
日本人は桜には特別な思い入れがあるようで、毎年この季節になると街のそこかしこで淡いピンク色に染まった桜の樹を目にする。桜前線が本州を北上する4月、多くの会社や学校では新年度が始まり、同時に新生活が始まり、新たな出会いが生まれるシーズンを迎える。例年私はそんな淡いピンク色をした春の陽気に当てられるたび、ある衝動が湧き上がってくるのを感じていた。
「戦車をピンクに塗りたい」と。

これにはワケがある。1991年、ソ連が崩壊を迎えるこの年、チェコスロバキア(当時)でソ連軍の戦車をピンク色に塗り替えた男がいた。彼の名はダヴィッド・チェルニー、当時まだ美大生。彼はその後、ヨーロッパにおける現代芸術家の一人として名を成すことになる。二次大戦でチェコスロバキアからナチスドイツを追い払ったソ連軍だったが、そこからはじまったのは解放などではなく新たな占領だった。

その後ソヴィエトはチェコスロバキアで起きた民主化運動「プラハの春」を弾圧。以降、ナチスドイツからの解放記念碑になっていたソ連軍のIS2重戦車は抑圧の象徴になる。それをダビッドは一夜にして全身ピンクに塗り上げたのだ。最高にパンクでロックなアート。荒々しい兵器と愛らしいピンクというアンビバレントな組み合わせは、わたしに強烈な印象を植え付けた。

今回わたしが手に取ったのはモンモデル・ワールドウォートゥーンシリーズの「Ⅳ号戦車」。ガルパンで知名度が爆上がりした、二次大戦におけるドイツの主力戦車である。ランナーは2枚半。見た瞬間に、どのパーツがどこにはまるかイメージの湧く分、作製していて迷いがない。ムッチリしたデフォルメボディを見ているとスケールモデルにはない発想の自由さを感じる。さあ、ピンクの下地塗料を塗ったらミッションコンプリートだ。

実はチェルニーの話には後日譚がある。後年、彼は戦車をピンクに塗った理由を問われ、「彼女の気を惹きたかったからさ」と答えたのだ。実際、彼の真意がどこにあったかは誰にもわからない。だけど、私には彼が戦車をピンクに塗り上げたのは時代の風だけが理由だったとは思えないのだ。彼が戦車を一晩のうちにピンクに塗り上げたのは「1991年4月28日」。そう、ひょっとするとチェルニーも、新しい恋人たちが出会う4月の陽気に当てられたのかも知れない。