アメリカンカープラモの歴史は3イン1の歴史だ。
本来は完成状態で出荷されていた実車プロモーション用の模型をあえて組み立てずバラバラの部品のまま、少年たちの心をくすぐるカスタマイジング・パーツを封入して「君だけの1台を作ろう!」と提案したことがアメリカじゅうで爆発的に受けた。
しかし、10年あれば少年は大人になってしまうし、新しくやってくる世代の興味はとてもうつろいやすい。3イン1カープラモの爆発的ヒットから10年以上、1970年代のアメリカンカープラモはその舞台裏で苦心に苦心を重ねていた。まるでトランプのスートのように考えられていたファクトリーストック(工場出荷状態)/カスタム/コンペティション(レース仕様)の3択に、いかに新しい選択肢を組み込むことができるか。
>ホビコレ MPC 1/25 1976 シボレー カプリス トレーラー付き 3in1
1978年式のシボレー・カプリス・セダンに新たに盛り込まれたのは、スペードのエースたるファクトリーストックに加えて、
・コード9C1パッケージ
・カリフォルニア・トーイング・パッケージ
このふたつだった。いかにも1970年代のアメリカらしい、というか、この時代でしか考えられないとてもいい提案だと僕は思う。
コード9C1はシボレー伝統のポリスカー・パッケージのことだが、本当は1978年当時にこの任に就いていたのはシボレー・インパラだ。カプリスがこの仕事に着任するのは1986年のことだから、いくらこの年に丸かったヘッドランプがドスのきいた角型に変わったからといったって気が早い。気が早いのだが、だからこそプラモデルの夢は現実に先行するのだ。
もうひとつの選択肢は、1960年代の熱狂を駆け抜けてすっかり大人になってしまったみんなへの大人っぽい提案だった。子供のころ夢中になって組み立てたけれど今は眠っている自慢のホットロッドカスタムを、最新のゴージャスなカプリス・セダンに牽かせて、憧れだったミューロック乾湖まで走りに行きませんか――南カリフォルニアの法律を遵守する大きく張り出したトーイング・ミラーももちろんばっちりパーツ化してありますから、ロードトリップの途中で愛車を傷つけてしまう心配はありません。もちろん、法定速度は守ってくださいよ!
このホビーの隆盛を支えてくれたベビーブーマーたちと歩調をあわせるように、提案もまた大人びてゆくプラモデルの姿がここにはある。
「でも、やんちゃだった頃のことは決して忘れるなよ!」
──平台トレーラーに履かせるにしてはあまりにかっこいいホットロッド風のホイールに込められた暗黙のウィンクに、あなたも気づくことができるだろうか。
>ホビコレ MPC 1/25 1976 シボレー カプリス トレーラー付き 3in1
1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。