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電動工具のパーツに導かれ、シトロエン公式の強烈な「模型製作資料集」にぶち当たった話。

 ラリーカーのプラモデル。説明書を見ていたらフロアに電動工具が転がしてある。ハンブロールの47番、光沢のシーブルーで塗り分けてね、と書いてあるのがいやに具体的だが、マキタならもっと黄色みが強いし、ボッシュなら真緑である。そもそもラリーカーなんだから工具が積載されているのはなんとなくわかるが、こんなに即物的に「電動工具が転がっています!」というのにはなんか強い意志を感じる。

 パーツの形状もいやに生々しく、その横にあるよくわからないカタチのパーツも気になる。このプラモデルを設計した人の印象に強く残っているのだとしたら、’18年のツール・ド・コルスを走ったシトロエンC3に何か所以のあることかもしれないと思ってインターネットの海をさまよう。あれやこれやとググり、そしてよくわからない。よくわからないが、室内の様子がいちばん明確に把握できるのは、なんとシトロエンの公式サイトだった。

(画像はCitroën Originsより)

 シトロエン公式サイトのなかに設けられたスペシャルページ、「シトロエン・オリジンズ」は1919年から今年までに作られたさまざまなシトロエン製品のアーカイブである。360°回転させられる外観の画像と、内部をぐるりと見渡せるインテリアの画像。そして美しく撮影された細部の写真たち……。2017年のところに目当ての「C3 WRC」があるのだが、それ以外も恐ろしい情報量で見る者の時間を溶かし尽くす。

(画像はCitroën Originsより)

 被写界深度がめちゃくちゃ浅くて、非現実的な(しかし緻密に計算され尽くした)ライティングで撮影された画像たちはどこかミニチュアのようだが、細部を観察するとこれが模型やCGではなく、まぎれもない実車であることがわかる。なにより、「そんな細かいところまで俺たちに見せてどうしようって言うんだ!」と言いたくなるほどのディテール写真の山。

(画像はCitroën Originsより)

 室内に電動工具は認められずじまいだったが、C3のあらゆるディテールをまじまじと眺めているうちに「このプラモデルをどう完成させればそれらしくなるのか」という観念は巨木のように育ち、いつのまにやらシトロエンの綺羅星の如しクルマたちのことを好きになっている……。なんという説得力。なんという罪な資料たち。

 ベルキットのシトロエンC3のパッケージの中には、このクルマを作るために必要と思われるものがすべて揃っている。細部まで表現されたデカールも、極薄の金属光沢を放つエッチングパーツも、窓を美しく塗り分けるためのカット済みマスキングシートも。ラリーカーを愛し、それを模型にするために異常な情熱を燃やすベルギーの同士の熱量が、フランス車に対する憧れを呼び覚ましてくれた。プラモも良いが、シトロエンのサイトも最高だ。秋の夜長にじっくりと眺めて、プラモデル製作の魂に火をつけてほしい。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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