タミヤの「1/48スケール 零戦」には、新旧あると模型ファンはよく言う。1973年、1982年、1983年に発売されたニ一型(“にいちがた”と呼びます)、三ニ型、五ニ型丙のグループを「旧キット」、2008年と2016年に発売された五ニ型/五ニ型甲、ニ二型/二二型甲を「新キット」と見ているのだ。しかし、これらの二つのグループは今も通常ラインナップとして一緒に模型店で共存している。そして結論から言うと、どちらのプラモも最高なのだ。特に今回は旧グループのプラモの良さをお届けしたい。
旧グループの中から、1982年に登場した三二型のプラモをピックアップする。タミヤの1/48スケール零戦の2作目となるプラモデルだ。三ニ型は零戦の中でも、翼が短くてちょっと尖ったスタイルを有する個性的なタイプである。
1/48スケールの飛行機模型は、ガンプラで言えば1/100スケールと言える。そのため多くの要素を盛り込もうと思えば次々と投入できるちょうど良いサイズなのだ。現代の多くの1/48スケール飛行機模型は、決定版を目指し、要素もりもりのプラモが多い。それに対して一昔前の模型はディテールとかはそれなり、シンプルでパーツ数も少なく、一気に満足感あるサイズの飛行機が完成するものが多かったりする。
プラモってのは同じように見えて、時代によってニーズが変わる。またメーカーの技術力アップやキラリと光るアイディアによって新たな思想のプラモデルが爆誕する。だから同じようなモチーフのプラモデルでも、全く異なった思想のものが新旧共存して模型店に置かれているのだ。特に「零戦」は世界中で人気の飛行機だから、国内・海外メーカーのプラモが選び放題。超絶豊かな世界が広がっている。
豊かな零戦プラモの世界の中で、今でも現役で存在しているタミヤの旧グループ零戦達。細部を見ていくとノスタルジーが滲み出てくるプラモだが、「ちょっと大きな零戦を作りたい! しかも安価なやつ!!」という欲張りな願いを叶えてくれるとっても心強いプラモで、この特徴は他の零戦プラモには無いと言える。
特に三ニ型と五二型丙は、1650円で飛行機と7人のアニキ(アニキたちがなんとも良い仕上がりなのよ!)がセットになっているスーパーセット。組み立ても難しくなく、1時間あれば飛行機の形にしっかりとなってくれる。このスピード感ある組み立ては、現代の精密化されパーツが細分化された零戦のプラモには無い最大の魅力でもある。
ランナーに収まっているパーツを見て貰えばわかる通り、緻密さは現代のキットに敵わないまでも、しっかりとしたアウトライン、美しい凸と凹のモールドが確認できる。実際に組んでみると、パーツの合わせは全く問題無いし、コクピットを組んだだけで、シンプルなパーツ構成ゆえの爆速感が味わえる。
当時の成型では難しい細部表現に対して、タミヤから「この工作をしてみるとさらにカッコ良くなるよ」というアドバイスがちょこちょこ説明書に登場する。もちろん無理してやらなくてもかっこいい零戦になるのだが、ひとつでもこのアドバイスにチャレンジしてできたら、自己肯定感爆上がり間違いなし。ちょっとだけ難しいことにチャレンジして、それができる。成長みたいなものを体感すると趣味はさらに楽しくなる!
完成度の高い一昔前のキットを、より作りやすくさせてくる環境が既に整っている。タミヤの旧零戦を作る時の最強の武器は、「タミヤセメント流し込みタイプ 速乾」だ。キットが既に有している的確なフィッティングを確実にアシストしてくれる。キットとよく切れるニッパー、ナイフ、接着剤を揃えればスイスイと組み立てられる。
高荷義之氏によって描かれたとってもドラマチックな箱絵の中には、「プラモデルの楽しい要素」が完璧に盛り込まれた、素敵な飛行機模型が入っている。そしてこの流れは、もちろん新グループのタミヤ零戦にも引き継がれている。だからどちらのキットを買っても最高に楽しいのだけれど、ぜひ一度旧グループの零戦を組んでもらいたい。ちょど良い大きさで満足感ある飛行機模型が、爆速で組み上がっていく楽しさ、組めるからこそ初めてでも飛行機模型が楽しい・形にできたと思える快感。まさにプラモ作りの初手で体感して欲しい要素がもりもりに詰まっているプラモデルだ。だからこそ、このプラモは今でも模型店の棚であなたを待っている!! おしまい。
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)