ハセガワ製「川崎 キ48 九九式双発軽爆撃機II型’特別装備機’」。特別装備と書かれていますが、特攻機です。 パッケージイラストでもわかるのですが、九九双軽は本来4人で乗るものです。それが、後部ががらんどうで、コクピットにたった一人のパイロットが見えるだけです。そして前部で伸びているのが起爆信管です。これが的に当たった瞬間に、腹に抱えた800kg爆弾を爆発させます。飛行機もろとも。
これが、とてもいいキットなんですよ。過不足ないスジ彫りと、羽布張りの部分で表面をそれっぽく仕立ててあって、1/72らしいちょうどよいディテール感。これを特攻機にするのは、忍びないなあ……。
信管は真鍮線を切って自分で再現することになります。初期の3本信管と、実戦段階で改めて1本に整理したバージョンを選択して作ることもできます。しかし、調べてみるとこの機体、とてつもない来歴を持っていたことがわかります。万朶(ばんだ)隊という陸軍航空隊初の特攻隊で運用され、実際に特攻で何機も消えていったのですが……。そのなかにたった一人、何度も”特攻”を命じられ再出撃しながら、生還を果たした特攻兵がいたというではありませんか。
『不死身の特攻兵』。この万朶隊にて九九双軽を駆って、最後まで生き残った佐々木友次伍長の話は、この本にまとまっています。帯にも見覚えのある航空機が居ますね。佐々木伍長は21歳という若さで、こうした特攻と向き合うことになったという凄まじい運命を持っています。しかし生き残った。
九九双軽は結果的に他の特攻隊員によって使われ、万朶隊の機体はすべて失われました。特攻という自らの身を賭さねばならない状況で、その運命を受け入れた人、そして運命と戦った人……。飛行機としてそこにあった九九双軽のキットにこれほどまでに背景があるとは……。
この趣味は模型を通じて様々な資料に触れることも多く、そのたびに考えさせられるものが多くあります。九九双軽に限らず、人類の傷としての記録がプラモデルには時として残っているのです。これがミリタリーモデルのひとつの側面であり、興味深く、ひとつのキットを作るだけでたくさんの物語を知り、そして考えることになります。
だからこそ、まとまった結論など出るはずもなく、常に考えることが大事なのだとを意識しています。また立場が変われば意見が変わるということも当たり前のことで、兵器だって片方から見れば悪魔のような存在であり、片方から見れば自らの命を助けた存在でもあるのです。
佐々木友次さんは、航空機を飛ばすことがとても好きだったように見えます。九九双軽は運動性能がよく、その心に答えてくれたのではないでしょうか。書籍のなか、2015年のインタビューにあった会話の中に、この機体を評した話があります
”なんせ私達は双発のあんまり評判のよくない双軽に乗ってあちこち行きましたけど、乗ってみたら乗りやすいいい飛行機なんですよね。それで、これに乗って自爆したくないっていう気持ちがありますからね”
–−『不死身の特攻兵』,鴻上尚史,2017,講談社現代新書
最高の褒め言葉でしょう。
各模型誌で笑顔を振りまくフォトジェニックライター。どんな模型もするする食べちゃうやんちゃなお兄さんで、工具&マテリアルにも詳しい。コメダ珈琲が大好き。