サルビノスJRというメーカーのNASCARのプラモデル。先日2022年カマロZ1を組んだ。これがもうとんでもなく難しくて、楽しかった。こんどは2023年のマスタングを買ってきて再挑戦しようとパーツを切り出し、貼り始める。あれ、組めるな。前回は歪んでしまってどうにもならなかったところも、なんとかなりそうな気がする。キットが1年分進歩しているのかもしれないし、そもそも2022のNASCARと2023のNASCARは同じプラモデルなんだっけ?それとも新しくなっているだっけ?と思うくらい、組んだ印象が違うのである。
改めてパーツの写真を前回撮影した2022年のモデルと見比べてみるが、完膚なきまでに同じだ。違うのは2023年のマスタングに固有のちょっとしたパーツだけで、90%以上が同じ。同じプラモデルを組んでいるのにやたらと快適に組める。これは自分が進化しているのかもしれない。そんなことあるだろうか。
よくよく確かめたら、2022と2023では説明書に書かれた手順がゴッソリ変わっていた。運転席、エンジン、それを取り囲む鉄のフレームと、このクルマに必要なほとんどすべてのパーツが複雑に入り乱れるサルビノスJRのNASCARプラモだが、ゆえに何も考えず片っ端から貼っていくとほんの少しの接着位置のズレやパーツの角度の歪みが全体に影響し、最終的にガタガタのクルマが出来上がってしまう(おかげで前回は完成したシャーシにボディを被せるのにすら苦労した)。しかし、説明書を書き換えることで位置決めの手順を明示し、歪みやズレを後から是正できるよう”遊び”を持たせながら確実に組み上がるようになっていた、という寸法である。
前回はキャンバーもトー角もどこからどう決めていけばいいのかさっぱり分からなかった足回りもビタッと組めた(どうしてもそのままでは歪んでしまいそうなところは先回りして穴を大きくするなど、ちょっと頭を使う我流の工作は必要だったけど……)。説明書が新しくなったのは、サルビノスJRがカスタマーの声に耳を傾け、同時にスタッフたちが自社のプラモデルを組み立てて不具合が出そうな場所を洗い出し、組み立ての手順を変えれば確実に組めると考えたからだろう。
サスペンションのロワアームの高さはタイヤのキャンバー角と車高を決める重要なパーツだが、何も考えずに貼ると「適切な角度」にならない。そこで彼らは「接着剤が乾くまでロワアームの先端に3ペニーを重ねて滑り込ませろ」と書くことにした。どこの家にでもあるものを使ってパーツの取り付け位置を平準化するための工夫だ。
あいにくここは日本。グーグルで1セント硬貨の厚みと10円玉の厚みがほとんど同じことを知った私は30円でこの問題を解決する。確かに左右のロワアームがビシャリと同じ角度で固定され、タイヤがハの字になることもなく組み上げられたのに感動した。
複雑なコクピット周りのロールケージやエンジンの前方に位置するラジエーターの位置決めにはまだ少々解決すべき問題があるように思えるが、なんとかシャーシは組み上がり、「黄色いボディパーツにデカールを貼るのに手こずる」という次のステージに到達できた。3度目は、もっとうまくやれるはずだ。
プラモデルはパーツの精度でその良し悪しが大きく変わる。しかしそれ以上に、説明書の内容がものを言う。たとえまったく同じモデルであったとしても、本当に組む人のことを考えて描かれた手順とアドバイスによって「初めて組むプラモデルなのでは?」と勘違いするほど、その味は変わるのだ。去年と今年、説明書の違いを目の当たりにするために買ってもいいプラモデル。みなさんも、ぜひ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。