2019年、インディアナポリス。ロールス・ロイスのオフィスのエントランスにフラフラと吸い込まれたオレとフミテシは、そこがかつてのアリソン・エンジン本社であったことを知る。数々の航空機用エンジンを作ったアリソンは1995年にロールス・ロイスに買収され、いまでは同社のコレクションホールにその痕跡を残すのみだ。
巨大なホールに横倒しに置かれた数々のエンジンのなかで、ひとつだけ垂直に屹立する巨大な洗濯槽のような物体にオレたちは圧倒された。F-35Bの短距離離陸・垂直着陸を可能にするリフトファンの上には天面が見えるように鏡が設置されていて、内部構造が分かるようカットされたプラモデルも空中に浮かんでいた。
イタレリのF-35Bは、あのカットモデルの思い出をぎゅぎゅっと小さくしたようなプラモデルだ。日本国内ではタミヤが1/72スケールのスタンダードシリーズに模様替えして流通させているため、店頭でも比較的見つけやすい。機体表面のSFライクなパネルラインや内部構造のゴチャゴチャした雰囲気もすこぶるシャープな彫刻で、パーツを眺めているだけでもすごく楽しい。
コクピットの両サイドにあるエアインテークから吸い込まれた空気は胴体のなかでひとつに合流し、後ろにある巨大なエンジンへと導かれる。エンジンから取り出された動力が長いシャフトを通じて空気のY字路に収まるリフトファンへと送られる構造も一目瞭然。完成したら見えなくなってしまうが、組み立てたあなたはこの機体の外形が内部構造に導かれて決まっていることを誰よりも深く知ることになる。
もともとがグレーの機体だから、グレーのプラスチックをそのまま貼っていくだけでも雰囲気は充分。爆弾倉や脚収納庫といった部分はアクリル塗料の白で塗るとグッと実感が出る。さらに爆弾をオリーブ色に、ミサイルを白に塗れば、いかにも「戦う飛行機」といった風情になる。説明書に書いてあることはもちろんこのプラモデルを十全に作り上げるためのガイドだが、あなたが見たい解像度で、あなたの好きなように塗ってもいいのだ。
開けられるところはすべて開け、爆弾もミサイルもてんこ盛り。ステルス性などどこ吹く風……という獰猛な表情のF-35が完成した。こんなに楽しく、カッコいい飛行機模型が、今日も模型店の棚のなかで、あなたに見つけられるのを待っているはずだ。難しいことをしなくても、少しの困難にチャレンジしても、きっとコイツはモテるポテンシャルの全てでそれに応えてくれる。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。