亀の時代のアメリカンカープラモ/MPC Turtle Wax 1982 Dodge Van Custom

 1バレルがたったの2ドル足らず。化石燃料が水のようだった時代があった。このころ自動車は成熟した猛獣・猛禽の域にあり、社会は尋常ならざる加速の只中にあった。その時代に死の鎌を振り下ろしたのがオイルショックだった。10倍にもはね上がった石油価格はガソリンをガブ飲みして猛り狂うマッスルカーの命脈を絶ち、うかつにアクセルを踏めなくなった者たちはみるみる減速し、次第に内向的になった。

 眠たい1970年代。大いなる亀の時代である。

ホビコレ MPC 1/25 1982 ダッジ バン カスタム タートル ワックス (未使用開封済み)
ホビコレ MPC 1/25 1982 ダッジ バン カスタム タートル ワックス (訳あり商品)
ホビコレ MPC 1/25 1982 ダッジ バン カスタム タートル ワックス

 1970年代はバンの時代だった。内にひきこもったまま移動することを望むようになった人々。──まさにバンは移動するマイルームそのものだった。

 毛筆フリーハンドの達人であるピンストライパーと呼ばれる職人が車のボディーに描く流麗で動的なコンターが、エアブラシで緻密かつ静的に描かれる壁画的表現や、オーナーの気ままな落書きに次第に押されるようになったのも無関係ではなかった。かつては居住空間にはみ出す勢いであったエンジンは次第に小さく静かに床下に追いやられ、そのぶん拡張された領域はオーナーのお気に入りのインテリアで満たされた。

 ふかふかした毛足の長いラグはとりわけ人気があり、そうした内装を張りめぐらせたバンはシャッギンワゴン(Shaggin’ Wagon)と呼ばれ、時代を象徴するカスタムスタイルの名になった。

 もはや誰も野獣や弾丸でありたいとは思わない。移動は太くダイナミックな線であることをやめ、点から点、ガレージから目的地の駐車場への単なる移動になった。スピード狂時代の熱い記憶はもはや色褪せ、駐車場で硬い甲羅で守られながら、ふかふかのラグに埋もれて観る午睡の夢になってしまった。

 このプラモデルはそんな時代の興味深い詰め合わせだ。

 亀はこつこつ勤勉なセールスマン。創業者が塗って磨けば甲羅のような硬い皮膜をつくり上げる自慢のワックスとウエスを手に、駐車場で冴えない車を見かけると勝手にそのフェンダーを片方だけぴかぴかに磨き上げ、驚くオーナーにすかさずワックスを売り込む手法で財を築いたタートルワックス。

 その商用車にしては奇妙にド派手なアウトフィットは、このプラモデルがもともとは夢見がちな個人が好き放題やらかしたカスタムバンのキットをそのまま復刻したものだからだ。巨大なウィングスポイラーは確かに無意味なデカダンス。内部にしつらえたソファーを覗けるオプションの透明サンルーフもまた同様。

 これは勤勉に仕事にいそしむふりをしつつ、実は駐車場での昼寝に特化したカスタムバンだ。
 いいじゃないか。プラモデルくらいはそんな自堕落な夢をむさぼったって。

ホビコレ MPC 1/25 1982 ダッジ バン カスタム タートル ワックス

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1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。