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飛ぶことを教えてくれるグライダーのプラモデルが、僕らに教えてくれること。

 プラモデルの世界。それは幾つかの共通語こそあれ、常識さえ違う複数の世界の集合体です。

 ここに、その世界の1つへ飛び立つための翼があります。

 初級滑空機、プライマリー・グライダーという、操縦士にとっての最初の翼として作られた航空機があります。
骨組みと布張りの翼だけの簡素な機体は取り扱いも簡単だったらしく、日本全国の高校(旧制中等学校)で授業に使われたこともありました。

 そんな最初の翼を取り零さずキット化してくれたのは、歯応えのある作風で遍く飛行機をプラモデルにしているチェコのスペシャルホビー。ドイツ製の「SG38」を1/48と1/72スケールで送り出しています。

▲これは1/72スケールのほう。ランナー1枚に収まったパーツはその数12! 操縦席の覆いの有無を選ぶため、実際に使うパーツはさらに減ります。
▲骨組みの胴体は、操縦桿から着陸橇までシャープに一体成形されており、組み立てる箇所はナセルとラダーペダルのみ。ペダルは2種から選びます。
▲その細さ故に接着面が狭く、水平尾翼を接着する時は多少ぐらつきますが、左右の支柱が支えてくれるので水平を保つのは難しくはありません。

 と、ここで注意点。主翼のスリットに胴体上部の三角の部分を差し込み接着するのですが、スリットが幅狭でそのままでは入りません。とはいえ、ここを越えれば完成です。粗い紙やすりかデザインナイフで幅を広げてしまいましょう。無理に押し込まないよう気をつけて。

▲狐色の成形色と実機の色の印象の差は僅か。塗装なしでも雰囲気は十分です。

 言葉足らずな説明書を睨み、笑みと憤りが混さった感情で試行錯誤を楽しむ。あらゆる飛行機のキットを望む声に答えるため、スペシャルホビーはそんなプラモデルを作る道を選びました。30余年物の“芸風”はそう簡単には変わらず、万人に視線を向けたキットを送り出すとなっても時折顔を覗かせます。

 このSG38はその一例ですが、ただ1度背を伸ばせば完成する。ゆえに、このプラモデルにはふたつの世界を繋ぐ力があります。ひとつは、「ユーザーを誰も置き去りにはしない」と、説明書に倣えば実物の似姿が現れるよう道を踏みならした模型の世界。もうひとつは、プラモデル以前から続く「諸々を乗り越える力を持っているはずだ」とユーザーを信頼する模型の世界。

 緩やかに繋がる両方の世界を跨げたなら、組める模型(プラモデル以外も!)は格段に増えます。その中にもまた、心弾む題材と設計の模型が星の数ほど出番を待っている。本物のSG38が人々を空へ押し上げた時のように、もう1つの世界へ誰かをエスコートする。最初の翼を象った姿に、そんな役割をだぶらせてしまうのです。

 そうそう、このSG38は2機セット。仮に1機目で失敗してしまっても再挑戦できます。失敗を糧に次に繋げる。このキットは箱の中にそのプロセスさえも詰め込んでいるのです。

Ikkeby-V

共同創作サイト「SCP財団日本支部」の片隅をさまよう半幽霊メンバー。1997年生まれ。プラモデルは刺身派。1/72の飛行機が好き。

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