新橋のタミヤプラモデルファクトリーに行くととにかく大量にタミヤのロゴが輝くパッケージが目に飛び込んできて大興奮してしまいます。いったん落ち着いて深呼吸して、棚のフックにかけられている「袋入りキット」に目を向けてみましょう。ショップスタッフが吟味した「あの名作キット、じつはここが大トロなんだぜ……」というパーツだけが袋に入れられて大量に売られています。クルマのドライバーとか、空母の艦載機とか、古い戦車に乗っていた兵士とか、往年のレースカーのホイールとか……。で、私はいつもイタレリというメーカーの建物キットをヒョイとつまんで買うようにしています。なんせ安いし、置くだけでドキドキしてしまうから。
レンガや漆喰、石積みの部分がちまちまと彫刻されていてそれぞれ質感が違います。イタレリの建物シリーズにも何種類かあるのですが、これは1/35の「ハウスコーナー」(=家のカド)です。プラスチックのパーツだけがボロンと入っていて、説明書も塗装指示もいっさいなし。実売価格は638円でした。
どこがどう組み合わさるのかは「イタレリ ハウスコーナー」で画像検索すればすぐに分かります。平らなところにパーツを置いたら合わせ目に流し込みタイプのタミヤセメント(速乾)をツーっと染み込ませます。これで数秒待っていればとりあえずカタチになります。家の壁なんか組んで何がおもろいんスカ?と思うかも知れませんが……。
出来上がるとこんなふうに「カド」が出現します。平面に建物の彫刻が入っているだけだとなかなか難しい奥行きのあるレイアウトができるのがいいところ。ただポンと壁を置いて空間をL字に区切っただけで、こんなにおもしろいのか!と驚くはずです。建物の奥に被写体を置いてからグッと寄ってドア越しにピントを合わせれば、建物が前ボケとなっていっそう奥行き感が出ます。
もちろん石積みやレンガのディテールに合わせて色を塗るのもかなり楽しい。塗装指示もまったくないからこの建物をいかに見せるかは完全にあなたに委ねられています。どうすればレンガに見えるのか、石ってどんな色だっけ……とか、いろんなことを考えながら筆をペタペタと動かし、だんだんと建物になっていくのもいいですし、もちろん無彩色でも陰影がついてジオラマを作ったのと同じくらいの情報量がドーンと足されてしまいます。タミヤプラモデルファクトリー新橋店でこの「壁」を見つけたら、マストバイなんですね。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。