音楽配信の隆盛で売れなくなったと言われてきたレコードやCDが最近はめちゃくちゃ売り上げを伸ばしています。どんなカルチャーにも定期的に起きる「逆張り」と切って捨てることもできるかもしれないけど、物理的なメディアを所有するのがイカすという気持ちは誰にも必ずあるはずです。
そしてなにより、ジャケットやライナーノーツが音楽を楽しむのにとても大事な役割を果たしていた、ということに気づく人が増えてきたのかもしれません。プラモデルにも「ジャケ買い」があり、ライナーノーツ……つまり、説明書によって引かれた補助線がただのプラスチックパーツをいっそう輝かしいものにしてくれます。
シュトルモビクという名前を聞いてピンと来る人は、言ってみれば「飛行機ツウ」でしょう。そうじゃない人でも、たぶん「独ソ戦勃発、最も必要とされる機体に」という見出しを目にしたらなんだか気になります。
このプラモデル、タミヤの飛行機模型のなかでも出色の気迫を放っています。パーツに刻まれた精緻な彫刻が「軍用機史上最多の通算36,000機以上が生産されたにも関わらず、おそらく飛行機ツウ以外はそんなことを知らないよね……。でも、このプラモデルを通じてそれを感じてほしいんだ!」と語りかけてくるようです。
胴体前半には敵の攻撃からパイロットやエンジンを守るため防弾鋼板を示す継ぎ目やそれを留めるリベットが素晴らしい切れ味で表現されています。微妙な曲面で構成されたアウトラインも注意深く作っておきましたよ、と言わんばかりに周囲のワクがそれをガッチリ守るカタチになっています。
反面、機体後半部は木製なので表面がツルツル。ボーッと見ているだけではわからない機体の特徴も、なぜそうなっているのかを読めばグッと意味を持って目に飛び込んでくるようになります。
異様に大きな主翼の上面には凹凸の彫刻が入り乱れています。当時ドイツ軍の猛攻に反撃できる飛行機を作り、メンテナンス性を向上させ、強度を確保しようと必死に考えた痕跡がここに刻まれているのです。
シュトルモビクとセットになっているのはGAZ-67Bという四輪駆動車。アメリカ軍にジープがあったように、ソ連にも兵士たちを運ぶためのステキな車があったのです。軍用機史上もっともたくさん作られた飛行機と、戦後も含めれば60000台以上が製造された陸の傑作。もしあなたがその両方を知らなかったとしても、タミヤのプラモデルはとびきりのライナーノーツとともに、ふたつセットでパッケージしてくれているのです。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。