みんなで作る模型サイト nippperはあなたの投稿をお待ちしています!
詳しくはコチラ!

連続で組むから分かる、戦車の違いと設計の進化/タミヤIV号駆逐戦車を縦飲みすべし!

 ウイスキーをよく飲む。同じブランド同じ名前でも、樽の中で寝ていた時間が違うだけで味は変わる。そういうのはひとつだけ飲んで「うまい」と言ってても気が付かなくて、ふたつ並べて呑むとその違いがぐっと際立つ。酒呑みの間でこういうのを「縦飲み」と言うが、タミヤのIV号駆逐戦車はまさしく縦飲みの面白さがある。

 2014年に発売された「IV号駆逐戦車/70(V) ラング」と2023年に発売された「IV号駆逐戦車/70(A)」の違いは、ただ車種が違うだけではない(いや、同じなのだが生産工場と設計が違う……このややこしい話は例えば命名の経緯にも関わってくる。ふたつの説明書をじっくりと読めば、10年の間に解釈が厳密化したことも理解できるはずだ)。形が違っても同じ方法で設計できるのがプラモデルだが、同じ形なのに違う方法で分割できるのもプラモデルのおもしろいところである。

 (V)では黒い軟質素材でできていたベルト式履帯は(A)でプラスチック製のちまちま貼っていく部分分割式の固定履帯となった。前者は転輪にグルッと巻いて接着すれば終わりだが、後者は組み付けに少々時間がかかるかわりに精密なディテールと上部の自然な垂れ下がりが味わえる。

 分割履帯というとひと昔前までは「履帯を一枚ずつ貼るのか……」と少々ゲンナリしていたが、最近のタミヤ製品では貼りはじめの位置が明確に決められていて、さらにパーツ精度も異様に高いため、むしろ貼ること自体がエンターテイメントにすらなっている。

 (A)を組んでいて地味に感動したのがE-1のパーツだ。戦闘室上面のハッチを可動式にするためのヒンジ受けなのだが、都合8つ使用する。(A)では8つしか入っていなかったので、わずか2mm四方ほどしかないパーツをピンセットの先で飛ばしてしまうと床に這いつくばって探す必要があった。(A)ではEランナーに5個ずつ付いているので都合10個となり、予備が2個。これはタミヤスタッフの誰かが「予備を付けておこう」と考えた証拠だ。ユーザーからの声があったのか、はたまた社内で実際に組んだ人間からフィードバックがあったのかは知る由もないが、「実際に組んだ人」の視点がなければこうした配慮は生まれ得ない。

 手前の(V)型と奥の(A)型。組み上がって並べれば「背の低い戦車と背の高い戦車」にしか見えない。どちらも出来は良く、「さすがのタミヤクオリティ」と片付けてしまいそうになる。だけど、わたしはこのふたつを連続して組んだから知っているのだ。似たりよったりの戦車を同じメーカーがモデルアップするのにも、結果だけ見ていてはわからないような気配りと進歩があるということを。「縦飲み」のおもしろさというのは、こういうところにあるのだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

関連記事