僕は夏に北海道のトマムに旅行に行ってきた。そこで見た「草とトラクター」という景色は、最近の僕の草ブームに火を着けたきっかけでもある。草と模型は最高のコンビなのよ! 先日草原を作ったので、購入しておいた「ドイツレベル 1/24 F20 ディーゼルトラクター」の箱を開封した。
北海道で見た、そのものズバリのトラクターのプラモはなかったけど、近い雰囲気のものがレベルのトラクターだった。色がおもちゃっぽいかわいい配色なのもグッド。箱を見ると、イージークリックと書かれていて、接着剤を使わなくても組めるぞ! ということが謳われている。働く車にイージークリック(日本では「スナップフィット」の呼び名で親しまれている)を採用し、敷居を下げようとしているのか……、ということは“働く車という世界”はワールドワイドで多くの人の心に刺さるモチーフなのだろうと考えたくなる。
細かなパーツも結構多いし、ディテールもしっかりと刻まれていて、なんら他のスケールモデルと変わらないプラモの姿がある。軸や軸受だけがちょっと大きかったり太かったりして、プラスチックの嵌合でパーツを固定するプラモなんだと改めて認識させてくれる。
細かなパーツを穴に差し込む際は、どうしても破損が怖くなって力が入らない……ここまで細かくするなら、正直接着剤で貼った方が圧倒的に楽。そして綺麗に組み立てられる。何でもかんでも接着剤無しというのはプラモの可能性を狭めるし、マテリアルを使ってプラパーツを貼っていく楽しさを奪ってしまう。良い接着剤がたくさんある今、イージークリックと謳われているプラモにバンバン接着剤を使った。そっちの方が俺は作りやすかったからね! といっても、べつにこのプラモの精度が悪いわけではない。「プラモを前提としていない本物を小さくしたプラモ」には、パーツサイズや形状がどうしてもスナップフィットに適さないものが登場してしまうのだ。大きなパーツは問題なくプラの嵌合でピタッと止まるので、むしろ高い精度でまとめられた素敵なプラモである。
組み上がってくると、鮮やかな緑に反対色の赤が眩しすぎるトラクターが姿を表す。なんだか零戦みたいだ。エンジン周辺もパーツが細かく、非常に情報量が多い仕上がりとなる。ここもパーツを破損しそうだったので接着剤を使用した。
働く車のイージークリック。「接着剤を使用しなくても組めると謳うことは敷居を下げることにつながるはずだ」と海外の模型メーカーも思っているのだろう。果たしてそうなのか? 僕も最初は接着剤を使わずにパーツを合わせていたのだが、やはりロボットのように最初からプラモになるために生まれたモチーフではない以上、どうしても「これは軸に通すの無理やろ!」と思えるパーツに遭遇し、接着剤を使うことに決めた。
そして接着剤を使うとなると、もともとイージークリック用に大きめに用意された軸が適度なノリシロとなり、接着箇所を迷うことなくサクサク組めるのだ。
プラモの世界に「こうすればどんなプラモも作りやすくなる!」なんて魔法は無い。むしろ無い方が面白い! 接着剤を使わないプラモとして誕生していながら、僕はその子に接着剤を塗る。接着剤を使わないプラモの化身「ガンプラ」だって、多くの人が接着剤を使って作っている。接着剤を使ってパーツを貼ることは、工作感も上がって楽しい。そしてタミヤやGSIクレオスはおそらく世界で一番使いやすいプラモ用接着剤を提供してくれている。まさに接着剤はプラモにおける翻訳機。全世界のプラモとのコミュニケーションをスムーズにしてくれる。だから“接着剤を使わなくても組めるプラモ”も、思いっきり接着剤で貼って楽しんでいこうね。
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)