たまには複雑な模様を塗るのも楽しいなと思いながら、一日でカタチになるカンバスを探しに模型店へ。これまでに2度ほど組んだことのあるタミヤの九七式中戦車(チハ)を購入。1975年発売とベテランキットで、実売2000円を切る価格。しかし戦車らしさをしっかりとたたえて、なおかつ他にないどこかSFチックなアウトラインが楽しめ、迷彩塗装も複雑なのでじっくりと味わうことができる素晴らしいパッケージングです。
四角四面な印象のある日本戦車ですが、微妙な角度で構成された車体上部のパーツは何度見ても惚れ惚れします。装甲板同士が斜めに突き合わさって現れるジグザグの折れ角は、三角関数の集合体。
とくに後半部のサイドに入ったルーバーやリベット、そして蝶番のディテールは「これを45年前に一発でシャープに再現していたのか!」と、見るたびハッとさせられます。さすがに少々バリのある箇所も見受けられますが、それでも同年代の他社製キットと比べれば金型はとても美しくメンテナンスされており、組みやすさも現代的なキットにひけをとりません。
ロープやオイルクーラーの彫刻も素晴らしく、小柄な車体にディテールが凝縮している様が堪能できます。サラッと塗っても陰影による演出でしっかりと立体感が出るでしょうし、質感や陰影をじっくりと描き込んでいくことによってさらに情報密度を高められるはず。自分の持っているスキルに合わせてしっかりとプラモの側が応えてくれそうな雰囲気がこのキットには特別強く感じられます。
フィギュアはちょっとやりすぎなくらい小柄な日本人の戦車兵をみごとに立体化。表情は凛々しく、彫刻も深いのでこれまた塗らずとも表情がバッチリと伝わってきます。
組み上がって現れる車体前部上面の絶妙な稜線と、前面装甲が交わってできる唯一無二の折れ線。前照灯、星のエンブレムに牽引フックと見どころが集中します。リベットも大きいものは表面にへばりつき、小さいものは1段凹んだところに植えられているのがわかります。
土曜の午後にサラッと組み立ててこの迫力。小さいけれど見どころがたくさんあり、間延びしないだけのふんだんなディテールはメカ好きの心に広く訴えかける魅力があると思います。夏の暑い日中のインドアレジャーに、ジャングルでの激闘を思いながら組み上げてください。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。