艦船模型の花形である「戦艦」のプラモで、ハセガワの金剛は2時間ほどでぺろっと食べられる美味しいプラモです。戦艦ってすごい細かなパーツが多くて難しそうじゃん! ってイメージを良い意味で裏切ってくれます。
「ハセガワ 1/700 日本海軍戦艦 金剛」は、1992年〜1993年、日本の艦船模型においてウォーターラインが新たなスタートを切った大事な年に発売された戦艦のプラモデルであります。
ウォーターラインシリーズは、静岡のタミヤ・ハセガワ・アオシマ・フジミの4社共同でスタートした艦船模型シリーズ。各メーカーがそれぞれ船を担当し、広大な海の記憶をプラモにしていこうというものです。しかし1992年にフジミが脱退(その後フジミは2008年を皮切りに艦船模型を爆裂リードします。それはまた別のお話)。フジミが担当していた船を3社が分担して再度開発することになりました。フジミの脱退により、ある意味艦船模型の2週目が到来したのです。そしてハセガワは、フジミが担当していた金剛型を、1993年に発売します。現行の体制になってからでは、最も古い戦艦キットでもあります。
その当時の最新考証で生まれたハセガワの金剛。開発の都合上、船体は共通パーツとなっており、金剛型4隻の細部の違いまでは表現できていません。しかし、艦橋や煙突、後部艦橋など「船の個性」が出る部分には別パーツが用意され、それぞれの違いを演出しています。現在の各艦を新規パーツでバリバリ再現!! みたいなマッチョなプラモではありません。
過去のモチーフに模型で触れるように、僕たちは模型自体の歴史の流れに触れることもできます。同じモチーフでも古いプラモ、新しいプラモがあり、それらが今でもお店で同じ棚にいるから……。プラモデルならではのこの状況は、僕たちにとってとても幸せなことだと思います。
こと艦船模型だけに注目してみると、最近のキットは「超高解像度」「繊細なプラパーツ」「さらに解像度をあげる金属パーツ」というものが当たり前のようになっています。フジミ模型が接着剤不要の艦NEXTシリーズなどで敷居を下げてみようというアクションはありますが、あのシリーズも非常に「現代の艦船模型の趣向」を組んだ細密モデルであり、まだまだハードルの高さを感じます。
プラモデルを作る。僕たちのようにたくさんプラモを作ってきた人たちはより良いもの、最新のものをお出ししがちですが、もしかしたらそれはこれからの人にとってはとってもヘヴィなんじゃないか……。形を知る、艦船模型や戦車模型など、それらの世界ならではのキット構成やパーツを貼る楽しさ、パーツを切ったり掴んだりしてワクワクすることは実は先輩プラモの方が寄り添ってくれることもあるのでは……。そういう視点でもう一度プラモを見て、誰かに紹介する。細部の違い、考証の面白さも、まずは模型を形にしてみることからスタートすると思う。多くの人がそのジャンルに入っていけるプラモはどれだろう……。
模型ってのは優れていると思える基準が人の数だけあると思います。だから、艦船模型がバキバキなマクロの世界に閉じこもるだけだと勿体無い。模型店の棚の前でもっともっと考えても良い時期が、僕にも来たのかもしれないです。ハセガワの金剛は、僕に様々なことを問いかけてくる、そして、すごく楽しい模型でした。
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)