ゴジラというモンスターを最初にプラモデル化したのは、やはりオーロラだった。
いまとなっては奇異なことに思われるだろうが、ゴジラはフランケンシュタインやドラキュラ、狼男らと同じユニバーサル・モンスターズの人気ラインナップに、キングコングと同時に加えられた。東宝制作の『キングコング対ゴジラ』のアメリカにおける配給権をユニバーサルが持っており、オーロラとの提携関係を思えばそれは当然のなりゆきであった。オーロラがとにかくどんどん目新しいモンスターをラインナップに追加しなければならないほど、ユニバーサル・ホラー映画のモンスター・シリーズは人気があった。日に8,000個の24時間フルタイム生産は尋常ではない。
こうした一方で、アメリカのホビーはもうひとつ、いわゆるアメリカンカープラモの大人気が加速していたのだった。自動車メーカーの販売促進用モデルをパーツ状態のまま、ユーザーである少年たちに組み立てて遊んでもらうという新機軸が大いにうけた。ひとつのキットの仕上がりをストック/コンペティション/カスタムの3通りから選べる「あらかじめ用意された自由」が、これまた少年たちの競いあう心に火をつけた。
この隆盛を横目にみていたオーロラは、あろうことか自社のモンスター・シリーズ用のカスタマイジング・パーツを発売する。フランケンシュタインやドラキュラに添えるクモ・トカゲ・ネズミ・コウモリ・ハゲタカ・狂犬、それに髑髏――これを使ってオーロラ・モンスターズを個性的にカスタムしよう!というプラモデル・コンテストが全米のおもちゃ店では当たり前のように繰り広げられた。
モンスターとアメリカンカープラモ、このふたつの人気が1965年、ついに禁断の融合を果たす。オーロラ・モンスターズがカスタム・ホットロッドに乗り込んで爆走しはじめたのだ。
全12種類のオーロラ・モンスターズの中から車を与えられた精鋭は6体。フランケンシュタイン、ドラキュラ、狼男、ミイラ男、1年遅れてキングコング、そしてゴジラ。ゴジラは特に気合い充分で、ヘルメットにゴーグル、ドラッグシュートまで背負い込み、日本からの参戦であることをわかりやすく示す魚の骨のフィギュアヘッドと特製ノリマキ・タイヤ(トレッド面ではなくサイドウォールに「米粒」彫刻があるのはそのせい)を装備したゴーカートに乗り込んだ。
「こんなものはゴジラではない!」と憤激したのは東宝だった。こうした悪ノリがゴジラの荘厳なイメージを損なうとして同社はただちにオーロラからライセンスを取り上げ、ゴジラ・ゴーカートは発売即絶版、オリジナル・キットは世界が求めてやまない「聖杯」になってしまった。
突如この「聖杯」が復刻されたのは1999年。仕掛けたのはオーロラの魂を受け継ぐポーラーライツだった。今回取り上げるパッケージは通算3度目の再販だが、再販の理由はやはり「1999年版が市場で『聖杯』になっちゃったから」。
人々が求める希望の数だけ聖杯はある。イエス・キリストの昔から、あなたの手許にやってきたものだけが真の聖杯なのだ。ぶどう酒をそそぎ、パンをひたして食べなくては、聖杯の奇跡は起こらない。