を理解するための糸口としてプラモデルを制作中。趣味の記録や思索のためにnoteも書いています。

カーモデルを作る喜びを、すべての人と分かち合う/amt 1996マスタングGT

 パーツ点数32。プラモデルとしては破格の少なさだけど、ボディとタイヤと人間が乗るところがあれば、それは紛れもなくカーモデルに違いない。しかもパーツ同士は接着剤を使わずにスパスパはめ込んで組み立てられる。模しているのは4代目のフォード・マスタング……の、ホットウィール製ミニカーだ。

ホビコレ AMT 1/25 ホットウィール 1996 フォード マスタング GT スナップキット

 安くて小さかろうと、少年にとって宝石のような輝きを持つミニカーから、すこしアニキな遊びとしてのプラモデルへの架け橋。なるべく手数少なく、特殊な工具を使わずにカタチにできるよう、設計はシンプルに。だからと言って、amtのスタッフは手を抜かない。32のパーツに、入れられるだけのリアリティをしっかりと刻み込んでいる。ワンパーツのシャーシにだって、いまにも動きそうなサスペンションと、後からくっつけたかのように立体的なエキゾースト。

 「プラモデルとは、実車同様の構造をリアルに再現すればするほど真に迫るものだ」……という価値観では、このキットを生み出すことができないはずだ。年長者向けの精緻なモデルを作りながら、もう片方の手でズバッと考えをステップバックさせ、シンプルな構成でクルマの魅力を削ぎ落とさずに表現するというクレバーな取捨選択。進化とか退化という軸だけでは決して掬いきれない、「自動車というメカとカルチャーの真髄を、どんな人にも届ける」というアメリカンカープラモならではのプライドがにじみ出るようだ。

 エンジンレスだけど、メッキのホイールがラグジュアリーな輝きを放つ。アメリカンカープラモ伝統の「サイドウインドウの省略」も、これが「ホンモノのプラモデルであること」をウインクしながら教えてくれる(このボディ形状ならサイドウインドウまでパーツ化することなど造作もなかったはずだ)。
 自分の手のひらでひんやりとしていたホットウィールが、大きくシャープなプラスチックになって、オトナの仲間入りをしたような気持ちになる……。そんな瞬間が、ほんとうにうまく演出されている。

 ボディはメタリックの粒子が練り込まれたレッドのプラスチック。マーキングは2種から選べ、さらに水転写デカールとフィルムシールのどちらを使うかも選べる。バキバキ組んでベタベタ貼るだけのカスタマーにも、これを子供向けだと鼻で笑わず、キリッと仕上げたいカスタマーにもちゃんと視線を合わせた構成だ。どちらを選んでもボディサイドに燦然と輝くホットウィールのロゴは、誰もがカーモデルに親しんだ原風景へと誘ってくれる。

  ボディの左サイドにはシールを貼った。カットラインは正確無比。ホワイトはやや透けるが、発色良好。ただしフィルムの柔軟性は乏しく、気泡を巻き込まずに貼るのには少々難儀する。もちろん、いちはやく完成させたい製作意欲旺盛な年少モデラーはそんなこと気にしないだろう。もし気になったら、その先にあるステップを駆け上がる準備ができた証拠だ。

 ボディの右サイドには水転写デカールを試した。アメリカンカープラモは往々にしてデカールが異様に硬いのだが、本キットもそれはご多分に漏れず。適切なソフターやセッターを使ってボディの深い彫刻に馴染ませるなり、スジ彫りに従ってカットするなど、あなたの腕の見せどころになるはずだ。

 おなじく色分け済み、スナップタイト仕様のアオシマ「ザ・スナップ」シリーズと並べて眺める。パーツをここまで減らしても、クルマの持つ魅力はひとつもスポイルされていないと感じる。アオシマが初心者マークを付けて売るプラモデルに1/32スケールを採用しているのは価格的な意味合いもあるだろうけど、どこかで「ホンモノのカーモデルとの線引き」みたいな心理が働いているのかもしれない。反面、amtのマスタングは堂々1/25スケールである。「オレはカーモデルを完成させたんだぜ」と友達や両親に報告する誇らしさを考えると、たとえば日本にも1/24スケールのノービス向けプラモがあっていいはずではないか。

ホビコレ AMT 1/25 ホットウィール 1996 フォード マスタング GT スナップキット

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半世紀前の新車を半世紀前の新キットで味わう/イタレリのVWゴルフ

 VWゴルフ、いい車なのでプラモデルがいろんなメーカーからたくさん発売されています。今回手に入れたのはイタレリブランドで再発された1/24モデル。ベルリン警察のパトカー仕様です。日本でパトカーといえば白黒のイメージですが、ドイツでは最近まで白や銀に緑のアクセントがそのシンボルだったみたい。

>ホビコレ イタレリ 1/24 フォルクスワーゲン ゴルフ パトカー仕様

 エンジンや足回りはムニュムニュした彫刻ですが実直にパーツ化されていて、やりたいことに技術が追いついていない感じがします。それもそのはず、調べたらこのプラモは1970年代のエッシー製。エッシーはイタリアにあったプラモメーカーで、アイテムによってはかなりシャキっとしたものもあるんですが、こんなふうにちょっとノスタルジックな出来栄えのプラモも見られます。

 組んでみるとこれがまあ大変。パーツの取付位置はあやふやだし、水平垂直に貼るのがとても困難。何度もパーツを合わせたり外したりしながら「ここが正しい位置なんだろうな」というのを割り出す必要があります。しかし「ゴルフという革新的な大衆車が登場したことを、プラモデルで余すことなく伝えたい」という設計者のコダワリみたいなものがほとばしっていて、サスペンションの構造やホイールの構成なんかは「やりたいことはわかるけど、それを実際に組むのはユーザーなんですけど!?」と語りかけたくなる頑張りよう。

 ボディパーツもエッジの立ったジウジアーロ・デザインをよく捉えていますが、サイドウインドウの窓枠の彫刻は上部に行くほどあやふやになっていて、「どうやって塗ったもんかな……」と思案しちゃいます。でもいいんです。ガチでゴルフを作りたければ世界中の色んなメーカーからもっともっとシャープで精密でイマっぽくて組みやすいプラモデルが発売されているんですから、そっちを買ってくればいい。

