また模型を作れるようになった、あの時の自分に会いたくて。
数度の大損傷にも関わらず太平洋戦争を生き抜いた日本海軍の武勲艦「響」。戦後も復員艦として多くの日本人を運びました。そして僕自身もこの「響」のプラモと友人のおかげで、またプラモ趣味に戻って来ることができました。このプラモを手に取らなかったら、きっと違う人生になっていたと思います。それだけ僕の中では大事な模型。
そして初めて作ったスケールモデルでもありました。25才の時だったと思います。
単純に仕事のプレッシャーで大好きな模型が嫌いになってしまい、それを心配した友人がヨドバシ新宿ホビー館に僕を引っ張って行きました。しかもほとんど覗いたことがない「スケールコーナー」。なんもわかりません。そして、もうプラモ無理や……と会社も辞めようと本気で思っていました。そこで差し出されたのがこの「響」でした。
「駆逐艦って言って小さいから組むだけなら1日で終わっちゃうよ。値段もお手軽だしね」と。その時、正直「買ったら組むしかないよね〜……」と思いましたが、信頼している友人の言うことだしなーと、全く知らない艦船模型をレジに持って行ったのでした。
これが後に月刊ホビージャパンから発売されたHow to本「艦船模型製作の教科書」へと繋がるのですが、それはまた別のお話。そして僕はこの響をなんと買った日に完成させてしまったのです。2年ほど模型が作れなかった自分が1日で。あの体験は本当にヘレン・ケラーの「ウォーター」のように、僕をプラモの海へと連れ出してくれました。
触ったことが無く、自分の視界に入ってなかった物と出会い世界が広がる。当時プラモの世界の広さを知る旅へと僕を連れて行ってくれたタミヤの響。僕にとっての大事なプラモ……。そして今また、nippperというメディアでプラモの海へと航海にでました。『あなたが再出発し、あの時感じたプラモの楽しさを多くの人と共有できる航海にしましょうね』と響からメッセージをもらった気がします。楽しい航海をしていきましょう。
■タミヤ 1/700 日本駆逐艦 響(ひびき)本体価格1200円(税抜き)
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)