金閣を焼かねばならぬなら、駆逐艦は作らねばならぬ。

 三島由紀夫の「金閣寺」は、男が鹿苑寺金閣を焼くに至る物語である。父親から刷り込まれた金閣への思いが、人生の変節を経て、男に「金閣を焼かねばならぬ」との強い思いを持つに至らせる。

 幼少期より父親に刷り込まれた「金閣が一番美しい」という言葉が、彼の人生の前に立ち塞がる。たとえ実際に見た金閣寺がいかにみすぼらしくとも、その刷り込まれた妄執は変わるどころかより強くなり、「美」そのものの概念となって彼の前に立ち塞がる。

 まぁ、僕のザックリとした読解力では彼の心情を到底理解し得ないんだけど、社会的に追い込まれていく気持ちはなんとなくわかるし、わけのわからないイメージに振り回される感覚もわからないでもない。

 例えば、模型屋さんに行ってウォーターラインシリーズの前で立ち尽くしている時、僕は概念に包まれる。
棚に並んでいるのは第二次世界大戦を中心に歴戦を駆けた艦船の数々である。しかし、僕はそれらを見て、「どの艦がかわいいかな?」と考えている。「この艦は速度にこだわってたな」とか、「素直な性格だったな」とか、「関西弁のいつも怒っている軽空母だな……」とか。それは有り体に言ってゲームや二次創作の影響だが、それだけで終わらせてしまうのは惜しい。

 目の前のものは鉄の塊を模したプラモデルだ。かわいい少女とは程遠い。遠すぎる。しかし、その飛躍は(少なくとも、その飛距離において)金閣を美の象徴とした男の思考と、さして変わらないように思うのだ。そして、その妄執は少なくとも駆逐艦を選ぶ時に大いに助けとなる。

 ヤマシタホビーの潮は、箱を開けるとまずびっくりする。「今から作るのは駆逐艦……だったよね?」と確認したくなるほどランナーがその小さな箱に詰め込まれている。一度出したら、綺麗に箱に収めるのは少なからず技術を要するほどだ。その山ほどのランナーが、ヤマシタホビーというブランドの「駆逐艦やったるぜ」という熱い想いを感じさせる。なんせ、クリアパーツまで用意されているのだ。

 当然、その組み立ても僕を楽しませてくれる。切れ味のいいニッパーと刃を取り替えたばかりのデザインカッター、状況に応じて接着剤を使い分ける経験と、精度の良いピンセットは用意したほうがよさそうだ。

 さらにいくつか塗料があると、より満足度の高いチャレンジも気軽にできる。

 僕はシタデルの「スペースマリーンヒーローズ シリーズ1・ベーシックペイントセット」に入っている5色を使った。黒い箇所にアバドンブラック、白はラカルスフレッシュ、リノリウム床はバグマンズグロウ、リノリウム押さえをリトリビューターアーマーで塗ってみようか。シェイドにはナルンオイルを使おう。七難隠してなんかいい感じにしてくれるはずだ。なんならセットにはメカニカススタンダードグレイもあるので、他の部分を塗ってもいいだろう。ちょっとしたチャレンジで、完成したプラモはより自分のものになる。

 金閣は焼かれることによって男の永遠の美となった。駆逐艦は作られることによって僕の「かわいい」と一体になる。

 ウォーターラインには、既にこの世にはない艦も多い。いわば、不滅の存在としてすでに永遠を得た艦船たちである。それを掌に乗るようなプラスチックの儚い存在として再び作り出す。それを見て、現代の僕らは「駆逐艦って、かわいいなぁ」と思うのだ。

西村飯店
西村飯店

1972年生まれ/「夢幻転生」と言う雑誌でマンガを描いたり、たまにDJをしたりしています。