54年の歴史を誇るタミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ最新作に「アメリカ歩兵偵察セット」が登場。こいつはマジですごい。オレは戦車模型作らないから……とか、フィギュアは塗るのが大変だから……とか言ってる場合じゃない。上の写真を見れば分かるとおり、もうなんかリアルすぎてちょっと怖いくらいの完成度なのだ。組んでそのまま置いといてもいきなり動き出しそうである。それくらい自然で、生き生きしている。まず組んで机の上に置こう。ずーっと見ていられる。色が付いてるとか付いてないとかはこのさい脇に置いといていい。人間が小さくなっているってことが、そもそも面白すぎるのだ。
調べてみたら本シリーズで発売されたアメリカ人のチームは「アメリカ戦車兵セット (ヨーロッパ戦線)」からじつに7年ぶり。戦車兵じゃなくて歩兵で言うと「アメリカ歩兵 攻撃セット」というのがあり、これはなんと27年前の製品である。その間にプラモの設計はデジタル化が進み、戦車や飛行機だけでなく、人間も3DスキャンしてからPCの画面上でグリグリと盛ったり削ったりして造形し、そのまま金型を彫ることができるようになった。デジタル造形の時代だ。パーツの分割も、そのフィット感も、シワや装備品のリアリティも、異常なまでに高い。ついこの間発売されたように記憶しているドイツ歩兵セットよりもさらに”進化”している。
これだけだと「はいリアルになったんですね出来がいいんですねそりゃそうでしょう昔と今とは違うもん」という気持ちになる。正直オレもなった。なぜならアメリカの歩兵に詳しくないからである。単に「出来がいい」「昔より凄い」だけではおもしろくない。このフィギュアがいることで、我々がどう幸せになるのかが大事である。そこでアメリカの歩兵に詳しいヤツに話を聞いた。
「ああそれな」とヤツは全部わかったような顔で(LINEだから顔は見えないんだけども)語りだす。
「まずさあ、全員がM1943っつうフィールドジャケットを着ているでしょ。第二次世界大戦末期のアメリカ歩兵ってのがイッパツでわかる『全員M1943』というフィギュアセットはいままでタミヤからは発売されてなかったんよ」
そもそもアメリカ歩兵はM1941とかM1943というジャケットを着ているらしい。はあそうですか、とタミヤのサイトを眺めると、たしかにこれまでのタミヤ製アメリカ歩兵セット(ポーズとかシチュエーション違いでいろいろ発売されている)はその両方が入り混じっているものばかりだ。
「ノルマンディー上陸作戦後、フランスとかドイツあたりで戦ってる最前線の米軍の歩兵ってのがもう戦争末期なんだけど、M1943っていう最新のジャケットが全部支給されるまでにはめっちゃ時間がかかるわけよ。箱の横にも『1944年後半に支給開始』って書いてあるとおり、このプラモから見えてくるシチュエーションはもう戦争も末期の末期という感じなんだわ」
「戦車と歩兵が直接戦うってのは『プライベート・ライアン』とかで見たかもしんないけど、あれは1944年の6月。見直すとわかると思うけど、フィールドジャケットは茶色いM41しか登場しないわけ。今回のプラモみたいに全員が緑の服……つまりM43を着てるのはもっと後の時期で、『フューリー』とかのほうが近いんだよな。1945年だねもう。ガンダムで言うとソーラ・レイ撃っちゃうくらいの時期。」
俺は何でもガンダムで例えられないとわからない。つまりアレだ。ガンダムで言うところの、ジオン軍の中枢にいよいよ攻撃を仕掛けるぞって頃の装備なわけだ。そう考えるとイメージが湧きやすい。周りにいるのは旧ザクとかズゴックじゃなくて、めちゃくちゃ練度の高いザクとかドムとかゲルググばっかりなんだろう。ア・バオア・クーだと思ったらめちゃくちゃ盛り上がってきた。
