模型を近くで/両眼で見るということ 〜「ふくよかな立体感」の話。

 小さな模型には、実物(大きなもの)とはまったく違った鑑賞体験があります。遠くにある実物をそのままの遠近感を持ったカタチで目の前にに引き戻したような、「圧縮された立体感」があるのです。さらにその小さな模型を、「近くで見る」こと自体も、模型が私達を惹きつける重要な理由のひとつだと感じます。

 以前作った、小さくてかわいい私のお気に入りプラモ、スイート1/144メッサーシュミットBf109は、表と裏の色を全然違う色で塗ったので、見る角度によって印象が全く変わります。しかし、模型をちかくで、両眼で、見るといったときに得られる印象は、もっとミニマルな角度が関係してきます。

 普段、私達は2つの目でモノを見ています。両目は約7〜8cm離れて水平に並んでいます。その為、何かひとつの物体を見つめているとき、左の目と右の目で見ている映像は全く同じではありません。角度的なズレ、「両眼視差」(りょうがんしさ)があります。

▲近くのものを見る時は、両目がより角度のついた視線になり、左右の目で得られる情報は異なります。
▲遠くのものを見るときは、遠ければ遠いほど両目の視線が平行に近づいていくので、左右の目で得られる情報にどんどん違いが無くなっていきます。

 モノを見る距離が近ければ近いほど、左目で見たモノと右目で見たモノの見えている「面」が異なります。その2つの視覚情報を脳内で合成し、1つの物体として認識するため、立体としての量感、空間を伺い知ることができるのです。逆に、目視の対象が遠ければ遠いほど、左右の目で見る情報の差が少なくなり、脳内で合成されたモノの見え方も平面的なものになっていきます。

▲遠くにある山や雲は平面的な”画”として目で見ているに過ぎません。それでも山や雲に立体感を感じるのは、空気遠近(遠くのものが霞んで見える現象)や、光や影の付き方、知識や経験則によるもの。

 また、立体感を得る要素のひとつに「ボケ」があります。近くで模型を見るということで、背景がボケて、モノの存在感が増すように感じられるのです。

▲まず片目をつぶって、ドイツ兵(人差し指でもOK)を顔の前にもってきて、もう一方の目で凝視してみます。

 片目だけで見た像は、両眼視差で得たステレオな情報の像とは違い、平面的な画(写真)と同じです。しかし、この平面的な画に奥行きが見え、大体の距離感がつかめるのは、背景のボケ具合や、手の大きさの見え方から距離が憶測できるためです。

▲今度は、ドイツ兵をさらに顔に近づけて見てみます。

 目視の対象を顔に近づけるほど背景のボケ具合は増し、凝視したドイツ兵が周りの背景から切り離されます。その存在がますます浮かび上がるのです。

 そして両目を開けてみます。ボケ感があり、角度のそれぞれ違う、2つの視界が脳内で合成され、片目で見た時とは違う、とてもはっきりとした存在感が生まれます。小さい模型を近くで見るということは、ボケ感と両眼視差を最大限に含んだ立体の情報を見るということであり、遠くにあるもの、大きなものを見つめることとは違う、”ふくよかな立体感”を感じることができるのです。

 写真で表現できる模型の美しさはたくさんあります。しかし、写真では表現できない立体感というのも確実に存在し、それは模型をその手で持った時、机の上に置いた時、実際に眼の前で見た時に姿を表します。「プラモデルを作って、目の前で見る」まず、これだけで最上の視覚体験のひとつを楽しめると思うのです。

ハイパーアジア
ハイパーアジア

1988年生まれ。茨城県在住の会社員。典型的な出戻りモデラー。おたくなパロディと麻雀と70’sソウルが大好き。