 こういうときは、キットのあるがまま組んで、キットに導かれるように塗ることにします。ポワッとしたプラモは、ポワッと塗る。パーツの解像度と塗装の解像度を合わせておけば、精神の健康が保たれます。全力出したきゃ全力のプラモを買ってきた方がいい。間違いなく。

 なんとなぁく、塗りました。ちゃんとゴルフに見えます。このキットを読者のあなたにオススメするか……と言うと、そうでもありません。だけど、プラモと付き合っていると突然古くてアヤフヤなキットが手に入ってしまうこともあります。SNSにはキレイに仕上げた作例が上がっているかもしれませんが、それは誰かの作ったプラモであって、あなたのではない。だから、「パーツの合いや彫刻にキレがない時代のプラモだから、シャープにビシッと作れなさそうだなぁ」というのも、あなたのせいじゃありません。そんなときは、プラモと二人三脚のつもりになって、相手のペースに合わせてゆったり作りましょう。

 このプラモの美点を最後にひとつだけ上げておきましょう。1970年代のクルマも、1970年代の人たちにとってはビンビンの新車です。そのときに彼らがゴルフのどこを見ていたか、そしてプラモデルの設計製造テクニックの限界がどのへんにあったか、というのは新しいキットでは絶対に再現できないところです。まだまだプラモデルのツールやマテリアルが充実していなかった頃、当時のキッズやカーマニアがどんなふうにプラモを作っていたのかを、擬似的にタイムスリップして追体験できるというのは、プラモデルならではの機能なのです。

>ホビコレ イタレリ 1/24 フォルクスワーゲン ゴルフ パトカー仕様

からぱた/nippper.com 編集長

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60年代の世相を冷凍保存したプラモデル/アトランティス「米国のミサイル盛り合わせ」

 箱開けたら筒がたくさん。ミサイルというのは基本的に筒にちょっとしたハネが生えているようなものです。盛り上がりませんね。全部白だし。みなさんはもっと複雑でわかりやすくカッコいいもののプラモデルが好きだと思いますが、このアイテムの源流をたどると1958年(終戦からたったの13年)です。

 いまいましい戦争の記憶は「プラモデルで楽しもう!」という今の空気感とはちょっと違ったはずで、むしろこれから始まる輝かしい未来とか、緊張感ある冷戦の中で自国がいかにイケているかという現在の話の方がよっぽどパワフルだったのではないかと推察されます。

ホビコレ アトランティスモデル 1/128 アメリカ ロケット開発史セット (36発セット)

 モノグラムという会社から「ミサイル アーセナル」というタイトルで発売されたプラモデル(アーセナル=武器庫の意)が1969年に仕様変更され、アメリカ合衆国が誇る36種類のミサイルを詰め合わせにしたこのプラモデル。実際、発売された当時でも「なんかなぁ、筒だしなぁ……」という空気感で、いくらプラモデル×ミサイルという組み合わせが先進的でモダンだった時代といえど、爆発的なヒットにはならなかったようです。カーモデルのほうが面白いもん絶対。

 で、付属のデカールを貼るとそれなりに盛り上がるのかな……とか思いますが、ボックスアートの写真を見るとかなりの分量で「自力で塗らないと盛り上がらないなこれは」と思い直すハメになります。刺し身(塗装なしの組んだだけ)だともう全部白で見分けつかなそう。キミはミサイルを組みたいか?塗りたいか?本当に?

 さて、現在ではアトランティスという会社から再販されているこの盛り合わせですが、ミサイルを展示する青い台座にはちょっとワクワクさせられます。ミサイルの種別と愛称、そしてミサイルを立てるための穴が彫刻してあって、これはかつて一世を風靡したペプシのボトルキャップの台座を彷彿とさせます。あったでしょ、スター・ウォーズのキャラクターをずらりと並べられる台座(タトゥイーン色)がもらえるキャンペーン。

 なんといいますか、「ミサイルだけザラザラ入っていたら、さすがに作って飾るのも難儀だろう。銘の入った台座があれば人間はコンプリート欲を刺激されて全部組むのでは?」という当時のスタッフのアイディアが炸裂しておるわけですね。

 ちなみにミサイルのディテールとかはものすごく簡易的で、ディテールがこまかいとかそういうことも全然ない。ただ「公開された写真をもとにそのように見える模型を作りました」という感じのプラモデルです。さらに言ってしまえば、本当に配備されたとか発射されたミサイルばかりではなく「こんなのも開発中ですよ」とか「開発したけどテストしかしてませんよ」みたいなものまで網羅しているので、ひとつひとつの資料的な価値というのもあまりない。

 つまるところ「アメリカ合衆国の1969年当時の技術や展望のスナップショット」なんですよねこれ。もっと単刀直入に言ってしまえば、ノスタルジア100%。ミサイルの模型ではなく、世相の模型。そうか、プラモデルはこうやってコケた企画も「そういう時代だったんですよ」というのが残せるのか、という気付きがあります。

 なんだか巨大で詳しい解説シートも入っていて、STEM(科学技術教育)教材らしさというのもちゃんと復刻されています。来なかった未来も含めてイケイケだった戦後アメリカの軍事大国っぷりを冷凍保存したプラモデル、いまも当時の出で立ちのまま買えるんです。逆に言えば、ミサイルに限らずいろいろな昔のプラモデルが今も買えるというのは「ただ古びていくものが今も売られている」というだけでなく、「当時の技術とか認識が金型に保存されている」ということでもあるのです。プラモデルって、不思議な遊びですねホント。

ホビコレ アトランティスモデル 1/128 アメリカ ロケット開発史セット (36発セット)

からぱた/nippper.com 編集長

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「パパが大変身」みたいなプラモデル/ボルボ S40 1997 BTCC ブランズハッチ ウィナー

 幼稚園時代の記憶……友達のママが「私はボルボが好き。いかにもクルマって感じの、カクカクしたカタチがイイよね!」という話をしていた。’80年代のボルボ、つまり900シリーズあたりまでは確かにエッジの立ったハコの組み合わせのようなシルエットだった。「速そう」とか「シュッとしている」ということにしか興味のなかった子供時代、ガチガチのスカンジナビアンデザインの”良さ”はすんなりと飲み込めるものではなかった。

