すでに50年以上の歴史があるタミヤの戦車模型「ミリタリーミニチュア」シリーズ。総アイテム数も現時点で380点が発表されており、それだけ長い歴史があると中にはメモリアルな商品が発売されたことも。「ドイツ戦車兵小休止セット」も、かなりエモいキットです。
どのへんがエモいのかというと、このキットの通し番号。「ドイツ戦車兵小休止セット」は、No.201のキットなのです。このキットが発売されたのは1996年5月。その2ヶ月ほど前には、MM200作目のキットである「ドイツ自走榴弾砲ヴェスペ」が発売されています。それまでもタミヤはキリ番では「おおっ!?」となるようなキットを発売しており、No.100では車体だけでも巨大なのに燃料輸送用トレーラーまでくっついたチャーチルクロコダイルを、No.150では「船」のプラモデルであるPBR 31 Mk.II ピバーを発売しています。ヴェスペも「そうきたか~」という驚きはありつつ、第二次AFVブームと言われていたあの時代らしい渋さも感じさせるチョイスです。
で、その次、シリーズ201個めのキットがこの「ドイツ戦車兵小休止セット」。なんでドイツの戦車兵だとエモいのかというと、タミヤMM第一弾のキットが「ドイツ戦車兵セット」だからなんですね。しかも箱を見ると、ドイツ戦車兵の定番である黒い搭乗服の他、フィールドグレーの突撃砲搭乗服を着た兵士が混じっている。1968年のドイツ戦車兵セットの箱には左側に同じ突撃砲搭乗服を着た人が描かれてまして(なぜか完成見本の写真では黒い搭乗服になっている)、黒い搭乗服の兵士だけでもドイツ戦車兵のキットとして成立するのにわざわざ突撃砲搭乗服を着た兵士を混ぜてくるというのは、これはもうMM第一作への目配せなのではないか。
キリ番そのものではなく、あえてその次の201個めというタイミングで、1996年当時つぎ込める最良の「ドイツ戦車兵セット」を持ってくることで、シリーズが大台を超えたその先の新たな一歩をさりげなく表現する……。タミヤの企画担当者の意図がこのとおりかどうかは直接聞いたわけではないのでわかりませんが、とにもかくにも201個めのキットにこの題材を持ってきたことはとてもエモーショナルだと思います。
というわけで箱を開けてみると、中身はとてもシンプル。なんせ装備品が少ない戦車兵のプラモなんで、フィギュア本体の他はホルスターとか双眼鏡(&鳩)くらいしか入ってません。組み立てもとてもシンプルで、手足と胴体をくっつけたらそれで終了。落ち着く単純さです。
▲檜でできた風呂の椅子みたいな台ですね、これ
タイトルの通り小休止中のフィギュアなので、全体的にリラックスした雰囲気。プラプラ歩いてるポーズや戦車の上に腰掛けているポーズなど、戦車に合わせやすいポージングでまとまっています。戦車なんて基本的に窓もなんにもない閉め切った金属の箱ですし、外に出たらそりゃリラックスしちゃうよね……鳩がいるのもなんだか平和です。
90年代のAFVブーム当時小学生だった自分はこういうフィギュアを見ると「戦ってないし、地味でつまんないなあ」と思ってましたが、大人になった今なら分かる。こういう落ち着いた雰囲気のフィギュアだと、気分で1体だけちょろっと塗って戦車の脇に立たせても成立するから使いやすいんですよね。あとまあ、戦車兵が本領を発揮してバリバリ戦っている時は大体戦車の中にいて全然見えないので、戦っている戦車兵のフィギュアというのは作りにくいものなんですけども。
というわけで、「ドイツ戦車兵小休止セット」でした。とにもかくにも201個めにこの内容のキットを配置したというタミヤの目配せが憎いプラモデルです。また彫刻などは26年前の製品ながら今でも通用する雰囲気で、こういうモールドの方が塗りやすいという人も多そう。とにかくタミヤMMの積み重ねてきた文脈がビシッと伝わってくるキットなので、シリーズの歴史を噛み締める意味でもオススメなのです。
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。