タミヤから新しい戦車のプラモが出る。まるで太陽が地平線から昇ってくるような「当たり前感」で眺めてしまっている私がいます。このたび発売された「ドイツ軍 IV号駆逐戦車/70(A)」というなんかマニアックな名前のヤツを知りたければ、先に組んでおくべきプラモデルがあるぞ……と思い、買ってきました。「ドイツ軍 Ⅳ号駆逐戦車/70(V)」です。名前はほとんど同じで最後のアルファベットが違うだけなのに、かなり見た目に差があります。
「クルスク戦車戦ではしんどい思いをしたのだけど、もしかしたらIV号戦車の車体にめっちゃ長くて強い大砲をくっつければ、包囲されない限りめっちゃ強いのではないか」というのがIV号駆逐戦車です。この(V)と書いてあるタイプは「フォマーク社が作った車両」という意味らしく、ガルパンに出てきたのもこれ。新発売されたのは(A)というタイプで、こちらは「アルケット社が作った車両」という意味らしい。ははーん。タミヤの(V)は2014年発売で、わりと新しいキットです。組みます。
ぼごーん。ここまでサクサク組めます。IV号戦車組んだことある人なら「だいたい同じだな」という感じがあるはずです。戦車というのは車台にぐるぐる回る砲塔が乗っかってるものというのが相場ですが、コイツは中央部がハコになっています。車体後方のデッキに予備の転輪とか工具の類がめちゃくちゃいっぱい積んであるのがいいです。よく見ると転輪の前2つだけが違う形だったりして、これは砲が重すぎて重心が前に来るからゴムが摩耗しないように鋼鉄にしてあるんだぜ、みたいなことが書いてあって燃えます。
おもむろに大砲を組まされ、なんか知恵の輪みたいな感じで車体の内部にグリッと回して収めるという「流石に本物はこうやって組まないよね!?」っていう工程が出現します。プラモデルならでは感があります。また、大砲の後ろっかわというのはもっと複雑な構造の砲尾っちゅうもんがあるんですが、これは別売りの金属製砲身を買うとついてくるんだって。まあ完成したら見えないし、グッドなビジネスですねこれは。
このプラモ、見た目以上に可動部があります。2つのハッチが開閉式だったり、砲身の左右動に合わせて照準器も連動したりと、健気な演出が涙ぐましい。涙ぐましいのはいいんだが、ハッチのヒンジを固定するパーツがゴマ粒みたいな大きさで寝起きにはかなり堪えます。寝起きで組むな。全集中できるときに組もう。ならびにタミヤさん、できればピンセットでつままないと貼れないくらい小さいパーツは予備を入れておいていただけると悲しみの床這いつくばりタイムが減ると思います。私は這いつくばりました。
このプラモのめちゃくちゃかっこいいのは車両そのものでもあるんですが、コマンダーのフィギュアが最高。身体を斜めにして左肘を前に突き出し、ギロッと正面を睨んだこのポーズがたまらないのです。なんせ砲塔が回りませんっていうか砲塔がないので、正面を撃つしかない。前しか見ないアニキです。腕の角度もビシッと決まり、ハッチ周囲の形状に肘がカシーンとハマるフィット具合に惚れます。人間、フィット感が大事です。
組み上がり!低く構えたこのシルエット、そしてIV号戦車の面影は足回りとケツだけになっていて、ただIV号戦車を流用して大砲を載っけただけとは言えないほどの几帳面な造形に「ドイツ人、クルスクでしんどい思いをしたのにやけっぱちにならないでマジメにいろんなところを設計し直すところがすごいな!」と思わされます。まあそれで嫌になってもっと簡単に作ろうぜ……となったのが新発売の(A)型らしいので、そっちもこれから組みます。比べて楽しいのがプラモ。本物の戦車2台買ってきて見比べるの、無理だからね(ちなみに本物2台を見比べられるのはフランスのソミュール博物館だけらしいよ)。
長い大砲がくっついているから「ラング(ドイツ語で「長い」)」と呼ばれたIV号駆逐戦車/70。なんか地味だね〜って思っていたのですが、いざAとかVとかマニアックなことを言われると「どれどれ、何が違うんだい?」と心が動きます。いざ組んでみれば、なるほどと思えるカタチがあり、説明書には「なんでそうなったのか」というのがイヤというほど書かれています。いやいや、食わず嫌いはよくありません。プラモを組むというのはただカタチを手に入れるだけではなくて、どうしてこのカタチが良かったのか(もしくはそう考えた人がいたのか)を知るための冒険でもあるというわけです。