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エヴァンゲリオンの世界観を支える異常な規模について/プラモの出てこないリアルロボット談義

 何もかもが異様だった。どこまでも続く配管。独特な匂いと、怪音。目の前で絡み合うパイプにそれぞれに意味があるなんてちょっと信じられない。たとえばそれらが全部機能していたとして、いったいどの順番で組み立てていけばいいのかも、中に何が通っているのかも、それがどれくらいの量で、どれくらいのスピードなのかもわからない。圧倒的な、規模。宇部新川の駅前から南に向かって真っすぐ歩いていくと、大きな交差点から先は宇部興産の構内道路となって突端まで続いている。道路沿いに建てられた青い骨組みを通る配管からは、ときおりブシューという音がして、中を熱い流体が走っていったことがわかる。

 やおら現れる3つのタンクは、例えばお台場で見上げるガンダムと比べるのが無意味なほど巨大だった。しかし間違いなくこのタンク(もしくはサイロ)はちゃんと稼働していて、大きいことの意味をちゃんと果たしているようだった。青いペンキは色あせ、錆が浮き、それが雨で流れた跡も生々しく、プラモデルの塗装のお手本を写真機で撮って極限まで拡大したようなテクスチャ。

 上に乗ったキャットウォークと手すりの大きさから人のサイズを想像して、慄然とする。それは人の生活のために作られた建物とはまったく違う手触りで、どちらかと言えば背が高いことそのものに意味がある、戦艦の艦橋みたいに見えた。その佇まいに感心しながら歩いていくと、今度は右手に肝をつぶすほど大きな塔が建っている。


 もはや配管とは呼べないほど太く、複雑に組み合わさった円筒形の構造物。さっきまでの細い配管を支えていたトラスと色こそ似ているが、全く太さの違う躯体。パッと見で1階分に相当しているように感じられる構造が、そもそもビルの4〜5階分に匹敵する高さを持っていることに気づいて、またも慄然とする。「人間がたくさん住む」みたいなわかりやすい理由以外に、ここまで大きいものを作ることの意味がたぶんあるのだということに心の底から驚く。そして、塔の後ろにたとえばエヴァンゲリオンや使徒を想像する。ノソっと大きく、それを動かすために異常な量のエネルギーが必要だとして……。

 そのとき、なんとなくエヴァンゲリオンの異様な大きさ(扱いやすいロボットではなくて、あれは巨人だ)と、それを運用するシステムの描かれ方に、奇妙な納得があった。巨大なものを運ぶから、巨大な輸送手段が必要だとか、異常な量の電力を供給するために、異常な太さ、異常な量の電線を這わせるとか。そういうのは全部、荒唐無稽だとしか思っていなかった。しかしいま、宇部興産の暴力的な規模と、それを構成するいちいち長大な物体を見ていたら「なるほど、庵野秀明は”規模”を信じているのかもしれない」と捉え直すことができたのだ。

 ここまででも充分奇妙なのに、たまにギョッとさせられるのが熱膨張に対抗するためにΩ型に曲げられた配管だ。言われてみれば合理的な設計なのだろうが、自分から思いつくディテールじゃない。こういうのが何kmにもわたって設備と設備を繋ぎ、秩序だった(そして科学的にめちゃくちゃ高度な)プロセスを経て何かを作り出している。大量の材料を運ぶために専用の道路と規格外の輸送メカを仕立て、中国地方を股にかけた壮大な作戦が、目の前で進行している。その総体はとてもプラモじゃ表現できないけれど、ヒントになることがあまりにも多い。歩くスピードが上げられない。

 たくさんの企業の集合体が、巨大な物流網とコンビナートを調和させ、我々には及びもつかない製品を日夜生み出している。宇部出身の庵野秀明は、「工場萌え」みたいな言葉が発明される前からその規模を目の当たりにしていたのかもしれない。そして、人類がこれだけの規模の何かを作って動かせることに驚きながら、同時にそれを信じて、描いてきたのかもしれない。宇部の埋立地には、『新世紀エヴァンゲリオン』のヤシマ作戦や、『シン・ゴジラ』のヤシオリ作戦に通じるビジュアルが広がっていた。そして大きな構造物が、ごおんごおんと音を立てながら、手触り感のある汚れや独特の匂いとともに稼働していた。リアルロボットとそれを支える世界観を信じるに足る、圧倒的な”規模”が、たしかにそこにあったのだ。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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