金曜の昼間、家の上をブルーインパルスが飛んだ。それがどんな意味を持っているのかを論じているヒマはない。オレたちはプラモが好きだ。見たものはプラモで作らないと気がすまない。T-4のプラモを速攻で買って、ババっと作ってあの鮮烈な記憶を自分の手で再現したい。
でも、だ。いままで何度かブルーインパルスの飛行展示を見て、一度としてその模型を作ったことがない。なぜなら、ブルーインパルスは6機でひとつの画として機能するし、白く伸びたスモークが3次元的にその機動を束の間描き出し、やがて空に薄く消えていくあの光景こそが本体だからだ。自分の家の机の上にチョンと1機のT-4が置いてあっても、それは”ブルーインパルス”ではなく、それを構成する要素のひとつでしかない。たとえ6機作っても、それを青い空間に立体的に配置する術はない。なんて難しいモチーフなんだろう。
多くの人がSNSでつぶやいていたとおり、今回の飛行展示にはスモークを引かないグレーの機体が随伴していた。美しい編隊から少しだけ距離をおき、6機をときにエスコートするように、ときに後ろから応援するように機動するあの機体は、フライトの全てを記録し、安全を確保するのに不可欠だった。全ては決まりだ。アイツを作れば、フライトの記憶が蘇るだろう。
ブルーインパルス仕様ではなく、グレーのT-4を買ってきて、一気呵成に組み立てる。説明書の順番を追っていたら、記憶は薄れ、パッションは萎み、この週末は終わってしまう。どうすればいいか。
コクピットは組まない。思い出の中の機体は飛んでいなければいけないので、脚は出さない。飛行機模型は、このふたつをスルーすることで、とんでもないスピードで「士の字」になる。パーツをもいで、ひたすら貼る。合わせ目も、ゲートの処理も置き去りにして、ただ速く。速く。
グレーのT-4に入っているデカールは豪勢だ。およそ実在するマーキングがすべて再現できるのではないかと思うほどの量で、コーションデータ(こまかな注意書き)の類も十全に印刷されている。これを全て貼っていても、やはり感動はどこかに行ってしまう。あの機体に不可欠と思われる派手な要素だけをピックアップして、ただ速く。速く。
機体をまるっとグレーに塗りつぶしたら、キャノピーの裏側に6つの機影を描き、伸びるスモークを描く。背景となる空の色をエアブラシで吹いて、随伴機は、飛んだ。
プラモを作るのは楽しい。楽しいが、あらゆることに気を配っていたら時間がかかりすぎることもある。人生は有限で、人間のモチベーションは儚い。もっともっとたくさんのプラモを作るために。少しの満足感を何回も何回も得るために。僕はいつでも「このプラモを通して何を見たかったのか」を考えるようにしようと思う。
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模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。