パッケージアートの力に導かれて「ハセガワ 1/48 日本陸軍 中島 二式単座戦闘機 II型丙 鍾馗(しょうき)」のプラモを購入した。太平洋戦争のクライマックスである本土防空戦において、飛来するB-29に対して奮戦する鍾馗が描かれている。不気味な夜空は群青を纏い、爆撃による炎が空を燃やす。その光が鍾馗を照らし、銀色の機体が鈍く輝いている……。これだけ素晴らしい絵が「1/48スケール」という、ガンプラで言えば「1/100スケール」のようなプラモの箱に描かれているのだ。美術館で名画を見て、最後の売店でハガキやクリアファイルを買うように、僕らは大好きなプラモを買うことで素晴らしい絵も手にしているのだ。当たり前のことだけど、それがいかに素晴らしいことかってことを、ハセガワの飛行機模型はいつの時代も教えてくれる。
パッケージアートは演出の世界。元々好きなものがカッコよく描かれていたらより好きになるし、知らないものでも「え? なにこれ? めちゃくちゃかっこいいじゃん」と惹き込まれて、新たな出会いを産んでくれる。中のプラモが持っている背景やストーリーの入り口も見せてくれるのだ。中にはバラバラになったプラスチックのパーツが入っているだけなのに、ここまで素敵な装いがなされている。僕達が大好きで、めちゃくちゃ楽しんでいるプラモデルは、世の中でもそうそう無い素敵なメディアなのだ。
飛行機模型を楽しんでいる人なら日本陸軍の飛行機たちは当たり前の存在。でも、飛行機模型をあまり作らない人にとっては「零戦」以外の日本機というと……。そういう状況でも、このような素敵な絵が、箱に描かれていれば、低い確率かもしれないけれど興味を持って手に取ってくれる人が現れると思うんだ。
最近1/72スケールの飛行機模型ばかり作っていたので、ちょっと大きめのサイズが作りたいなと思いお店でプラモを見ていた。ゆっくり1/48スケールの日本機プラモを見ているとハセガワの地力というものを体感せずにはいられなかった。日本海軍機、日本陸軍機、どのパッケージアートも美しいのだ。確かにプラモは中身が主役だ。しかし、その中身ばかりに関心が行き(特にネットで検索しているとね)、こうやってプラモの箱を眺めながらワクワクすることに距離ができていた。それはコロナ禍も一つの理由であったかもしれない。普通を取り戻してきた今、実店舗で名画を見るようにしてプラモが買える。その体験って、僕達プラモが大好きな人に許された最高の幸せだと思うのだ。
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)