ホビコレ プラッツ/Nunu 1/24 レーシングシリーズ ボルボ S40 1997 BTCC ブランズハッチ ウィナー

 ’95年に登場したS40は国をまたいだ資本の注入によって、ボンネットのショルダーも屋根も曲線で構成された「いわゆるイマドキの4ドアセダン」という雰囲気になった。いま振り返ってみれば、カクカクしたシルエットこそボルボだったんだなと思うし、自分の中にもたとえばSAABの9-3がカッコいいと思うような美意識がいつのまにか育まれていて、しかしそのプラモデルがないということに軽く絶望したり、勝手なものである。

さて、そんなS40がこれまた地味な(しかしとても意義のある)BTCCというイギリスのツーリングカー選手権に出場し、『グランツーリスモ』でもみなさんが走ったことがあるだろうブランズハッチで優勝した1997年仕様のプラモデルだ。マーキングがなければ至ってフツーの「パパのクルマ」という出で立ちである(そういえば昔、タミヤから同じくボルボのステーションワゴン、850エステートが市販車仕様/BTCC仕様の両方で発売されていた)。「どうしてもこのマシンをキレイに仕上げたい!」と思うかどうかは、あなたが例えばボルボの熱狂的なファンであるとか、リカルド・リデルのファンであるとか、S40が愛車であるとか、そうした事情によるのかもしれない。

 内装やロールケージはスパルタンなレースカーならではのものだが、キットとしては比較的オーソドックスな構成で、デカールの品質もいつも通り素晴らしいもの。エッジのシャープネスについては少々言いたいこともあるが、組めば必ずS40に見えるカーモデルが、2023年に完全新金型でプラモデルになるということ自体が奇跡みたいなものだ。

 異常に速いとか、設計が特殊だとか、そういう理屈じゃなくて(つまりプラモデルとしての「売れる/売れない」の損得勘定をおそらく抜きにして)「こういうクルマもプラモデルになっていないとダメじゃない?」というメーカーの提案で我々がこのマシンを知ることに意味があるんだと思う。

▲写真はメーカー完成見本

 外側が分厚くて内側が薄いタイヤをホイールにハメて説明書をツラツラと読むと、なんだか楽しくなってくる。これはまるで「パパの服装や髪型をイメチェンして奥さんに驚いてもらう」というワイドショーの鉄板企画みたいなプラモデルだ。フェンダーに食い込むほど車高を下げてハの字にしたタイヤで高低差のあるブランズハッチを頑張って走るS40の姿は、4ドアセダンが持つある種の「退屈さ」をキレイにはねのけてくれる。

▲ウインドウ用のカット済みマスキングシートも同梱!

 パーツは灯火類のメッキパーツを除けばすべてホワイトなので、インテリアをざっくり塗り分け、ワイパーとリアウイングとホイールを塗ってからデカールを根気よく貼るだけもほぼイメージ通りに仕上がるだろう(なにせデカールが異様な精度と貼りやすさなので、こういう派手なマーキングのカーモデルを作りたければNuNuのモデルを最初に選んでもいいと僕は思っている)。

▲写真はメーカー完成見本

 冷静に考えてみれば、この世にはプラモデルになったことのない自動車のほうが圧倒的に多いのだ。プラモデルのモチーフに派手さやわかりやすいパワーとかスピード、誰もが知っているヒーロー性だけを求めていたら、その状況はいつまで経っても変わらないだろう。NuNuはそれをひとつひとつ埋めていく職人的なアイテムチョイスで、僕らに静かに語りかける。「こんなクルマがあったことも知ってほしいな」という声に僕らが応えれば、たとえばあなたがずっと待ち望んでいるあのクルマだって、いつかプラモデルになるかもしれないのだ。

ホビコレ プラッツ/Nunu 1/24 レーシングシリーズ ボルボ S40 1997 BTCC ブランズハッチ ウィナー

からぱた/nippper.com 編集長

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本体よりも、カタパルトのプラモデル/V-1飛行爆弾とカタパルト式発射機

 なんか……ハコが異様に重い。中から出てきたのはローカル線の鉄橋みたいなパーツたちが4枚と、子供がお絵かきしたような飛行機の半身が収まった2枚。こちら、V-1飛行爆弾+カタパルト式発射機のプラモデルです。V-1というのがいかにトンチキな兵器だったのかはWikipediaとかを読んでください。

ホビコレ モデルコレクト 1/72 ドイツ軍V1飛行爆弾&カタパルト発射機

 V-1はパルスジェットエンジンで飛んでいく無人の爆弾。ジャイロと高度計だけが積んであるとても原始的な誘導装置で、「だいたいここがロンドンだな」というところでエンジンが切れてポトッと落ちるというミサイルの先祖みたいな存在です。ものすごく大量に発射されたけど、目標にちゃんとたどり着いて爆発したものはとても少なかったとされています。でもイギリスの人々からしたら恐怖の対象。英空軍博物館にも「こんなもん飛ばしやがってよぉ」とでも言いたげに展示されています。

 V-1のプラモはこれまでにもたくさん発売されてきましたが、モデルコレクトの本キットはV-1本体をわずか5パーツでサクッと表現。どっちかというと、本体はこれを発射するためのカタパルトだと言えましょう。V-1はスジ彫りとかもすごく太いしリベットもごっついし、ラムジェットエンジンのインテークもなんだか分厚い。要は……「V-1のカタチに見えればいいっすよね」という感じの設計です。楽しいからいいけど。

 んで、こっちがカタパルト。左右合わせのユニットを5個つなぎ合わせて全長40cmほどの細長い物体を組め、と書いてあります。パーツ同士の位置決めはユーザーに丸投げだし、左右対称になっていなければいけないはずの部分に微妙な段差があったりして、設計や金型加工はちょっと稚拙な感じがしますが、まあ四角いもんをふたつ貼り合わせてつなぐだけだから、そんなに難しいもんじゃありません。

