「アニメ」という、画面の奥にある物語。キャラクター達が生き生きと動き回る、触れることのできない平面的な世界。それと対を成すのが「プラモデル」。動きはしないけれども、自らの手で組み立て、その物語に干渉し、立体的に鑑賞することができるキャラクタープラモデルは、アニメーションと兄弟のようなものだと私は考えます。
数あるロボットアニメの中でも抜群にミリタリー色の濃い『太陽の牙 ダグラム』。その登場人物たちが、1/72スケールのミリタリーミニチュア的なプラモデルとしてマックスファクトリーより登場しました。物語の主人公たち「太陽の牙」主要メンバー10人と、ホバークラフトの「グランド・サーチ」が立体化された本作。ミニチュアは指の第一関節ほどの小ささなのに、本当~によく出来ています。
”よく出来ている”というのは、彫刻がとても緻密で……というのは勿論なのですが、それよりも”雰囲気が良い”というニュアンスの方が強いでしょうか。10人それぞれの顔つき、骨格、立ち振る舞いなど、キャラクターとしての個性が1/72スケールのミニチュアとしてうまく取捨選択され、とても生気を感じる造形なのです。
太陽の牙の戦闘員は、その露出度の高さがチャームポイント。半裸とはいかないまでも、だいたい3/4裸で日頃からゲリラ活動を繰り広げています。その露出した肌のなめらかな造形と、面積の小さな戦闘服のくたびれ感のコントラストが楽しいです。ミリタリーミニチュアとしてはこれ以上無いほどユニークでしょう。
とくに面白いと感じるのが顔の造形。アニメキャラの立体化なのですが、平面でペターっとしたアニメキャラ然としていません。目元の掘りが深く、現実の人間に近い顔つきをしているのです。アニメ・ダグラムのキャラデザもそれなりに目は小さめで、リアル寄りではあるのですが、それよりも更にリアル寄り。かといって、実際の人間の顔ともちょっと違うような、なんだか実在していそうな、2.5次元的な造形バランスの良さがとても面白いと感じます。
さてさて、造形の素晴らしい太陽の牙セットですが、これだけ小さいのにプラモデルとしての面白さまで、ぎっちり詰まっています。見たことのない分割のパーツと、それによる組み立ての工程はエキサイティングで最高です。エキサイティング、やっていきましょう。
入り組んだ複雑な造形の表現と、色塗りのしやすさを両立させるため、機転の利いた美しいパーツ分割が多々あります。そのうちのひとつがこちらのチコちゃん。いたずらにパーツを増やしてディティールを追い求めるのではなく、わずか2パーツで簡単かつ豪快かつ必要十分な彫刻が楽しめるナイス巨漢です。
もし手と足と銃がバラバラだったら、このサイズで膝立ちポーズの接着はなかなか難しいでしょう。塗装する人にとっても、接着前に太ももの塗装をしておけば塗り分けが楽ですね。
巧みな分割のおかげで、誰が組んでも固定ポーズがバシっと決まります。姿勢が良いキャラはキリッとカッコよくなりますし、ダルッとしたポーズの奴はアウトローな雰囲気がキマります。
既存ダグラムシリーズのプラモと同スケールなので、並べて遊ぶと人数分、間違いなく10倍は楽しいです。クリンがダグラムの横に立てば、その巨大さとコクピットのサイズ感から乗り込んで操縦できそうな雰囲気がよく伝わります。逆に「闘志の象徴」としてのダグラムが横に仁王立ちしているだけで、クリン達まで強くカッコよく見えてきます。
そんな「ロボットと人間の物語」としてのダグラムの魅力を模型によって体感出来る「太陽の牙セット」は情景プラモとして大変素晴らしい出来栄えとプレイバリューを秘めています。ダグラム好きにはたまりませんし、原作をまだ知らずともダグラム入門として完全にアリです。
プラモデル単体でも十分楽しめる上に、ロボットと並べることで雰囲気のある情景が生まれる楽しさは、アニメや漫画を鑑賞する楽しさにまったく引けを取らないのですから。
ハイパーアジア
1988年生まれ。茨城県在住の会社員。典型的な出戻りモデラー。おたくなパロディと麻雀と70’sソウルが大好き。