
「君はシトロエンDSに乗ったことがあるか。」そんな言葉で始まる説明書のプラモデルがある。エブロの1/24シトロエンDS21だ。そこには詳細なスペックなど書かれていない。夜の住宅街でDSに乗った時、ヘッドライトがステアリングに連動して動くことについての驚きと感動が綴られているのだ(その下は単純な英訳ではなく、主にDSの先進性やデザインについて語られているのが面白い)。
対向車も現れない深夜の道路を、ひとり車で走っているとき「世界には自分と車だけだ」と思うことがままある。それはプラモデルを作っているときにも、よく感じることのように思う。

プラモデルを開封し、パーツをひとつひとつ組み上げていく。その時に見えてくる、さまざまなカタチのキラキラした街並み。どうやって塗装しようか……と組み立て、走りながら悩み考える時間。それらは夜道のひとりきりのドライブに似ている。静かで涼しい時間だ。






実物がどのような機能を有していようが、プラモデルはそのカタチを抽出し、愛でるための物体だ。しかし、そのカタチを愛でるためにも、何が美しいのかを感じ取るためにも、まずは言葉ありきだ。そんな外箱のエッセイ(だったもの)と、プラモデルの物理的融合を果たせたのではないだろうか。感無量だ。
シトロエンDS21のステアリングに追従するヘッドライト、流線型のボディ。これらはまさに未来への道を明るく照らし、スッと優雅に進んでいくデザインのように思う。その威圧感を与えない優しいカタチをしたヘッドライトは、今まで作ったどのプラモデルよりも美しく、眩しかった。