

幼稚園時代の記憶……友達のママが「私はボルボが好き。いかにもクルマって感じの、カクカクしたカタチがイイよね!」という話をしていた。’80年代のボルボ、つまり900シリーズあたりまでは確かにエッジの立ったハコの組み合わせのようなシルエットだった。「速そう」とか「シュッとしている」ということにしか興味のなかった子供時代、ガチガチのスカンジナビアンデザインの”良さ”はすんなりと飲み込めるものではなかった。
>ホビコレ プラッツ/Nunu 1/24 レーシングシリーズ ボルボ S40 1997 BTCC ブランズハッチ ウィナー
’95年に登場したS40は国をまたいだ資本の注入によって、ボンネットのショルダーも屋根も曲線で構成された「いわゆるイマドキの4ドアセダン」という雰囲気になった。いま振り返ってみれば、カクカクしたシルエットこそボルボだったんだなと思うし、自分の中にもたとえばSAABの9-3がカッコいいと思うような美意識がいつのまにか育まれていて、しかしそのプラモデルがないということに軽く絶望したり、勝手なものである。

さて、そんなS40がこれまた地味な(しかしとても意義のある)BTCCというイギリスのツーリングカー選手権に出場し、『グランツーリスモ』でもみなさんが走ったことがあるだろうブランズハッチで優勝した1997年仕様のプラモデルだ。マーキングがなければ至ってフツーの「パパのクルマ」という出で立ちである(そういえば昔、タミヤから同じくボルボのステーションワゴン、850エステートが市販車仕様/BTCC仕様の両方で発売されていた)。「どうしてもこのマシンをキレイに仕上げたい!」と思うかどうかは、あなたが例えばボルボの熱狂的なファンであるとか、リカルド・リデルのファンであるとか、S40が愛車であるとか、そうした事情によるのかもしれない。

内装やロールケージはスパルタンなレースカーならではのものだが、キットとしては比較的オーソドックスな構成で、デカールの品質もいつも通り素晴らしいもの。エッジのシャープネスについては少々言いたいこともあるが、組めば必ずS40に見えるカーモデルが、2023年に完全新金型でプラモデルになるということ自体が奇跡みたいなものだ。
異常に速いとか、設計が特殊だとか、そういう理屈じゃなくて(つまりプラモデルとしての「売れる/売れない」の損得勘定をおそらく抜きにして)「こういうクルマもプラモデルになっていないとダメじゃない?」というメーカーの提案で我々がこのマシンを知ることに意味があるんだと思う。


外側が分厚くて内側が薄いタイヤをホイールにハメて説明書をツラツラと読むと、なんだか楽しくなってくる。これはまるで「パパの服装や髪型をイメチェンして奥さんに驚いてもらう」というワイドショーの鉄板企画みたいなプラモデルだ。フェンダーに食い込むほど車高を下げてハの字にしたタイヤで高低差のあるブランズハッチを頑張って走るS40の姿は、4ドアセダンが持つある種の「退屈さ」をキレイにはねのけてくれる。

パーツは灯火類のメッキパーツを除けばすべてホワイトなので、インテリアをざっくり塗り分け、ワイパーとリアウイングとホイールを塗ってからデカールを根気よく貼るだけもほぼイメージ通りに仕上がるだろう(なにせデカールが異様な精度と貼りやすさなので、こういう派手なマーキングのカーモデルを作りたければNuNuのモデルを最初に選んでもいいと僕は思っている)。

冷静に考えてみれば、この世にはプラモデルになったことのない自動車のほうが圧倒的に多いのだ。プラモデルのモチーフに派手さやわかりやすいパワーとかスピード、誰もが知っているヒーロー性だけを求めていたら、その状況はいつまで経っても変わらないだろう。NuNuはそれをひとつひとつ埋めていく職人的なアイテムチョイスで、僕らに静かに語りかける。「こんなクルマがあったことも知ってほしいな」という声に僕らが応えれば、たとえばあなたがずっと待ち望んでいるあのクルマだって、いつかプラモデルになるかもしれないのだ。
>ホビコレ プラッツ/Nunu 1/24 レーシングシリーズ ボルボ S40 1997 BTCC ブランズハッチ ウィナー