いいプラモは、ただ貼るだけでおもしろい。俺はそう信じているから、貼りたいときにただなんとなく貼る、というのをやる。自分が手を動かすよりも模型の参考書を読む頻度のほうが高かったときは、「塗らなきゃ!」とか「合わせ目を消さなきゃ!」とか「ここは達人が追加工作をしたほうがいいと言っているから、真似しなきゃ!」と思っていた。どっこい、毎度それを自分に課しているとプラモデルを作るスピードよりプラモデルを買ってくるスピードのほうが圧倒的に速いことに気がつく。
仕事が忙しいとか、やらなきゃいけないことがいっぱいあるとか、そういうときに「いまからプラモデルを貼ります」と心のなかで宣言して、パーツを切り離してただ説明書が言うとおりに貼る。昔プラモデルを嗜んだ人は「接着剤が乾くのを待つ時間があるじゃない」と思うかもしれないけど、イマドキの接着剤はパーツに塗るのではなくて、パーツ同士の合わせ目にチョンと流すタイプのものが売られていて、これがめっぽう速く乾くのである。
バイクのプラモデルだと、ただ貼るだけじゃなくてネジで留める場所もある。ドライバーのミニチュアみたいなものがキットに入っていて、長さ4mmとかの極小ビスでホンモノのバイクを組み立てるような感覚を味わえるのだ。金属製のバネやビニール製のホースが入っているのなんかもすごく楽しい。いろんな素材のパーツがするすると集合して、なんだか意味のある機能や構造になっていく。バイク模型はとくにそういう性質が強いから、「ただ貼る」というレジャーにもってこいだ。
タミヤの新作バイクモデル、スーパーレッジェーラV4を組んでいるとノリシロがいちいちしっかり大きく取られていて、貼ることそのものの「快」がけっこう強い。エンジンがあってフレームでそれを挟んで、前後に車輪が付く……というバイクの一般的な構造をなぞるだけでも、たとえばエンジンの幅が本当にフレーム目いっぱいに広がっていることや、あらゆる場所のクリアランスがキツキツに詰めてあって、まさにメカの小宇宙のように思えるのが楽しい。
貼っていくうちに「ここは色が付いていたほうが良さそうだな」みたいなところにも出くわす。例えばブレーキディスクは黒いパーツなんだけど、ここが実物では金属むき出しなのはバイクに乗らない俺でもわかる。タイヤを左右でサンドイッチするように2つのブレーキディスクがあるから、片方は筆で塗ってみる。もう片方はシコシコとマスキングしてエアブラシで塗ってみる。
遠目に見て「かかる時間も見栄えも、言うほど違わないな」なんて思うと、プラモの「こうしなきゃいけない」と思っていたことも、そこまで強制力を持っているわけじゃないことがわかる。なんてったって、これは俺のプラモデルだもんね。
「あまりにも良い出来のプラモデルで、褒めどころがない」なんて常套句がある。しかし、出来の良いプラモというのは貼るだけで猛烈な自己肯定感を感じられる。プラモデルを組んだことがない人ならば(あるいは長らく離れていた人ならば)なおさらだ。複雑な機械が、自分の手の中でカタチをなしていく。いちばんの褒めどころが「自分」に思えるようなプラモデルは、ただこうして接着剤を一本携えているだけで楽しめるのだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。