
少し前に珍しく書店で漫画を買った。ずいぶんと久しぶりだったし、これと決めて買いに行ったわけでもない衝動買いに近い買い物だった。絵や装丁の良さに惹かれたのだが、手に取ったときシュリンクの外側にバーコードなどの製品情報シールが貼られているのも気になった。剥がせばそれらは本のカバーから消える。いつだったか読んだ本で、「装丁にバーコードさえ無ければ……」と話していた人がいたのを思い出し、そのままレジへ向かったのだった。
購入したのは『僕はあの夜あの子と』という作品だ。結婚式の二次会で酔っ払った主人公が、「その夜一緒に過ごした女の子は誰だ?」という謎を追い、当日やり取りのあった女性たちと会っていくことで進む物語である。構造の面白さに惹かれて紙の本が出るたびに買い足しており、先日最終巻を手に入れたのだった。

お酒を全く飲まない自分が、酒を起点とした話を読み続けているのがどこか面白い。以前なら「酒でこうなった経験がないからピンとこない」と、スタートの時点で自分がターゲットの外にいる感覚があった。しかしそうやって読んでいるうちに、ふと「そういえばこんなことをしたことがない」という場面が思い浮かんだ。それは飲み物の瓶を豪快に倒してしまう、というやつ。
「やってみたい」とは思わないものの、実際に起こったら「これか!」となりそうだし、一発で酔いも醒めそうだ。いや、ここまで倒してしまうくらいなら、もう醒めないほど酔っているのだろうか。ミニアートのカフェセットはそれを再現したくて買った。ところで実際のカフェってお酒ってあるんだっけ。コーヒーも飲まないのでわからないことだらけだ。

椅子、テーブル、飲み物と準備はOKと思って箱を開けると、ズサササと擦れる音とともに一枚の紙が出てきた。店ごとのひさしを作るためのシートだ。カフェだけでなくピザ屋だったり、書かれている言語が違ったりと細かくて見ていて楽しい。テラス席を作るのが面白そうだったので、スチレンペーパーやプラ棒を使ってそれらしいものを形にした。

店の構えが出来上がると思いのほかよくて、とても気に入った。そして「ああ、ここで飲み物をこぼされるのは嫌だな」と気持ちが変わった。よく考えたら自分がお酒の席に行くときは、汚れてもいい服や靴を選んでいたことを思い出す。トラブルが気分を台無しにするのが嫌だからだ。もし自分が『僕はあの夜あの子と』の主人公だったら、「明日もあるしもう帰ろう」とさっと引き上げてしまい、何の物語も始まらないかもしれない。

それでも一式を並べて倒すと「あ~」という台無し感が出て、こんな些細なことすらも模型で再現すると情景が生まれたり、妙な擬似体験としての感覚がが残る。瓶もグラスもジョッキも数があるのでボーリングのピンみたいに並べて倒してみたり、変な形に積んでみると「お酒を飲んで大騒ぎ」感がもっと味わえそうだ。