

F-14トムキャットという名前から「可変翼」「トップガン」「ジョリー・ロジャース!」といったキーワードが次々と浮かぶ人もいれば、「なんか戦闘機の名前ですよね……」という解像度の人もいるかもしれない。でもプラモデルコーナーに行けば、その存在感は圧倒的だ。F-14は50年にわたって軍用機でありながら、アニメや映画、模型の世界までをまたいで存在感を放ち続けてきたスーパーヒーロー。そんなF-14の歩みを、パイロット(正確にはRIO)の視点で丁寧にたどったのが、この『Half Century, Baby!』の邦訳、『ヒストリー オブ トムキャット F-14が辿った栄光の半世紀』である。これは単なる資料ではなく、トムキャットをめぐる物語だ。そして、その物語をたどることこそが、プラモデル趣味において本当に楽しい「入口」になる。
本書の見どころのもうひとつは豊富なカラー写真とアーティストのマッズ・バンソーによる120点以上のカラーイラスト。美麗で図鑑的な(’80〜’90年代に『学研の図鑑』で育った自分にはドンズバの)側面図はもちろん、各章の扉絵は側空母上での運用シーンや実戦の再現など、イラストそのものが「ジオラマ的な視点」を持って描かれている。どこかで見たマーキングが、いつ・どこで・誰によって使われていたのかを知ると、それだけで自分の作ろうとしている模型にも気持ちが乗る。つまり、漫然とトムキャット……ではなく、「このお話に自分も加わりたい!」と思える瞬間が生まれる。じつのところ、模型の入口に立ったばかりの人にこそ体験してほしいタイプの書籍と言っていい。

モデラーという人種は、つい細部を追いがちだ。どのバージョンのエンジンノズルがついていたか、この武装の組み合わせとパネルラインに整合性はあるか、脚庫に膨らみが追加されたのは何年の何月か……。もちろん、そういう楽しみ方もあるし、それを突き詰めるために図面と格闘するのも素晴らしい。でも、すべての人がそこにいきなり到達できるわけじゃない。なんとなく飛行機模型に興味を持った人は「好きになるところ」から始めたいし、さらに作りたいもの、作りたい姿を選べるようになるまでには、それなりの時間がかかる。その最初の一冊として、本書は圧倒的に優れている。専門的な内容も含んでいるが、総覧的だし章立てとイラストの力で読みやすく、なによりおもしろい。それが大きい。

実際にトムキャットに関わっていた人物たちのインタビューや回顧録は超絶リアルかつユーモアに富んでおり、それがゆえにプラモデルとの接続も自然だ。掲載されたマーキングのほとんどは、そのへんで買えるトムキャットのプラモデルに付属していたり、別売りデカールとして流通していたりする。ページをめくっていて、「あ、これ見たことある!」となる瞬間がきっとある。そこから模型の箱を開けて、貼りたくなる。資料を求めて右往左往するよりも、「どうしてトムキャットを作るのか?」という気持ちを大事にしたければ、この本は絶好の一冊だ。