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カーモデルを作る喜びを、すべての人と分かち合う/amt 1996マスタングGT

 パーツ点数32。プラモデルとしては破格の少なさだけど、ボディとタイヤと人間が乗るところがあれば、それは紛れもなくカーモデルに違いない。しかもパーツ同士は接着剤を使わずにスパスパはめ込んで組み立てられる。模しているのは4代目のフォード・マスタング……の、ホットウィール製ミニカーだ。

ホビコレ AMT 1/25 ホットウィール 1996 フォード マスタング GT スナップキット

 安くて小さかろうと、少年にとって宝石のような輝きを持つミニカーから、すこしアニキな遊びとしてのプラモデルへの架け橋。なるべく手数少なく、特殊な工具を使わずにカタチにできるよう、設計はシンプルに。だからと言って、amtのスタッフは手を抜かない。32のパーツに、入れられるだけのリアリティをしっかりと刻み込んでいる。ワンパーツのシャーシにだって、いまにも動きそうなサスペンションと、後からくっつけたかのように立体的なエキゾースト。

 「プラモデルとは、実車同様の構造をリアルに再現すればするほど真に迫るものだ」……という価値観では、このキットを生み出すことができないはずだ。年長者向けの精緻なモデルを作りながら、もう片方の手でズバッと考えをステップバックさせ、シンプルな構成でクルマの魅力を削ぎ落とさずに表現するというクレバーな取捨選択。進化とか退化という軸だけでは決して掬いきれない、「自動車というメカとカルチャーの真髄を、どんな人にも届ける」というアメリカンカープラモならではのプライドがにじみ出るようだ。

 エンジンレスだけど、メッキのホイールがラグジュアリーな輝きを放つ。アメリカンカープラモ伝統の「サイドウインドウの省略」も、これが「ホンモノのプラモデルであること」をウインクしながら教えてくれる(このボディ形状ならサイドウインドウまでパーツ化することなど造作もなかったはずだ)。
 自分の手のひらでひんやりとしていたホットウィールが、大きくシャープなプラスチックになって、オトナの仲間入りをしたような気持ちになる……。そんな瞬間が、ほんとうにうまく演出されている。

 ボディはメタリックの粒子が練り込まれたレッドのプラスチック。マーキングは2種から選べ、さらに水転写デカールとフィルムシールのどちらを使うかも選べる。バキバキ組んでベタベタ貼るだけのカスタマーにも、これを子供向けだと鼻で笑わず、キリッと仕上げたいカスタマーにもちゃんと視線を合わせた構成だ。どちらを選んでもボディサイドに燦然と輝くホットウィールのロゴは、誰もがカーモデルに親しんだ原風景へと誘ってくれる。

  ボディの左サイドにはシールを貼った。カットラインは正確無比。ホワイトはやや透けるが、発色良好。ただしフィルムの柔軟性は乏しく、気泡を巻き込まずに貼るのには少々難儀する。もちろん、いちはやく完成させたい製作意欲旺盛な年少モデラーはそんなこと気にしないだろう。もし気になったら、その先にあるステップを駆け上がる準備ができた証拠だ。

 ボディの右サイドには水転写デカールを試した。アメリカンカープラモは往々にしてデカールが異様に硬いのだが、本キットもそれはご多分に漏れず。適切なソフターやセッターを使ってボディの深い彫刻に馴染ませるなり、スジ彫りに従ってカットするなど、あなたの腕の見せどころになるはずだ。

 おなじく色分け済み、スナップタイト仕様のアオシマ「ザ・スナップ」シリーズと並べて眺める。パーツをここまで減らしても、クルマの持つ魅力はひとつもスポイルされていないと感じる。アオシマが初心者マークを付けて売るプラモデルに1/32スケールを採用しているのは価格的な意味合いもあるだろうけど、どこかで「ホンモノのカーモデルとの線引き」みたいな心理が働いているのかもしれない。反面、amtのマスタングは堂々1/25スケールである。「オレはカーモデルを完成させたんだぜ」と友達や両親に報告する誇らしさを考えると、たとえば日本にも1/24スケールのノービス向けプラモがあっていいはずではないか。

ホビコレ AMT 1/25 ホットウィール 1996 フォード マスタング GT スナップキット

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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