

■TYRREL 021
Production Year:1993
Engine:YAMAHA OX10A Spec-H 3493cc
Featuring:Five-valves per cylinder
Anhedral front wing
このスペックが書いてあるだけでTRUTHが聞こえて来る人は相当ベテランで、おそらくこのマシンについては解説する必要もないぐらいのマニアでしょう。1993年のF1グランプリ、まさに日本では猫も杓子もF1という黄金期大ブームの真っ只中。

ああ、フィルム撮影時代。全面に写真のパッケージは数あれど、ここまで攻めた、疾走感のみのパワーあふれるものはなかなかないでしょう。F1ファンなら、この時代の空気を敏感に感じ取れるでしょう。あるカメラマンと話すと、このころはフィルムカメラで何もかもが一発勝負、サーキットを駆けるレーシングマシンをいかに切り取るかというのはもろに才能を感じる仕事だったそうです。

普通の写真もあるし、通常のティレル021パッケージはイラストでした。秋の日本グランプリ、鈴鹿には金曜から多くのF1ファンが詰めかけ、日本人F1パイロットもフットワーク・アロウズの鈴木亜久里、この日本グランプリから2戦鈴木利男がラルースからスポット騎乗と、たくましい日本のレーサーが参戦。そしてこのティレル021には片山右京が、そしてエンジンには日本のメーカーヤマハが、伝統のチームに集っていたのです。

このマシンを作ったティレルはF1のハイノーズ化に先鞭をつけたチームで、それが継続しています。ティレル021ではそれまでまっすぐに伸びていたノーズが高いままツルンと下向きに下がる部分が特徴で、パイロットの納まるモノコックには、上面につるっと麗しい流れが、そして下方にはくびれがあります。これは2025年のマシンデザインに連なるところです。

ヤマハのF1エンジン。華々しくホンダが活躍し、そして去った1993年、日本のメーカーのエンジンとしてはまだまだ成長中で、ジャッドというこれまたエンジンメーカーとタッグを組んだ時期です。もう一度、本場イギリスのメーカーと組んで力をたくわえる時期ながら、ヤマハが熱心に取り組んでいた”5バルブ”という吸排気の核心部の新システムが息づいています。

タイヤはもちろん軟質素材。じつは1993年から後ろのタイヤが細くなり、現在のような前後のタイヤ幅が近いスタイルにつながっていきます。実車も使っていないタイヤは中央にパーティングラインがありますよ。

デカールは機体上方の白や赤をカバーしています。このころは大人の事情で広告が部分的に変化することもよくありましたが、このティレルではChallengespiritINという謎に中央に文字を固め打ちしたスタイルがみられます。

……台紙の端に、よくわからないけどABCというデカールがあります。チャレンジスピリットがインすれば、切り替えて小屋にできそうですねぇ〜〜。何のことかわからないぐらい、遠い時代になりました。

ヘルメットのパーツこそありませんが、デカールは入っています。左が片山右京、右はチェザリス。かたや「神風」そして「壊し屋」の愛称(どっちも愛称だよ!)のコンビとなっていて、どちらも……そういやタバコメーカーのスポンサーが強かったですね。日本グランプリでは片山右京は予選会心の13位(このころはこの順位でもすごかったんですよ)、決勝レースは途中から雨が降る特殊なコンディションだったのですが、雨の前にリタイヤ。チェザリスはあだ名の通り最初の周でクラッシュしています。

そんな日本グランプリ、右京の輝きを再現するためのパーツがこれ。ホワイトメタルで作られたヘッドレスト、そして車載カメラです。左右にウイング状に突き出たカメラはモノコックに取り付けられ、前と後ろを撮影する、というアイテム。そして中央のヘッドレストは、右京のヘルメットを支えるために突き出たパーツがあります。パッケージ側面の写真で見られますよ。

いま1993年のF1マシンのプラモデルが、その当時の空気をパッケージングしたまま、30年経ってあらゆる切り口で熟成され、泣けるプラモデルになってしまうという面白さがあります。F1黄金期の熱狂、まだF1キャリアの序盤だった片山右京とその後の物語、そして同じくヤマハエンジンの苦闘、ティレルというチーム……後の話を知っているからこそ、いまこのマシンを紐解く価値がさらに積み増しされたわけです。これは実のところ、スケールモデルならあらゆるモチーフに言えることですね。