「そうすると何がいいってさ、みんな大好きなタイガー戦車とかキングタイガーとか、アメリカ軍ならパーシングとか、そういうバケモンみたいな戦車と一緒にいても問題ないわけですよ。『歩兵がこの服着てた時代にこんな戦車はいませんでした〜』とか指摘されなくて済むの。もう何でもあり。ジオングもOK。」
たしかにミハルがビグザムと一緒にいると、時代考証的にややこしいことになりそうだ。というか一年戦争はタイムスパンが短すぎて頭が混乱する。それはそうと、独戦車と米戦車がバトルしているならまだしも、歩兵と敵戦車が同居しているというのはあまり想像しにくい。なんかもう激戦の真っ最中みたいなポーズならわかるが、こんなおとなしく偵察とかしているシチュエーションはないんじゃないのか。
「鉄砲も構えず冷静に立ってるポーズとか無線で連絡を取ってるポーズというのはね、いまは周囲に緊急度の高い脅威がないってことだと思えばいいんじゃないですかね。味方の車両のドライバーから『元気っすか〜』って聞かれているシチュエーションでもいいし、『隣町から歩いて来ました』みたいなシチュエーションでもいい。でももっと凄いのは、ドイツのめちゃくちゃ強い戦車が横でぶっ壊れているという状況が『アリ』になることじゃないかな……。」
たしかにそうだ。これはどう見ても「キングタイガーが現れた!もうダメだ!戦うぞ!」という状況ではない。これらのモンスターみたいな車両をぶっ倒し、この街は基本的に制圧したんじゃないかな、どうかな……みたいな感じで彼らはある程度リラックスしている、と捉えたほうが自然だ。
タミヤ 1/35 MMシリーズって『めっちゃ強いドイツ戦車』の人気で盤石の地位を築いたと思うんだけど、実際それで情景を作りましょうとなるとかなりとんでもないことになるんだよね。だだっ広い平原でドッカンドッカンやってるとか、瓦礫まみれの街中で一進一退の死闘を繰り広げているとか……。でもそういうジオラマって人形遊びみたいなおままごとレベルでも作るのが難しい。
「だけどさ、このフィギュアがあればドイツの戦車が横にあっても『あ、こいつは無力化してるんだな』ってことがわかるんですよ。しかもどんな強い戦車がいても大丈夫。なんせ末期のアメリカ歩兵だから。なんならすんごい強いドイツ戦車をぶっ壊して横に置いとくだけで、もうシチュエーションはバッチリなわけです。」
「それにさ、鉄砲を持っている場所とかも凄いと思うよ。重たいのはストックを地面に付けてるし、M1カービンとかガーランドは『そうそう、そのポーズだとそこを持つよね』っていう重心の捉え方がマジでうまい。うまいっつうか実際持ってる人を3Dスキャンしてるからそれはもう完全な『リアル』ってことですわ」
そう、このプラモの凄いところは「なんとなくポーズを決めてから成り行きで鉄砲のパーツを手に添える」のではなく、鉄砲を持つ都合で手の位置がビシバシと決まるところ。おかげさまで、「全身を組み立ててから適宜鉄砲を持たせる」という順序では組み立てられないフィギュアが含まれているのだ。
「あとさ、グリーン・アーミー・メンっておもちゃがあるじゃん。そもそも『緑の服を着ているアメリカ兵』っつうイメージはM43から来ているようなもんだから、戦後の西側の兵士のイメージの祖先と言っちゃっていいと思う。それから……」
オーケイ、わかった。もういい。じゅうぶんだ。
言われたとおり、ドイツの駆逐戦車の作りかけを瓦礫の後ろに置いて写真を撮ってみた。たしかにこれは、末期だ。話し声や息遣いまで聞こえてきそうなこのシチュエーション。敵の中枢近くに突入し、まもなく敵軍を制圧せんとするアメリカ兵。どことなく漂う彼らの余裕と、兵站が最前線まで行き届いている様子。そんなことまで読み取れるからこそ、タミヤ1/35MMシリーズの戦車模型をよりいろいろなシチュエーションに連れて行ってくれる新たな5人は、多くのモデラーに称賛をもって迎えられている。みなさんも、ぜひ家に彼らを招いてほしい。置くだけで、ぐっと情景の幅が広がるはずだ。