イメージというものの定義は明快だ。まさにそのものであって、決してそのものではないもの。
模型とはすなわち、イメージそのものだ。
自販機や飲食物の販売機器を製造するベンドー(Vendo)という会社がある。
かつて自動車でいえばゼネラル・モーターズ、アメリカンカープラモならamt、清涼飲料ならコカ・コーラ。そしてドリンク・ベンダーといったら何はさておきベンドーだった。19世紀にはイギリスでハガキや新聞を売っていた自動販売機だが、1937年に冷蔵庫に取り付ける多機能リッドの開発からスタートしたベンドーは、その歩みの大半をコカ・コーラと共にし、「レッド・トップ」の愛称で親しまれてきた。営業中ずっと口角泡を飛ばしてしゃべり続けるサービス過剰なソーダ・ジャークに代わって、レッド・トップは24時間365日、メニューは少なくとも黙々と仕事をこなした。
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そんな真っ赤な彼がプラモデルになった。むしろ、フィギュアになったというべきか。
1969年、コカ・コーラはそれまで全米各地の広告代理店が知恵を絞った結果バラバラになってしまったキャッチフレーズを「これぞ本物(It’s the Real Thing)」に集約した。それまで戦線が分散していたペプシとの戦いがいよいよ総力戦となったことの表れであり、あのコークボトルをイメージした流れる曲線がロゴに添えられるようになったのもこの頃だ。そんな「刷新されたコカ・コーラのイメージ」が、このキットには素晴らしい印刷のデカールとして入っている。
パーツは単純な前後分割で、透明のパネルを嵌め込むだけ。たったの3ピースだが、前面の彫刻が凝っている。これまでアメリカのどこにも存在したことのない「架空のレッド・トップ」を、徹底的に調べ上げたうえでプラモデル化しているのだ。
一見すると6個のボタンとウッディパネルが当時の名機V-228を思わせるが、コインスロットが実物とは正反対の右側についている。おつりの出てくるチェンジスロットもだ。筐体の幅いっぱいの取り出し口も、選べるボタンがすべてコカ・コーラであることも多かった1970年代の意匠にしてはあまりに新しい──。
これらの意匠は周到に、全体のイメージを決して損なわないように絶妙にアレンジされ、ベンドーとのつまらない争いを徹底的に回避しているのだ。往年のおしゃべりで喧嘩っ早いソーダ・ジャークと違って、つっかかられてもパンチはすべて巧みなスウェーでかわしてしまうクールな彼が「フィギュアになった」と言ったのは、つまりそういうこと。本当にリアルに感じられる人形は、どこの誰でもないからこそリアルなのだ。
もめごとを紳士的に避ける彼のおかげで、われわれはいつものアメリカンカープラモひとつぶんと変わらない値段で、半世紀も前の極上のアメリカーナが手に入る。今なら年季の入った72年式シェビーが、揃いのコスチュームでミスター・レッド・トップをあなたの家まで無事に送り届けてくれるという。
みんなずっと待ってたんだぜ、あんたのことを。
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1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。