 組み上がると傾斜の付いたカタパルトとそれにちょこんと乗っかったV-1がいっちょアガリ。ちなみに最初のランナー写真を見れば分かるとおり、2セット入りです。これが2個あるジオラマを作ろうとしたら広大な面積が必要でしょうし、だいたいどんなシチュエーションになっていればいいのか皆目見当もつきません。こういう「なんか2個入り」というのは友達やパートナーとシェアしてパピコのように楽しみたいもんです。

 V-1の運用記録を見ると、発射装置は案外フレキシブルに展開していたようで「巨大な構造物をそんなに簡単に動かせます?」みたいな気持ちになります。しかしこうして1/72スケールの戦車と並べると、橋桁のひとつひとつはギリギリ重機で持ち上げられそうな雰囲気もあり、大量にユニットごと作って各地にバンバカ輸送したんだろうなということが手応えとしてわかってまいります。プラモデル組まないとこういうのはわからんよね。

 ちなみにこのプラモ、全長1mを超す「デラックスエディション」というのも発売されていて、やっぱり「V-1のカタパルトのプラモがあったら面白いですよね」「そうだね、ユニットをめちゃくちゃいっぱい繋いだらすっげえ長くなったりしてね」「HAHAHA」みたいな会話を想像しちゃいます。V-1だけを組んでいてはわからない、こいつがどうやって飛び立ったのかを知るプラモ。みなさんもぶっきらぼうなカタパルトにぜひ注目してください。そんじゃまた。

ホビコレ モデルコレクト 1/72 ドイツ軍V1飛行爆弾&カタパルト発射機

ホビコレ モデルコレクト 1/72 ドイツ軍V1飛行爆弾&カタパルト発射機【限定最大長デラックスエディション】

からぱた/nippper.com 編集長

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これは「頑丈さ」のプラモデルだ!/サルビノスJr. NASCAR 2022 カマロZL1

 最初に書いておく。このプラモデルは、安くもないし、カンタンでもない。でも、私はある動画に完全に目が釘付けになっていた。似たりよったりの車が同じところをぐるぐる回るだけだと思っていたNASCAR Cupに、ダートコースをつかったレースがあるではないか。色とりどりのスポンサーロゴ、でっかいゼッケンナンバー、ケツを滑らせながらどろんこになって走る姿は、読みかじってきたアメリカのレースの姿を凝縮したようなめちゃくちゃさと楽しさがある。ああ、NASCARのプラモデルがほしい!

 さいわい、手元にはサルビノスJr.というメーカーのプラモデルがあった。全部組んで塗るかどうかはわからんけど、もう作りたいとなったら手っ取り早く貼り始めるのがいい。キレイに作れなかったら泥んこに仕上げてもいいんだ、ということをダートレースが教えてくれたから、もう怖いもんなんてない。

 アメリカンカープラモによくあるメッキパーツは見た目にゴージャスだけど、メッキされた面どうしは接着剤でくっつかないというデメリットがある。いますぐカタチを見たい!というときに、普通の接着剤で貼れるシルバーのプラスチックなのはすごく嬉しい。

 どっこい、エンジンを組み始めてすぐに、このプラモデルは「誰にでもオススメできるカンタンなキット」ではないことがわかった。ハメ合わせの穴はどこもキツいし、位置決めもファジーなのでパーツをひとつひとつよく見て、削って摺り合わせてちゃんと合うように導くことが求められる。

 だからと言って、手が止まるものでもない。同じようなカタチの車がいっぱいあるNASCARだから、もういちど組んだってバチは当たらないどころか、映像で見たあの興奮に近づくだけだ。よし、どんなに手強くても今日は組めるところまで組もう。歪んだパーツは何度も仮組みして、位置決めが難しいユニットは周囲の状況を見ながら後で位置を決めるなど、臨機応変にレースを組み立てる。それがむしろ、このプラモデルにはお似合いだ。

 コクピット周りは強固なフレームで覆われている。いままで見たことのないクルマの組み味。実際、このあとも延々とフレームを接合していく工程が続く。その手応えは、ひたすらに頑丈。徹底的に乗員を守るために進化した現代のNASCARは、最低重量や厳密な素材の制限をしてまで「重くて絶対に壊れない鉄の塊」として設計されていることが直接的に理解できる。それが嬉しくて、歯ごたえ満点なのにどんどんパーツを接着したくなる。興味を持つって、プラモデルを作るのにいちばんのモチベーションになるし、どんなテクニックやツールより助けになる……と改めて思う。

 足回りなど、文字通り悪戦苦闘である。適度に省略され、ステアリングやサスペンションのギミックを簡易的に(しかし実感たっぷりに)再現した国産のカーモデルとは徹底的に違う。模型的に省略されているところなどほとんどない。パーツの歪みが大きいのか、設計に無理があるのか、「これは説明書どおりに組み立てられないな……」と思える場所もたくさんあるのだが、(省略がないゆえに)クルマの基本的な構造を知っていれば「これとこれが繋がっていなければならないはずだ」というのがなんとなく理解できるのが面白い。

 そうそう、ボディを被せてしまえばコクピット以外ほとんど見えなくなるのもこのプラモデルのすごいところだ。内部の構造をマジメに組むのも、「どうせ見えなくなるから」と工程をすっ飛ばすのも、キミ次第だ。

 かくして、ボディを被せる直前まで工程は進んだ。その構造は、見るからに安全性の塊だ。ほとんど鉄骨の隙間に人間とエンジンが滑り込むような姿に圧倒される。

 これを雑誌作例のようにカッチリと組み上げ、あまつさえ本物のように塗装して仕上げられる人は世界の中でもほんの1%未満の超人と言っていい。だけど、組んでその構造を理解し、カタチを楽しむだけならそのハードルはもう少し下がる。接着剤をうまく使って、パーツの行き先をよく確かめ、タイヤが路面を捉えているかどうか、いっときも集中力を切らさなければ……の話なのだけど。

