出来上がればこっちのもの/半世紀前のプラモデルを半世紀前の気持ちで作る日。

 mpcのRat Trap VEGAというカープラモが私の手許にあって、これはバントウさんという博覧強記のアニキにアメリカンカープラモの魅力を語ってもらうための肴である。私はバントウさんの記事のために写真を撮って、必要ならば部分的に組んだりするというタッグで下の記事をdropしたのだった。

 さて、このプラモに興味が持てるか持てないか……というのはやっぱりこのキットについて知識があるかないかに依る。つまりどういうことかというと、箱を開け、組んで味わい、ついでにここは格好いいなと思える瞬間を写真に収めてからバントウさんのテクストを読むとどうにも愛おしくなってしまうのだ。それはまるで、パスポートに新しいハンコがひとつ捺されたのと同じくらいのパワーがある。一度訪れたことのある国は(その国のことをまるごと理解していなかったとしても)一生記憶に残って、その国にまつわる話はどこか自分ごとのように思えてしまうような。

 ボンネットがすっぱりと消えてなくなっているボディパーツ。端面はヘロヘロ、窓の開口部もシャキッとしないが、そもそもこのクルマのボディはほんの飾りに過ぎない。未舗装の周回コースをグルグルと走るレースだから、ラダーフレームのシャーシに乗っけるボディはおそらくなんでもいいのだろう。ドライバーはロールケージに守られているし。
 パッケージを見れば、写真はグリーンで塗られたマシン。写真の現像が悪いのか印刷用の製版でしくじっているのか、いかにもドンヨリとした、垢抜けない風情。プラモのパッケージが完成写真である時点でややがっかりする私達だけど、せめてそうならカッコよくキレイな写真であってほしい……と愚痴ったところでしょうがない。未来はぼくらの手の中。ボディを塗るのはそう、ほかでもないあなたなのだ。

 いまもあるかどうかわからないけど、スプライトのクールレモン缶をイメージする。ブルーとグリーンのメタリックカラーを気の向くままにグラデーションで吹き付けて、分厚くてやたらと発色の良いデカールをこれまた気分で貼る。ソフター(デカールをパーツ表面にピタリと沿わせるためのケミカル。要は軟化剤だ)を塗りつけると一気に馴染んで、このデカールの質がすごく良いことに驚く。オレのプラモ作りはあくまで加点法。あ、ここがいいじゃん!ここもいいじゃん!と少しずつ気分が良くなっていくのが、自己肯定につながる。
 そうそう、このキットには減点法だと失敗してゲンナリしがちなクリアーパーツというものがない。窓ないから吹きさらし。ライトもないしウインカーもない。もとから気を使うパーツがないので、開放感いっぱいで突き進む。

 真っ黒い下地塗料でまるっと塗ったシャーシ。どうせカバーで見えなくなっちゃうんだけど、エンジンはササッとフラットアルミを筆塗りしておく。こまかな塗り残しもそのままにして、「エンジンは金属でできているのです」という説明を自分に与えるための、ちょっとした儀式だ。

 排気管が真っ黒なのもちょっといただけないから、シタデルカラーの白を筆で塗った。ちょっとぼってりするくらい分厚く塗ったほうが発色もいいし、アメリカンな荒々しい感じがあって良い気がする。エンジンの荒々しいテクスチャと相まって、すごく気分がアガってきた。おそらく50年前にこのキットがビンビンの新製品で送り出されたときも、当時のキッズはこんなふうに荒々しく遊んでいたはずだ。そしてメーカーも、荒々しく遊ばれることを理解していたんだろう(つまりはその時代の「ちょうどいい出来のプラモ」に仕立てていたんだろう)と勝手に想像する。

 このプラモを現代風に緻密で清潔感のある仕上がりにするのはかなり難しいだろうし、それはある意味で選ばれた人たちの遊びだと思う。だけど、こうしてある日の夕方突如思いついて完成に持っていくこともできる。そしてその出来栄えに……私はとても(ものすごく)満足している。しかも私はいま、このマシンをこれから泥だらけに汚してしまう権利すら手に入れているのだ。
 組み立てに3時間。塗装と仕上げに3時間。早く作るのが偉いと言いたいんじゃない。「完成」はすごく遠くにもあるし、もしかしたらものすごく近いところにあるのかもしれない。「完成を自分で遠ざけてしまっているな……」と少しでも感じたら、こんなふうにキットのあるがままをそのまま受け入れて作り上げてしまうのが、いちばんの気付け薬になる。ちょうどいい出来のプラモを、ちょうどよく作る。そんな日があったって、いい。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。