プラモデルが語る「英雄的ドライバーが遺したもの」/サルビノス 2022 カマロ ZL1 レビュー!

 21世紀最初の年、ひとりのアメリカン・ヒーローが死んだ。

 デイル・アーンハート、享年49歳。「ザ・キング」とたたえられて久しいリチャード・ペティを陽気な、メディアやファンの誰に対しても笑顔を絶やさないカウボーイとするなら、「マン・イン・ブラック」と呼ばれたデイル・アーンハートのにこりともしない無骨な風采──常にメディアに敵対的で、インタビューには必ずレポーターの靴の先を踏みつけて挑む彼は、アウトローそのものだった。

 この性格の違いは彼らの走りにも如実で、文字通り正攻法でレース全体を支配しつつ終盤華麗にトップをかっさらうペティに対し、アーンハートは「やつと走ると全ラップがコントロールされたクラッシュになる」とライバルにいわしめるほど攻撃的だった。

 邪魔者は文字どおり叩きつぶし、宵越しの銭を持たず、「日曜のブーイングは月曜の金になるのさ」とうそぶいて派手にレースをかきまわすアーンハートは、ストックカー・レースというものが古くは南部で密造酒を運ぶ荒くれ者たちがポリ公の追跡をぶっちぎるために日夜腕を磨きあった草レースに根を持っていることを思い起こさせるシンボルだった。

 2001年2月18日、NASCARの開幕を飾るデイトナ500の最終ラップ、アーンハートは推定250キロの速度でコンクリートの壁に正面から激突して死んだ。

 デイル・アーンハートの死んだ年を契機に、NASCARの車は変わった。より安全な、誰も死なないレースを目指して、1千万ドルの巨費を投じた研究開発センターが設立され、5年の歳月をかけてカー・オブ・トゥモローと呼ばれるシャシーが生み出されて、レースは劇的に安全なものになった。町でみかける普通の車で、好きに走ればいいという黎明のストックカー・レースの価値観は完全に過去のものとなり、ペイントスキームやスポンサーのステッカー以外にまったく差異のない「明日の車」によって、NASCARはより純粋な技巧とかけひきだけが火花を散らす「スポーツ」になった。

▲ボディはカマロの意匠を取り入れつつ、エンジンとコクピットを覆い、スポンサーロゴを貼り付けるためのガワとなった
▲まるでだまし絵のようにステッカーで表現された灯火類やグリルも実車同様にデカール化されている

 2022年、「明日の車」から数えて第7世代にあたる次世代カー(Next-Gen)の登場にあわせてNASCAR唯一の公式といっていいサルビノスJRモデルズが手がけたこの次世代カーのプラモデル、シボレー・カマロZL-1はこれ以上ないというほど忠実かつ精密なキットに仕上がっている。

 ドライバーのみならずNASCAR関係者のほとんどすべてから好評をあつめているこの車について知ろうと思ったら、サルビノスJRのキットを組むか、さもなくばNASCARに参戦するしかない。そう言い切ってしまえるほどに、このキットはよくできている。

▲ランナーには無数の「安全性確保のためのパーツ」が並び、組むだけで特異なNASCARの特徴が理解できる

 デトロイト発祥のオンライン銀行であるアリー・バンクのスポンサー・ロゴを大きくまとった預金通帳めいたデザインの次世代カマロに、ちょっと頼りないくらいソフトな男前のアレックス・ボウマンが乗り込むこのゼッケン48が僕はとくに好きだ。

 プラモデルってやつは時を止めることがあまりにも得意で、未来とつながっていくことも同じようにできるってことをつい忘れそうになるものだ。あの口ひげのタフガイ以上に忘れちゃならないのは、本当は今を戦う若者の姿なのだから。

ホビコレ サルビノスJRモデルズ 1/24 ヘンドリック・モータースポーツ アレックス・ボウマン #5 アリー シボレー カマロ NASCAR 2022 ネクストジェネレーション

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1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。