 このプラモの説明書、最後の最後にボディとシャシーを接合する工程の下にはこう書かれている。「これでこのプラモデルは完成。キミは自分を褒め称えてくれ!」と。車の性能を極限まで平等に揃え、あとは腕前と度胸だけでトラックを制するNASCAR。買った人の誰もが同じ材料を与えられて、暴れるパーツを抑え込みながら完成へと走り抜けるプラモデル。モチーフと模型の照応が、火照った脳に眩しい。

 現役の、新鮮極まりない今シーズンのレースカーが手に入るジャンルなんて、いまやほかにないと言っていい。あなたにサルビノスJr.モデルのキットを組み立てるスキルがあるかどうかはわからないが、しかし、「挑戦」という言葉がこんなにもふさわしいキットがあることは、知っておくべきだ。荒々しく鷹揚なプラモデルだが、そこには全米が熱狂するレースとそこに保証された安全性の関係が余すことなく、きわめてマニアックに彫り込まれている。組めば必ず、「どうかオレたちの文化を世界のモデラーに知ってほしい!」と叫ぶ彼らの声が聞こえてくるはずだ。

からぱた/nippper.com 編集長

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最高のデカールで「スペシャルマーキング」に挑める喜び!!/プラッツ 1/72 航空自衛隊 F-15Jイーグル 2003戦競 第303飛行隊 白龍

 F-15は胴体の上に翼が付く高翼式の機体(F-4など下なら低翼、真ん中に生えるF-16なら中翼)。ふたつのエンジンを搭載する幅広の胴体と、そのパワーを支える力強い翼を合わせて、大きな背中となっています。まるでテニスコートみたいに広い、ということからFlying Tennis Cortというあだ名がつけられたほどで、実際にテニスをするネタ写真まで撮られたことがあります……(F-15 tennis cortで検索だ。)。余談ですがこの高翼で脚も長いスタイルのおかげで、地上で見るとF-15はなかなかプラモデルで見る印象と異なるんですよ……。

 そのため、日本ではF-15に対して、「お前の背中広いから、でかいイラストを描いちゃうぞ」という扱いをよくしています。航空祭や様々なイベントがあるごとに、おのが航空隊をアピールするようにスペシャルなペイントが施されてきました。そのなかでも著名なのが今回紹介する「白龍」になります。

 キットには箱サイズに近い大判のデカールシートが付属してきます。ちょーでかい。デカールはイタリアの「カルトグラフ社製」。このカルトグラフデカールは品質が最高で、色よし柔軟性よし精度よしと、モデラーが一度使ったら忘れない素晴らしい性能を誇っています。最高品質のデカールで、特徴的なマーキングに挑めるのですよ!!

 貼るのが大変になりすぎないように、イラストと注意書きがだいぶまとまっています。この白龍においては1枚で翼から胴体まで、龍の上半身を再現しています。

 ちょっとだけキットのお話。このキット自体の組み立てはシンプルで、コクピットとエンジン関係を塗って組む、という流れです。インテークからエンジンノズルが一体になっていてこれが胴体の桁となり全体の組み立ての支えとなります。

 飛行機の形になるとこんな感じ。みっしりしたキットで、翼の取り付けも工夫されているので、上からのアングルで見た時に合わせ目が案外目立たないのもいいですね。このキットはインテークが下げ状態でも組めるので今回は使いましたが、インテークは上がった状態のほうが組みやすいので、初めて組む人は上げ状態をオススメします。

 デカールが各マーキングまとまった状態で印刷されているので、それぞれサイズが大きいのも特徴です。ですので、合わせる場所がここ、というところがピシッと決まります。機首右なら編隊灯のところですね。だから位置合わせも案外悩まないので、サクサクと進んでいきます。

 龍を乗せるときはさすがに緊張しました……。まあこういうのは勢いが大事。デカールノリで補助しつつ、いい場所を見つけて胴体を合わせていきましょう。

 デカールの密着といえばマークセッター。さすがカルトグラフ社製デカール、軟化剤でしっかり伸びて対応します。良いデカールは、ケミカルなマテリアルとも仲良くなってくれるので最高です。

 ということで白龍が背に描かれたF-15Jが完成しました。絵柄もバッチリで、頑張った甲斐があるってものです!!

 プラッツのF-15シリーズは、もちろん通常のマーキングもあるのですが、こうしたスペシャルマーキングがかなり豊富。鮮やかなデジタル迷彩が素晴らしい「第305飛行隊創隊40周年記念塗装」も大人気ですね。こちらも白く塗装した機体にデカールを貼っていくという白龍同様の作業で完成します。

 そしてプラッツのF-15のプラモは、このようなスペシャルマーキングをカルトグラフの高品質デカールで楽しめます。ぜひプラッツのF-15で、何かカッコいいマーキングを見つけたら、チャレンジして欲しいです!!

けんたろう

各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。

「めんどくさい!」が気持ちいい/バイクのプラモの可動チェーンを全部組まされる話。

 「ウソだ!」って思ったでしょ。オレも思ったよ。まさかチェーンをひとコマずつ組まされるなんて。しかもプラスチックの超小さいパーツです。金属ならわかるけど、どうすんのこれ。

 バイクのプラモデルとは切っても切れない関係にあるチェーン。ホンモノの構造をそのまま再現するのはたいへんだから、一般的には横から見たときにチェーンに見えるカタチをしたパーツを用意するのがほとんど。そのままでは「らしさ」に欠ける……と思う人は例えば歯が噛み合うローラー部分を職人的な技で彫り込んだり、あるいは極薄の金属製チェーンを実物どおりに組み上げる専用パーツを別途買ってきたりします。

 どっこいイタレリ(もとはプロター)の「1/9 ヤマハ テネレ660」にはチェーンをほぼ実物の構造と同じように組み立てるパーツが用意されています。ローラーが突き出たプレートにプレートを重ねて、先端部分を「焼きどめ(穴に通した棒の先端を熱したドライバーなどでほんの少し溶かしてネジの頭のように潰し、抜けなくするテクニック)」でどうにかしろ、と書いてあるんですよ。マジか。

 焼きどめのヤバいところは「ドライバーをライターで炙った瞬間はめっちゃ高温になるけど、瞬時に冷めてしまう」ということ。温度が安定しない物体で何十個も焼きどめしていたら死んでしまうので、今回は温度調節が可能なヒートペンを利用しました。ヒートペン、あんまり使う機会がないなと思っていたんですが、今回ばっかりは持っててよかった。

