第一印象はウォーカーギャリアだった。総合化学メーカー、株式会社UBE(旧商号の「宇部興産」のほうがなじみ深いかもしれない)のコーポレートカラー、青緑色のせいだ。かつてほとんどの建機は警戒色としての黄色やオレンジで彩られていたが、1989年にコベルコが「安全」を想起させるブルーグリーンを基調とした建機を発売した。
コベルコと宇部興産の間に直接的な関係はないだろうが、いまやこうした「はたらくクルマ」に青緑色が塗られていてもわたしたちは何も驚かない。建機らしさがメカデザインの特徴とされた『戦闘メカ ザブングル』は1982年の放映開始だから、現実世界の建機がギャリアの方に寄っていったようにも取れるのが面白い。
ちなみに宇部興産は株式会社UBEに改名し、関連企業の名前やトラックのカラーリングも大変革の真っ最中。文中では通りの良い旧称がちらほら出てくるのでご了承を。
ちょっとしたマニアなら誰もが一度はその目で見たい設備が宇部市大字小串の沖の山地区にある。ここからはるか32km離れた伊佐セメント工場から専用のトレーラーで石灰石をはるばる運ぶために、200億円の巨費を投じて作られた宇部興産専用道路。道交法が適用されない私道であるため一般車は通行不能だが、この地点で公道と平面交差しており、お互いが進入できないよう踏切が設けられている。宇部興産のトレーラーが通るときには公道側の遮断器が降り、それ以外のときは私道側の遮断器が降りた状態になっている。
街中ではまず見ないケンワースのトレーラーヘッド。ナンバープレートを見れば、これが一般道を走れないことがわかるはずだ。40t積みのトレーラー2台を連結した「ダブルストレーラー」が走れるのは日本だとこの宇部興産専用道路だけで、牽引するトラクターを含めて長さはおよそ30m、積載状態での総重量は最大約120tにもなる。これが40セット以上、ひっきりなしに石灰石や石炭を積んで往来しているのだから、ド迫力なんてもんじゃない。一生見ていられるくらい圧倒的な光景なのだ。
色はウォーカーギャリアだが、連接したトレーラーはよく考えたらザブングルである。ザブングルは上半身がブングル・スキッパーに、下半身がブングル・ローバーに変形し、それぞれ限定的な飛行能力を有する。そしてスキッパーとローバーの両者が連結すると全長 18m、全備重量 113tの「ザブングル・カー」というダブルストレーラーそのまんまのカタチになる。全備重量はいま現実に見ているダブルストレーラーとほとんど同じだが、全長はザブングルのほうが短いことになる。ロボットが立っているところは実物大ガンダムのおかげでなんとなく感覚が掴めるが、横倒しになってタイヤで走るザブングルの大きさなんて、考えたこともなかった。
反面、宇部興産が所有するトラクターは500〜600馬力程度の出力だそうだが、ザブングルはおよそ33000馬力とあまりにも非現実的。とは言え、ロボットアニメで馬力がそのまま視覚的に演出されるのは「他のメカとの比較」に過ぎなかったりするので、ここでは巨大な連接トレーラーがどういう重量感で動き、どんなふうに汚れるのかに着目して眺めていた。乾いた土のようなものが巻き上げられて足回りからトレーラーの側面まで茶色く染めているのを観ると、ザブングルが垂直に立ったときにどこが汚れていると説得力があるのか……のヒントになりそうだ。
宇部新川の街にも山口宇部空港にも宇部のダブルストレーラーのトミカは売られていなかったから、東京に帰ってからなんとか手に入れて、改めてザブングル(を変形させたもの)と見比べてみる。縮尺こそ違うけれど、例えばロングタイプトミカのような凝縮感のあるザブングルがあったらどんなディテールになるだろうと考える。
エヴァンゲリオンを探しに行ったはずが、ザブングルに出会う。「リアルってなんだ?」を頭の片隅に置いたまま、あちらこちらへ思考を燻らせ、旅はまだ続く。