日本で流通してるプラモデルの代名詞といえばガンプラ。色分けされてて、ニッパーで切るだけで組み立てられる。ガンプラのほとんどが接着剤なしで組み立てられるため、「接着剤を使うプラモは難しい」という先入観、あるよね。幼少期に手をベタベタにしたり、塗った端から乾燥してなかなかくっつかなかったり、パーツの合わせ目からはみ出たり……。接着剤を使うプラモにはいい思い出のない大人もいっぱいいるんだと思う。
だから、いま「簡単なプラモ=接着しなくていいプラモ」というのがメーカーの売り文句になっていて、ユーザーも「接着しないほうが簡単なのか」と思っている。言葉を選ばないで言うと、それって騙されてると思うんだな。接着剤はプラモの世界を旅するときに、もっともたくさんの国を訪れられる最強のパスポートだ。いままで発売されてきたプラモは圧倒的に「要接着」のもののほうが多いし、いま売られている接着剤は本当に高性能なのだ。
もしあなたが「よし、プラモ組んでみようかな」と思って、いま手元に接着剤がないのなら、まず模型店に行こう。模型店の接着剤コーナーには、信じられないほどの種類の瓶が並んでいる。「プラモ作る接着剤なんだから1種類でいいだろ!」と思って、いちばん安いのを買う……というのはあまり良いアクションとは言えない。安いのに飛びつかず、小銭を3枚ほどを出せばいい。あなたはすばらしく高性能な、昔とは比べ物にならないほど使いやすい接着剤を手にすることができる。
いまプラモのハードコアユーザーのなかで「これがないと始まらないだろ」とされている接着剤が上の2つ。「Mr.セメントスーパーパワー」か、「タミヤセメント(流し込みタイプ)速乾」である。パーツに塗るのではなく、あらかじめ合体させたパーツの合わせ目にチョンと流すだけ。乾燥の待ち時間など必要なく、ほとんどのパーツは15秒ほど指で固定していればガッチリと接着されている。
あなたが昔プラモを作ったことがある人なら、この体験は異世界転生モノの主人公みたいに感じるだろう。幼き日に失敗したプラモを、造作もなくカタチにすることができる。「オレTUEEEEEEE」な能力者の気分になれるはずだ。
20年くらい前までプラモを作ってた人からすると「流し込み接着剤とか昔からあるだろ」という感じかもしれないが、この2種類はわりと最近開発されたもので、とにかく昔の流し込み接着剤とはワケが違う。パーツの精度さえしっかりしていれば、合わせてチョン、合わせてチョンとするだけでズイズイと作業が前に進んでいく。貼っていることそのものが、快楽になるのだ。
指でつまめるくらいの複雑な形をしたパーツが、思いもよらぬ角度で「スッ」と噛み合う驚き。そして、そこに流し込み接着剤をチョンと置いたときに、「ピタッ」と接着され、二度ともとに戻らなくなる興奮。プラモは切って貼ってどんどん形になっていくだけでも、本当に面白い。
当然、流し込み接着剤は面に塗布しても片っ端から乾燥してしまい、上に示したような分割線を強固に接着するのが苦手である。接着できないことはないのだが、こういう「腕が三本欲しい」というシチュエーションのときには、いわゆる普通のプラモ用接着剤の出番だ。上に示したMr.セメントかタミヤセメントのどちらかは常備していて間違いない。ゆっくり作業したいときや、「接着剤を塗ってから置いたほうが楽そうだな」というときは迷わず使おう。
塗装やデカールの話はいろんなところで読むことができる。しかし、接着することそのものが楽しい!というのはあまり語られることがない。休みの日に楽しく過ごすひとつの方法として、プラモをただシンプルに組むだけ、という方法で向き合うというのは、とてもステキだ。ああしなきゃ、こうしなきゃというのは誰かに決められることではない。どうか、次の休みはあなたのスタイルで、あなたの見てみたいカタチを組み上げてみてほしい。接着剤ひとつあれば、ガンプラの何十倍もの広さで広がる大きな海に漕ぎ出すことができるのだから。
■タミヤセメント(流し込みタイプ)速乾 374円(本体価格340円)
■Mr.セメントSP(スーパーパワー) 容量:40ml 価格:300円/330円(税込)
■Mr.セメントDX 容量:40ml 価格:200円/220円(税込)
※本記事はブログ「超音速備忘録」からの抄録です。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。