▲焼きどめが不揃いに見えますが、ちょっと離れたらマジで超リアルなんだってば。

 完成してみるとこれがもうめちゃめちゃに「チェーン」なんですよね。組み立て始めるまでは絶対にめんどくさいしやりたくなさすぎる……と思っていたんですが、ランナーそのものを重ねて一気に処理できるようにしてある設計のおかげで案外楽しい。

 ただチェーンの長さの指定が説明書どおりだとちょっと長すぎる感じもしますし、最後のリンクを繋ぐ瞬間は猛烈にしびれるというか、それはちょっと無理なんじゃないすか?というくらい難しい。「簡単!」「誰にでもオススメ!」とは決して言えないんですけど、歯ごたえのある工作でピリッとしたディテールが現れるのは嬉しいもんです。ここでもプロターという会社がユーザーに見せたかったこだわりと情熱が炸裂していて、ひとクセあるけどなんか憎めないなぁと思ったのでした。そんじゃまた。

ホビコレ イタレリ 1/9 ヤマハ テネレ660 1986 パリ・ダカールラリー

からぱた/nippper.com 編集長

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オートバイの神様が作った、オートバイのプラモデル/ヤマハ テネレ660

 マン島TTを4度も制した男、タルクィニオ・プロヴィーニは1966年、深刻な怪我によってバイクレーサー人生を絶たれた。その後自分の名前を略して「プロター」というプラモデルメーカーを立ち上げる。彼の情熱とこだわりは、多くのプラモデルになって遺され、我々の眼と手を楽しませてくれる。

 パリ・ダカを駆けたヤマハのテネレ660は、現在イタレリブランドで販売されている。一般的なバイクモデルよりひとまわり大きな1/9というスケールは、このマシンの頑丈さを教えてくれると同時に、バイクというのがいかなる機械なのかを隅々まで理解できるようなギミックフルな設計を可能にしている。

ホビコレ イタレリ 1/9 ヤマハ テネレ660 1986 パリ・ダカールラリー

 説明書を開いて最初に目に飛び込んでくるのが、似たようなカタチの板を重ねていくミルフィーユのようなパーツたち。想像のとおり、これはエンジンのシリンダーブロックを冷却するためのフィンを実物そっくりに表現するための分割。いまから40年ほど前に誕生したプラモデルだけに、これがすんなりと美しいカタチにまとまるわけがないだろう……とハナから決めつけていた。タルクィニオよ、そんなオレを許してくれ!

 思えばタミヤで数々の名作を設計した木谷真人氏(いまはエブロというメーカーを営んでいる)も、かつてはプロターのバイクやF1モデルを観察し、驚き、もっといいものを作れる!と争っていた話を読んだことがある。タミヤの1/12 RC166なんて、まさにこのアイディアをサンプリングしたものと言っていいのかもしれない。

 ひとつひとつのフィンにはすべて異なる位置に穴とピンが設けてあり、重ねる順番や向きを間違えずに接着できる。パーツのカタチを整えたり、水平垂直をことさら気にすることなく、あっという間に超リアルなエンジンが現れた。プロターのプラモデルは、少し古くてイタリアンで、ちょっとアバウトなのかもしれないと思っていた。しかし、レースを何度も制したヒーローは、プラモデルの世界でも「どうだい、バイクって格好いいだろう?」と僕らに微笑みかけてくれるのだ。

ホビコレ イタレリ 1/9 ヤマハ テネレ660 1986 パリ・ダカールラリー

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黒い塗料が一本あれば、ラリーカーのプラモデルは楽しめる/トヨタセリカ ツインカムターボ TA64

 プラッツ/nunuのブランドで発売された「トヨタセリカ ツインカムターボ TA64 1985 サファリラリー ウィナー」である。バッキリした直線基調のボディスタイルはサイズ以上の押し出し感で「いかにもクルマ!」というアウトラインを強調してくれる。何度でも書くが、nunuのカーモデルは現時点で世界最高レベルに迫る組みやすさだ。こう書いてしまうと身もフタもないのだが、タミヤのカーモデルに設計思想を似せているように感じる。組み立てや塗装で失敗しづらいように配慮されたパーツ分割、信じられないほど貼りやすいデカールはこのキットでも健在だ。

 フロントガードはサファリの証!クルマの顔面にアメフト選手のような屈強さがプラスされて非常にいい。ラリーカーだから前方にたくさんのライトが取り付けられるのも素敵だ。ライトケースは白、内部のリフレクターはメッキパーツ、レンズは透明で用意されているから、ほとんど貼るだけで「設定通り」になるのもうれしい。

 パーティングライン(パーツ表面に見られる金型同士が合わさる線の名残)はほんの少しだけバリっぽく、毛羽立っているところもあるが、これはスポンジヤスリやデザインナイフでひと撫ですれば解決する問題だ。

 ボディと内装は白、それ以外のメカニカルな部分は黒のプラスチックとなっているのもすごくいい。カーモデルというのはチマチマ塗装して慎重に組み上げなければいけないからちょっと難しそうだ……と思っている人にも胸を張っておすすめできる。塗らずに組んでも、それっぽくなる……というのはキャラクターモデルだけの特権ではない。

 それに加えて、カチッとした彫刻のサスペンションと、いかにも布でできていますという柔らかそうなパーツの対比もまた良い。何も考えずにカーモデルを貼って、おおクルマの形になってきたぞ……とほくそ笑むのもいいものだ。

 説明書には「半ツヤの黒で塗るべし」という指示が何箇所も登場する。確かにシートやダッシュボード、内装の黒い部分は黒くなっていたほうが気分が盛り上がる。もしあなたが筆一本を持っているのなら、半ツヤの黒を一本買ってきてサラサラと塗ればいい。ツヤあり、ツヤ消しを揃えて……とやらんでも、まず黒いところが黒くなっているということが嬉しい。筆塗りならマスキングだっていらない。必要なところにだけ、黒をそっと乗せればOK。

 nunuのカーモデルを作るときは、だいたい黒一本でどうにかなる……と思っている。完成後に室内を覗き込んでまじまじとその出来栄えを観察するのではなく、ガバっと全体の印象を楽しむのなら多少よれよれしていても気にならない。ムラも、はみ出しも、あなたがプラモを作った証だ。それより何より、ボディを覆うカラフルなデカールを根気よく貼ることが「ラリーカーらしさ」を演出するための主要なカロリー消費先に違いない。

