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本当の意味での「楽プラ」は己の中にある/アオシマのおもてなしと、プラモデルのおもしろさ。

 横浜の日産本社ギャラリーで、小さい男の子がGT-Rのコクピットに座っているのを見た。お母さんは男の子が怪我をしないよう気をつけながらドアの開閉を手伝い、コクピットから降りてきてクルマの周りをぐるぐると眺めて回るのを優しく後ろから付かず離れず見守っていた。彼がいつかプラモデルを作るようになるかどうかはわからないけど、彼はGT-Rのプラモデルにおける比較的確度の高い潜在顧客であると言っていいだろう。

 アオシマの新しい1/24スケールモデル、「R35 NISSAN GT-R NISMO Special edition 2022」を組んでいる間、彼のことが頭から離れなかった。いつかプラモデルを始めて作ることになる人のことを想像しながら、自分もそのように作ってみよう、と決めていたからだ。接着剤や塗料を使わず、特殊な工具も出さず、ハコに入っているプラスチックパーツとシールだけで組み立てるのはときに面白く、ときに「これはいわゆる”縛りプレイ”だな……」と難儀に感じるところもあった。

 アオシマが楽プラ スナップカーシリーズのコンセプトとして「車のプラモデルを作ってみたいけど作り方が分からない・失敗したくないといった方のため、接着剤は使わず・塗装の必要もなく・パーツ数も少なくしており、プラモデルを作る際のハードルを大幅に下げております」と謳う傍らで「もちろん、本格的に塗装をして製作するもヨシ!」と書き添えてあるのは決して大げさでも嘘でもない。
 プラモデルを作る際のハードルとひとくちに言っても、その種類はさまざまだ。小さなパーツを貼るのが難しいとか、塗装をする環境がないとか、有機溶剤がそもそも体に合わないとか、デカールに苦手意識があるとか。だからこのプラモデルはパーツをむやみに細かくせず、逆に小さなパーツでも接着剤を使わずにハメ合わせで組めるよう設計し、塗装しなくてもツヤのある透けないプラスチックをボディに奢り、デカールでもシールでも好きに選んで使えるようにしてある。

 プラモデルのどこが難しくてどこが簡単なのか、何に挑戦したくてどの工程は避けたいのかは、作る人や作る場所によって変化する。時間があるときに作るのか、ちょっとしたスキマ時間に作るのか、あるいは昼作るのか夜作るのかによっても違うとすら思う。そう考えると、あらゆる人のあらゆる困りごとに応えたプラモデルを作るのは難しい。その「難しさ」が楽プラのGT-Rからは滲み出している。
 たとえばワイパーの一体成型は「すべてのカーモデルがこうなっていればいいのに!」と思える出来だし、ウィンドウをボディ内側にハメ合わせる方法は「カーモデルにはまだこんな工夫の余地があったのか!」と驚く設計手法が取られている。
 反面、ボディに貼った窓枠のシールはサイドウィンドウのパーツを内側からハメる仕様とあまり相性が良くない(シールが窓のパーツに押されて剥がれやすく感じた)し、色違いのサイドガーニッシュは小さなダボを嵌め込むのに大人の自分でも少し怖くなるほど力を入れなければいけない。力を込めてたくさんのパーツを押し込みながら作っていくうち、出来上がったボディと窓ガラスにはどうしても無数の指紋が目立ってしまう。

 とはいえ、これはキットに対する文句ではなく、プラモデルというプロダクトが持つ複雑な性質を自分が再認識したという話にすぎない。カーモデルを作っていくうえで多かれ少なかれ通らなければいけない工程を考えると、ハメ合わせでパーツが固定されるのが嬉しいところ、塗装よりシールのほうが楽なところ、ハメ合わせより接着したほうが力をかけずにすむところ、シールを貼るよりいっそ塗装したほうが話が早いところ……と、「安心安全な方法」がまちまちであること(そしてときには真逆であること!)を思い知らされる。

 プラモデルの(特に「初心者」を想定した)評価をするときによく取り上げられる指標として「簡単」とか「小さい」とか「◯◯が不要」といったフレーズを目にするが、楽プラ スナップカーのGT-Rを組めばプラモデルの評価はそんなに単純なものではないことがわかるはずだ。ある部分において楽に進められるということが全体においても同じように言えるわけではないし、「ある工程でプラモデル専用のツールやマテリアルを必要としないこと」は必ずしも「どんな人にもふさわしいこと」とイコールではないのだ。
 断っておくが、アオシマは「接着剤と塗装をいっさい使わずにリアルなカーモデルを作るにはどうすればいいか……」という楽プラのルールのなかにおいて間違いなく最適解を選んでいる。しかし、誰にとってもどんな状況でもそれが安心安全であるわけではない、というところに、プラモデルの面白さが潜んでいると私は思う。

 このプラモデルは確かに家に接着剤や塗料がなくても確かに組めるが、接着した方がよほど簡単なところもあれば、塗った方が楽だと感じるところもある。シールを使うか、デカールを使うか、シールの余白部分を逆にマスキングシートとして使うか……などなど、とにかくやれることの幅が異様に広いのも事実だ。
 完成に向かうルートはおそらくユーザーのスキルレベルに応じて見え方が全く異なる。ひとりひとりのユーザーの作り方や向き合い方、その日のテンションや使える時間によっても違うだろう。だからこそ、このキットに込められたおもてなしのうち、どれを選び取り、どこで何をどのように楽させてもらうかを考えるのが面白い。もしも自分の前に「初めてプラモデルを作ろうと思う」という人が現れたら、私はそんな話をしながらこのキットを手渡したい。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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