わーお、デルタS4。上の写真ですぐにわかった人はラリー好きに間違いないね。世界ラリー選手権のなかでもほぼ「なんでもあり」だったグループB。アウディ・クワトロ、プジョー205ターボ16、そしてランチア・デルタS4。ただひたすらに車体を軽くして、馬力を上げてどんな道も攻めまくる。まさにモンスターマシン同士が火花を散らす狂乱の時代。そしてヘンリ・トイボネンという稀代のドライバーはS4とともに命を散らし、グループBというカテゴリそのものを葬った。喪に服すような黒のプラスチックだが、じつはこのキット、トイボネンのマシンでもなければ、WRCに出場したマシンでもない。
プラッツが取り扱うカーモデルブランド、BEEMAXのラリーカーには「デカールの貼り心地」を味わうために買ってもいいほど高品位なデカールがセットされている。窓のマスキングシートも完璧。なんだか気難しそうなカーモデルには苦手意識を持つ人も多いけど、プラスチックパーツをただ貼って、このファンタスティックなデカールさえ根気よく貼れれば塗装せずともほぼ完璧な実車の似姿が出来上がる。
S4といえばマルティニカラーがお似合いだが、今回発売された黒のS4は、1986年のERC(ヨーロッパラリー選手権)カタルーニャラリーに出場したマシン。随所にあしらわれたビッカビカのゴールドが独特の迫力を醸し出している。ボンネットやルーフのゴールドはデカールが用意されているが、8つの眼を備えたフロントマスクは塗装するほかない。天気や時間帯によって見え方はまちまちだが、当時の写真を総合的に判断すると、案外バキバキに輝く金色だったようだ。
BEEMAXのラリーカーはいくつか目にしてきたが、やはりデルタS4にかける意気込みは相当のもの。最初の写真で見たようにボディは実車どおりの3分割。インテリアのバスタブにシャシーフレームが直接くっついたような構造のパーツが出てきたりして、この車がどれだけ狂気に満ちていたのか……ということの片鱗に触れられる。過給器とターボチャージャーを両方備えたエンジンも、ボンネットの中に隠れた凶悪なフレームもラジエーターもすべて立体で表現されている。1/24にしては、かなりのギッシリ具合だ。
もちろんパーツのディテールはシャキシャキのパキパキ。一緒に発売されているディテールアップパーツ(すべてこのキットのために寸法が合わせてあるから、とんでもなくお買い得だ)と合わせて組めば、ひと昔前ならカーモデルの達人しか味わえなかったような「臓物満点、細部は激シャープ!」なデルタS4を手に入れられる。漆椀のような黒と金の取り合わせにビビッときたら、ぜひとも「お大尽モデリング」を楽しんでほしい。必要なのは、フロントマスクを金色に塗る勇気だけだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。