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これは「頑丈さ」のプラモデルだ!/サルビノスJr. NASCAR 2022 カマロZL1

 最初に書いておく。このプラモデルは、安くもないし、カンタンでもない。でも、私はある動画に完全に目が釘付けになっていた。似たりよったりの車が同じところをぐるぐる回るだけだと思っていたNASCAR Cupに、ダートコースをつかったレースがあるではないか。色とりどりのスポンサーロゴ、でっかいゼッケンナンバー、ケツを滑らせながらどろんこになって走る姿は、読みかじってきたアメリカのレースの姿を凝縮したようなめちゃくちゃさと楽しさがある。ああ、NASCARのプラモデルがほしい!

 さいわい、手元にはサルビノスJr.というメーカーのプラモデルがあった。全部組んで塗るかどうかはわからんけど、もう作りたいとなったら手っ取り早く貼り始めるのがいい。キレイに作れなかったら泥んこに仕上げてもいいんだ、ということをダートレースが教えてくれたから、もう怖いもんなんてない。

 アメリカンカープラモによくあるメッキパーツは見た目にゴージャスだけど、メッキされた面どうしは接着剤でくっつかないというデメリットがある。いますぐカタチを見たい!というときに、普通の接着剤で貼れるシルバーのプラスチックなのはすごく嬉しい。

 どっこい、エンジンを組み始めてすぐに、このプラモデルは「誰にでもオススメできるカンタンなキット」ではないことがわかった。ハメ合わせの穴はどこもキツいし、位置決めもファジーなのでパーツをひとつひとつよく見て、削って摺り合わせてちゃんと合うように導くことが求められる。

 だからと言って、手が止まるものでもない。同じようなカタチの車がいっぱいあるNASCARだから、もういちど組んだってバチは当たらないどころか、映像で見たあの興奮に近づくだけだ。よし、どんなに手強くても今日は組めるところまで組もう。歪んだパーツは何度も仮組みして、位置決めが難しいユニットは周囲の状況を見ながら後で位置を決めるなど、臨機応変にレースを組み立てる。それがむしろ、このプラモデルにはお似合いだ。

 コクピット周りは強固なフレームで覆われている。いままで見たことのないクルマの組み味。実際、このあとも延々とフレームを接合していく工程が続く。その手応えは、ひたすらに頑丈。徹底的に乗員を守るために進化した現代のNASCARは、最低重量や厳密な素材の制限をしてまで「重くて絶対に壊れない鉄の塊」として設計されていることが直接的に理解できる。それが嬉しくて、歯ごたえ満点なのにどんどんパーツを接着したくなる。興味を持つって、プラモデルを作るのにいちばんのモチベーションになるし、どんなテクニックやツールより助けになる……と改めて思う。

 足回りなど、文字通り悪戦苦闘である。適度に省略され、ステアリングやサスペンションのギミックを簡易的に(しかし実感たっぷりに)再現した国産のカーモデルとは徹底的に違う。模型的に省略されているところなどほとんどない。パーツの歪みが大きいのか、設計に無理があるのか、「これは説明書どおりに組み立てられないな……」と思える場所もたくさんあるのだが、(省略がないゆえに)クルマの基本的な構造を知っていれば「これとこれが繋がっていなければならないはずだ」というのがなんとなく理解できるのが面白い。

 そうそう、ボディを被せてしまえばコクピット以外ほとんど見えなくなるのもこのプラモデルのすごいところだ。内部の構造をマジメに組むのも、「どうせ見えなくなるから」と工程をすっ飛ばすのも、キミ次第だ。

 かくして、ボディを被せる直前まで工程は進んだ。その構造は、見るからに安全性の塊だ。ほとんど鉄骨の隙間に人間とエンジンが滑り込むような姿に圧倒される。

 これを雑誌作例のようにカッチリと組み上げ、あまつさえ本物のように塗装して仕上げられる人は世界の中でもほんの1%未満の超人と言っていい。だけど、組んでその構造を理解し、カタチを楽しむだけならそのハードルはもう少し下がる。接着剤をうまく使って、パーツの行き先をよく確かめ、タイヤが路面を捉えているかどうか、いっときも集中力を切らさなければ……の話なのだけど。

 このプラモの説明書、最後の最後にボディとシャシーを接合する工程の下にはこう書かれている。「これでこのプラモデルは完成。キミは自分を褒め称えてくれ!」と。車の性能を極限まで平等に揃え、あとは腕前と度胸だけでトラックを制するNASCAR。買った人の誰もが同じ材料を与えられて、暴れるパーツを抑え込みながら完成へと走り抜けるプラモデル。モチーフと模型の照応が、火照った脳に眩しい。

 現役の、新鮮極まりない今シーズンのレースカーが手に入るジャンルなんて、いまやほかにないと言っていい。あなたにサルビノスJr.モデルのキットを組み立てるスキルがあるかどうかはわからないが、しかし、「挑戦」という言葉がこんなにもふさわしいキットがあることは、知っておくべきだ。荒々しく鷹揚なプラモデルだが、そこには全米が熱狂するレースとそこに保証された安全性の関係が余すことなく、きわめてマニアックに彫り込まれている。組めば必ず、「どうかオレたちの文化を世界のモデラーに知ってほしい!」と叫ぶ彼らの声が聞こえてくるはずだ。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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