組んだだけで「オレ、天才」。これに色を塗っちゃったらもう、誰もが「達人です」っていい出すんじゃないかというくらいのモンスタープラモデルが爆誕しました。え、色塗ってないんですかコレ。そう。オレンジ色とメッシュの黒、あとは赤いランプ以外塗ってないんすよ。貼っただけ。えーすごい。
ちなみにこれはGMA(ゴードン・マレー・オートモーティブ)のT.50というスーパーカーです。なにそれ、知らない。オレもプラモデルになるよって話を聞くまで知らなかった。知らない車をいきなりタミヤの最高級のプラモで教えられ、カタチから機構からその歴史に至るまで、あらゆる面で「わかり」が発生する。プラモデルってすげえよね。
パーツがこまかいんですよ。いっぱいあるんですよ。パーツが多くてチマチマしているとめんどくさそうでしょ。しかしタミヤは「マニアックさを出すためにめんどくさくしてやろう」「こまかく割っておけばどうせ正確になるだろう」みたいなことを思ってパーツを分割しているんじゃないんです。
これを買ったどんな人にでも絶対に組めるように、そして組みながら「えー、このクルマってこんな奇天烈なことを考えて設計されているんですか!?」ということが直感的にわかってほしいから、さらには「何も考えずに塗装して組んでも絶対に失敗しないよ」という親切心までコミコミで設計してるんです。そしたらこのパーツ数になった。組んでみりゃわかる。なんにも辛くない。このパーツのひとつひとつに意味があって、分かれていることにも一体化されていることにも意味がある。
まずカーモデルって言ったらボディパーツを見せるんですが、一体型のボディパーツは入ってません。黒いモノコックが入っています。このままだと到底クルマに見えません。これに窓や外装を貼り付けていきます。パーツは結構バラバラ。この設計メソッドは同じくタミヤの「マクラーレン・セナ」でも取り入れられていました。
ドア一枚見てもこれだもんね。まずシルバーのプラスチックの照りがスゴい。表面がツヤッツヤ。金型に顔が映り込むまで磨いてあること間違いなし。こんなきれいなパーツにヤスリ当てたり下地塗料を吹いたりするのはあまりおすすめできません。ゲートをキレイにカットしてそのまま貼るのがいちばんきれいに仕上がります。色を塗りたければ別に塗ってから切っても大丈夫です。
塗装するにせよそのまま貼るにせよ、キレイに貼れなかったら嫌じゃん。接着剤がはみ出したら泣くじゃん。オレは不器用なんだよ……という人はパーツを裏返して眺めてください。パーツのフチに設けられた微妙な段差はすべてノリシロ。パーツを所定の位置に置いて、合わせ目の裏からちょんと接着剤を流し込みましょう。このパーツだけじゃなくて、すべてのパーツに「あ、ここを貼れば絶対にオモテ面が汚くならないですね」というヒントが仕込まれています。それを見つけて攻略していけば必ずキレイに組めます。
そうは言ってもクリアーパーツは汚くなるじゃないですか……という君。クリアーパーツは貼らなくても固定される設計です。上の写真のようにすべての窓パーツの端っこに突起が出ていて、これを外装で押さえて挟み込む設計になっています。黒いモノコックと外装を接着するだけだから、クリアーパーツに直接接着剤を塗るところはありません。すごいよね。ちなみに黒いパーツもツヤありと半ツヤのところで最初から表面処理が変えてあるので、塗装する必要すらないと言ってもいい。
プラスチックはいいけどエッチングパーツは瞬間接着剤で貼らなきゃいけないんでしょ?もうそんなのはみ出したり一回ズレたりしたらおしまいじゃん……という君。エッチングパーツも貼る必要がないんですわ。このへん、じつは最近のタミヤ製品だと戦車模型(IV号駆逐戦車/70)でも研究されていたっぽく、ジャンルを超えたタミヤの設計の相互作用が嗅ぎ取れます。
リア周りのパーツはおよそカーモデルに見えないトンデモ形状。これの裏側にエッチングパーツをそっと乗せてからもう一枚のプラパーツで押さえ込んでいくというのは先ほど紹介した窓の固定方法とだいたい同じ。ただエッチングパーツは薄い金属板なので「しなり」が使えるんですよね。職人的な曲げ加工の技術がなくても、接着に過剰な気を使わなくても、微妙な曲面を実現しながら所定の位置にビシーっと収まるのが偉い。これからクルマのフロントグリルとか全部この方式にしてもらいたいくらいです……。
このキットのパーツ写真が世に出回ったときにSNSがざわついた前後サスペンションのスプリング。普通ならスプリングに見えるネジ状のプラスチックパーツを用意するか、実際にバネとして機能する金属パーツが同梱されますが、これは「プラスチックでホントにバネ作っちゃってるよ」というところがすごい。正直これは技術的に革新的なものでもなく、これまでにもいくつかのメーカーが実現してきた設計です。本キットにおいては「このバネ、自分の好きな色に塗りたい!」というニーズを見越してプラスチック製にしたんだとか(金属パーツを塗るのは下地処理が面倒で、動くと塗装が剥がれてしまいがちです)。
リアリティと加工性を両立したプラスチック製のスプリングをオレンジに塗ってピンセットでグニグニ。ちゃんと伸縮するし曲げても塗装は剥がれません。このクルマの設計における大きなチャームポイントなので、みなさんも好きな色に塗るとテンションが上がります。なんならシート、エンジン、スプリングを同じ色で塗るための1色が決まっていれば「オレのT.50」が完成するのがこのキットの恐ろしいところ。これに外装を塗るためのスプレーを1本追加すれば、もう完全にカラーオーダーをカマしたオーナー気分に浸れますよ……。
タミヤの1/24スポーツカーシリーズのなかでも過去最高に複雑で繊細な表現が盛り込まれたGMA T.50。「だから難しい」のではなく「にも関わらず確実に作り上げられる!」というところがスゴい。これを上級者向けとか初心者向けとか言わないタミヤがすごい。だってカーモデルに不慣れな人でも百戦錬磨のベテランでも楽しめるんだもん。「どこまでやるかを決めるのはアナタ。そのためのお膳立ては可能な限りやっておきましたよ」というのが、真のいいプラモだとオレは思います。
ところでGMA T.50ってどういうクルマなの……なんでタミヤがキット化したの?組んだらどんないいことがあるの?というのを書く暇がなくなってしまいましたね。それは別の記事で綴りましょう。今日のところは、まず買っときましょう。人類が進化させてきたカーモデルの最先端がここにあります。そんじゃまた。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。