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文学とプラモの交差点──F-86セイバーと楽しむ村上春樹の世界/「風の歌を聴け」

 世の中に「飛行機やプラモデルについて書かれた本」はごまんと存在する。プラモをメインに据えたホビー雑誌は国内外の隔なく何タイトルも存在するし、写真集や資料本など数えきれない。しかし、文中で飛行機や戦車、プラモデルが登場するのは何も専門誌だけではない。小説を読んでいるとふとした場面で美しい銀翼の戦闘機が登場して、快晴の青と日光を受けてギラギラと輝く銀翼とのコントラストが頭から離れなくなってしまうこともある。村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』もそういった印象を与えてくれる小説だ。

 『風の歌を聴け』は1970年の夏、大学生の僕が友人の「鼠」やジェイズ·バー、店主のジェイや様々な女の子たちとの出会いや別れを描いた小説で、村上春樹が発表した初めての作品だ。全部で40の章で構成される中、第31章で以下のようなシーンが登場する。

 晴れわたった空を、何機かのジェット機が凍りついたような白い飛行機雲を残して飛び去るのが見えた。
 「子供の頃はもっと沢山の飛行機が飛んでいたような気がするね。」
(中略)
 「P38?」
 「いや、輸送機さ。P38よりはずっとでかいよ。とても低く飛んでいた時があってね、空軍のマークまで見えたな。・・・・・・あと覚えてるのはDC6、DC7、それにセイバージェットを見たことがあるよ。」

 村上春樹『風の歌を聴け』講談社,2004年,114~115頁

 「僕」と「鼠」がホテルのプールで空を見上げて昔の思い出に触れるシーンだ。これを読んだ私は、ふと模型棚の中にセイバーのキットを積んでいたのを思い出した。「フジミ 1/72 F-86-F40 バリューセット」。バリューセットの名の通り、各航空団のデカールにブルーインパルスのデカールをセットした何とも贅沢な一品。ブルーインパルスカラーも捨てがたいなぁ・・・・・・などと思いながら、先ほど読んだシーンを思い返す。

 この綺麗な流線型の機体を組み立てて銀色に塗り、あのシーンのような青空に浮かべてみたらきっと清々しいだろうなぁとパーツを撫でてみる。塗装前の、組み立ててすらいない(主翼だけは過去の自分が組み立てていた)パーツのツヤ感と繊細な筋彫りが美しい。しれっと空対空ミサイル「AIM-9 サイドワインダー」が付属しているのも嬉しいポイント。ところどころに見えるバリも、このキットが長年愛されてきたことをうかがわせる。 

 『風の歌を聴け』以外にも、飛行機が登場する作品は多数ある。本を読み、作中に登場した飛行機のプラモを手元に置いて、作品世界に二度没入する。プラモ好きだからこそできる作品の読み解き方、ぜひお試しあれ。

菅のプロフィール

2003年生まれ。飛行機模型を作りながら純文学を嗜む大学生。

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