 塗装指示は「実物はこんな色ですよ」という提案にすぎない。オレが色を付けたいのはこのパーツとこのパーツ。全部黒でヨシ、あとはボディーワークを楽しみ、サファリへドライブするぞ!と決意しちゃえば、ほら、案外大丈夫。イージーに、肩の力を抜いたってきっとカッコいい姿を見せてくれるのが、nunuのプラモ。最後に土埃の色を塗りたくってもいい。作りながら寄り道して、思わぬところにたどり着くかもしれないのがラリーカー作りの楽しさなのだ。

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色のファンクネスに騙されるな!最新プラモデルで蘇る『ザ・フライ』の恐怖。

 めっちゃデカい正方形の箱を開けたら突如極彩色のパーツたちとご対面。待て待て、親に向かって何だその色は。オレはおまえの親じゃなかった。まあいいや、ごめん。このプラモはもうこれで全部です……って言いたくなるくらいビビッドだよね。モンスターのおどろおどろしい色とか、全部同じ味も素っ気もない色でも良かっただろうに、このファンキーな3色を選んだメーカーのアニキ、こんど一杯おごるね。

 「物質転送装置が完成したので自らの身体で実験しちゃお……。そしたら転送カプセルに蝿が1匹紛れ込んで人間と蝿が混じったモンスターが爆誕!これから私(と恋人)の暮らし、どうなっちゃうのーっ!?」という小説『ザ・フライ』(その後2度映画化されています)のプラモデルです。私の世代だと1986年公開、ジェフ・ゴールドブラム主演のクローネンバーグ版がめっちゃ怖かった記憶なんですが、このプラモはあくまで原作小説をイメージソースにした造形なんだとか(……というのはまあオトナのアレで、調べる限り1958年版の映画の造形に酷似しています)。

 ってことはアレだろ?古くてヨボヨボのプラモデルの金型を掘り起こしてきて再販する系の商品だろ?大味なアメリカのフィギュアキットだろ?出来もモンスターだろ?と距離を置きたくなるじゃないですか。オレはもうそういうのにビビらないからな。どんなプラモが来ても熱く抱きしめる!

 すんませんでした。完全新金型の超新製品でした。パーツ見ただけでめっちゃ良くできているのがわかりますもん。細いところ、複雑な曲面、クリーチャーらしいテクスチャ、全部入り。ただただ目に痛いプラスチックの色にまどわされていただけ。パーツ切って貼るでしょ?すんげえ合うよ。何しろ3Dのデジタルデータをベースに金型作ってますから、国産プラモに限りなく近い精度が出ています。

 ちなみにモナークっていうメーカーはこうやって「古き良き(おもに米オーロラ社が得意としていた)モンスターのプラモデルのかほり」を現代の技術で作るカナダのニクいメーカー。これはいわゆる「放送当時出てもいなかったガンプラの”旧キット”を新しく作る」みたいな超頭のいい遊びなので、歴史や文脈が分かるやつだけ分かれコノヤロウという態度がよろしい。日本でいうとエクスプラスも同じような路線で戦っていますが、昔のプラモのパーツ数やパッケージの佇まいなのに造形がめっちゃ良くてパーツの合いも完璧っていいよなぁ。オレはこういうのすごくいいと思います。細かくてナウいのだけが偉いわけ、ないじゃん。

 フルカラーの説明書が最高すぎるんですよ。あらゆるところにユーモアとリスペクトが散りばめられている。「小さいパーツは小さいノコギリで切るといいよ、なぜならニッパーで切ると飛んで(FLY)いきますからね。あなたがそれを這いつくばって探しているときもそのパーツは『助けてー!』と叫んでくれませんからね」と書いてある。ここ以外にも読んでてニヤニヤするお話がたくさん。そして蝿化した顔面の分割とかすごいっしょ。これがわりとビタビタ合うので本当に楽しいのだ。

 できた〜!ド派手すぎる配色でおどろおどろしさはゼロ。助けてくれー!って叫んでいるはずのハエ男氏であるはずなのに『サタデー・ナイト・フィーバー』に見えてくるんだよな。もちろんこれは「3色のプラスチックで最大限のファンクネスを出すためのギミック」ですから、このままでもいいしもちろんおぬしの好きな色に塗っていい。しかしハエ男、哀れなことに左腕と顔が蝿に置き換わっちゃってますね……。

▲蝿の左腕と頭部が……

 こちらは「こまけぇ〜!」と叫びながら組んだ、物質転送装置に張り付く蜘蛛と蝿。マクロレンズで撮影して拡大すると、あっ!さあ、博士はもとの人間に戻れるのでしょうか?それとも……。ということで、めちゃくちゃ楽しいザ・フライのプラモデル、ぜひとも組んでおぬしの好きに塗りましょう。このまま飾っても耐えられるインテリアをお持ちのアナタは、センスいいっすねぇ!そんじゃまた。

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金のひと塗りで最速の果てへ/ランチア デルタS4の伝説を味わうプラモデル

 わーお、デルタS4。上の写真ですぐにわかった人はラリー好きに間違いないね。世界ラリー選手権のなかでもほぼ「なんでもあり」だったグループB。アウディ・クワトロ、プジョー205ターボ16、そしてランチア・デルタS4。ただひたすらに車体を軽くして、馬力を上げてどんな道も攻めまくる。まさにモンスターマシン同士が火花を散らす狂乱の時代。そしてヘンリ・トイボネンという稀代のドライバーはS4とともに命を散らし、グループBというカテゴリそのものを葬った。喪に服すような黒のプラスチックだが、じつはこのキット、トイボネンのマシンでもなければ、WRCに出場したマシンでもない。

