

自動車にはそれぞれ走るべき道がある。レースカーにはサーキットが、ドラッグスターにはドラッグストリップや塩の平原が、トラックにはいつもの配送ルートが、一般の車にはオーナーそれぞれの生活の場が。
この世に唯一、走るべき道をもたない奇妙な自動車が存在する。それがショーロッド。
ショーロッドは多くの注目が集まるメディアやカスタムショーの場で、脚光を浴びるためだけに存在する。走ったとてせいぜい駐車場から会場舞台袖までのほんの数十メートル。その姿はどれも奇抜で、荒唐無稽といってよく、5,000馬力、最高速度500km/hを叩き出す巨大エンジンを積むことがあっても、それはたいていくまなく厚くメッキがかけられて、その異様な迫力で衆目を惹きつけるまでのことだった。

レイダース・コーチは1969年、天才的カスタムビルダーのジョージ・バリスという男が、ポール・リビアとザ・レイダースという風変わりなアイドル・ロックバンドのために作り出したショーロッドだった。アメリカ独立戦争時の著名な愛国者の名をそのまま芸名にいただいた彼らは、その名のとおり独立戦争時代のいかれたコスプレをして、うるさい親が眉をひそめることならなんでも大歓迎だったティーンエイジャーの人気を博した。
彼らは時代を牽引するトップアイドルというよりむしろ、すでに注目の集まった曲やスタイルを目ざとく取り入れることで柳の下の2匹目を狙う、芸能界らしい働き者の尖兵だった。与えられた車もまた、1966年に空前の人気を誇ったザ・モンキーズのモンキーモビルの二番煎じではあったものの、芸能界のサバイバルゲームを戦うためには必要な「戦車」だった。
>MPC 1/25 ジョージ・バリス レイダーズ コーチ カスタムカー


タフなエンジン2頭立て6輪の、その名のとおりの馬車(Coach)だ。よく見るとフロントマスクは、自動車の世界で当時やはり人気の絶頂にあったポンティアックGTOをそのまま模しており、その個性的なグリルの韻でも踏むように、両サイドに同じような見た目のスピーカーが配され、リアエンドにはポール・リビアその人が操るVOXスーパーコンチネンタル・オルガンが据えてあった。
プラモデルには「走る車である以上は当然エンジンパーツが付く」というアメリカンカープラモの流儀に従い、楽器のアンプリファイアのパーツまで付属していた。ショーロッドなのだから必ずしも走る必要はないが走ることもでき、スピーカーから流れる演奏は腕のいいスタジオミュージシャンがとっくに録音済みだが演奏することもできた。一方プラモデルは走らないし演奏もできないが細工は流々、その役割においては実車とそれほど変わらなかった。

この摩訶不思議な車に乗り込んで、ポール・リビアとザ・レイダースはポンティアックGTOの次なるニューモデルである「ジャッジ」の宣伝をした。曲のタイトルは「ジャッジ・GTO・ブレイカウェイ」。どこかでもう聴いたことがあるようなロックサウンドにのせて「ジャッジ! ザ・スペシャル・グレート・ワン・フロム・ポンティアックGTO!」と連呼するだけの単純なコマーシャルソングだ。彼らは名を売り、レコードを売り、ポンティアックの車を売り、ついでにMPCのこのプラモデルも売った。もっともよく売れたのは、実はこのプラモデルだった。

走行距離にしてメーター10キロに満たないかもしれないこの典型的なショーロッドは、ある短い時代を確かに駆け抜けた。それは注目され、話題となり、記憶に残り、プラモデルになった。レイダース・コーチはその走るべき道を、特に走ることもなくしっかりと完走したのだ。
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