 プラッツが取り扱うカーモデルブランド、BEEMAXのラリーカーには「デカールの貼り心地」を味わうために買ってもいいほど高品位なデカールがセットされている。窓のマスキングシートも完璧。なんだか気難しそうなカーモデルには苦手意識を持つ人も多いけど、プラスチックパーツをただ貼って、このファンタスティックなデカールさえ根気よく貼れれば塗装せずともほぼ完璧な実車の似姿が出来上がる。

 S4といえばマルティニカラーがお似合いだが、今回発売された黒のS4は、1986年のERC(ヨーロッパラリー選手権)カタルーニャラリーに出場したマシン。随所にあしらわれたビッカビカのゴールドが独特の迫力を醸し出している。ボンネットやルーフのゴールドはデカールが用意されているが、8つの眼を備えたフロントマスクは塗装するほかない。天気や時間帯によって見え方はまちまちだが、当時の写真を総合的に判断すると、案外バキバキに輝く金色だったようだ。

 BEEMAXのラリーカーはいくつか目にしてきたが、やはりデルタS4にかける意気込みは相当のもの。最初の写真で見たようにボディは実車どおりの3分割。インテリアのバスタブにシャシーフレームが直接くっついたような構造のパーツが出てきたりして、この車がどれだけ狂気に満ちていたのか……ということの片鱗に触れられる。過給器とターボチャージャーを両方備えたエンジンも、ボンネットの中に隠れた凶悪なフレームもラジエーターもすべて立体で表現されている。1/24にしては、かなりのギッシリ具合だ。

 もちろんパーツのディテールはシャキシャキのパキパキ。一緒に発売されているディテールアップパーツ(すべてこのキットのために寸法が合わせてあるから、とんでもなくお買い得だ)と合わせて組めば、ひと昔前ならカーモデルの達人しか味わえなかったような「臓物満点、細部は激シャープ!」なデルタS4を手に入れられる。漆椀のような黒と金の取り合わせにビビッときたら、ぜひとも「お大尽モデリング」を楽しんでほしい。必要なのは、フロントマスクを金色に塗る勇気だけだ。

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4本足でサーチライトが歩くプラモデル「ナハトオイレ」がくれたもの!

 E-75ビエラフースラー型戦車は戦闘による砲塔破損等により様々な現地改修を受け、後にその仕様が制式配備されるケースもあった。「ナハトオイレ」は、次第に飛行高度を上げる連合軍爆撃機に到達すべく開発された巨大なサーチライト「シャインヴェルファー43」をビエラフースラー型車体上部に搭載、12.8cmツヴィリングなどの高射砲と合わせて用いられた。また地上戦においても、味方戦車と対峙する敵車両や歩兵に対しその強力なライト(2.4ギガカンデラ)を照射し視覚と方向感覚を狂わせた……というのは全部架空の話(キットの説明書より引用しました)。

 架空兵器プラモ、とくに「第二次世界大戦にこんな兵器があったかもね」というのはリアリティラインの設定がむずい。計画だけはあったけど作られなかった戦車とか、計画すらされてなかったけどこんなんがあったかもね、はギリギリ「え、そうなの!?」と騙される可能性があるけど、「じつは4本足の戦車がありました」とか言われても「いやそれはウソですね。ないもん。それはダグラムじゃん!わざわざWWIIでやんなくてもよくない?」ってなりませんか?オレはなる。だからちょっと架空レベルが高すぎるものは避けてきたんですけど、純粋に「四本脚でサーチライトが歩く」というのはファニーだな、と思って紹介することにしました。オープンザボックス!

ホビコレ 1/72 ドイツ軍 ビエラフースラー “ナハトオイレ” 4脚型サーチライト投光車

 いきなり目に飛び込んでくるドイツ戦車っぽさ120%の造形。パンターとかティーガーとかキングタイガーとかさんざん触ってきたから、これがエンジンデッキでT字型の断面を持った車体後部装甲もありますね、ということが直感的にわかる。これは戦車好きの知識や経験をハックして「あったかもしれない!」と思わせるトリックですね。ここだけ見ると「思ったより戦車じゃん」となってしまう我々のチョロい認知能力よ。

 そしてこのパーツたちが投光器……つまいクソデカサーチライトです。ボルトのディテールとかは「あ、なんかリアル」と思わせる手がかりになります。戦艦大和に装備された探照灯が直径150cmだったということですから、まあこれくらいデカい投光器というのは存在し得るわけですね。実際に戦車の車体に載っけて動かしたとか、あまつさえ4本足で歩くメカに載せるかというと、まあ調べた限りそういう史実はありまへん。でも自分でギコギコ歩くクソデカ投光器があったらたしかに面白いな……。

 と思ったら、いきなりの機銃が2本。これは「クーゲルブリッツ」(実際にはごく少量しか作られなかった幻の兵器)の砲塔。潜水艦に積む予定だった3cm連装高射機関砲塔を戦車に無理やり載せようぜ〜という作戦だったのですが、いろいろあってあまりうまく行かなかった様子。いきなりここは「現実に存在したパーツ」なんすよね。虚構と現実がひとつのメカの中でガッチャンコしている。ところで投光器が乗っかるのにこの砲塔はどこにつくんですか?

▲なんか車体の下にぶら下げるらしい。上はライトで下は機銃の四足歩行兵器、イヤすぎます。

 なるほど、嘘八百だけどちょっとのリアルをいい塩梅でまぶすのが架空兵器のおもろいところかもね……なんてシメようと思ったんです。最後に脚のパーツをしげしげ見ていたら気がついた。脚って、キャタピラより作るのも塗るのも楽じゃね?と。大量の転輪もチマチマつなげる履帯もなく、いきなり戦車が立ち上がって歩く!戦車っつうか、なんか鉄板で出来たものを塗ってサビとか描きたい、しかし面倒な足まわりは組んだり汚したりするのをスキップしたい!そんな気持ちのときに、「歩く戦車」は結構いいチョイスなのかもしれません。まじまじ眺めてみるもんですね。オレも架空兵器のノリかた、やっとわかりました。これ、組みます。

ホビコレ 1/72 ドイツ軍 ビエラフースラー “ナハトオイレ” 4脚型サーチライト投光車

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。