女性ドライバーのフィギュアを先に左手に持っていた。彼女に似合った自動車を探して、模型店の棚をくまなく探す。ふつうなら、順序が逆だ。でも映画『RRR』に登場したジェニー(を投影するプラモ)が乗るなら、イカつい軍用車じゃなくてちょっと瀟洒な乗用車である必要があった。
そしてそんなもんは……1/35スケールとなるとぜんぜんないのである。ミニアート社がドライバーを出しているんだからクルマも出しているのは確かにそうなんだけど、見た目にゴリゴリのドイツ車なんだよね。ということで、安定のタミヤ。そして安定すぎる、11CVです。フランス車じゃないか。インドもイギリスもどっか行ったぞ。でも組んだことがなかったから、いいのです。
おもしろいのが、1/24は「クルマの模型のスケール」だから、クルマを再現する(つまり走る/曲がる/止まるための仕組み=エンジンやステアリング機構やサスペンション、そしてブレーキなどをパーツにして、その機能がなんとなく感じられるような組立工程をデザインする)ということに重きを置いた構成になっていることがほとんど。
これに対して、1/35の世界はあくまで戦車が主役だから、自動車は「戦車のいる情景に添えるもの」としてその佇まいが決定されることにある気がする。本当かな。でも前輪が左右に動かないとか、ブレーキの機構が省略されているとか、ドアが開閉選択式になっているとかは「自動車がそこにあって、人間が乗ったり降りたり外にいる人と会話していたりする」みたいなストーリーを担うための容れ物になってる感があるね。
グレーに塗れば軍用車、黒や赤に塗れば民間のクルマ……という意味で、「ミリタリーモデルじゃなくてカーモデルとしても作れます」というのは確かに正しい。スケールによって機械の機能が変わるわけじゃないしね。それにしても、シトロエンの11CVというクルマはグレーのプラスチックで売られていることがもったいないほど美しいと思う。例えばこれがぱっと明るいアイボリーホワイトやスカイブルーだったら、どれだけ可愛いだろう……と夢想するくらいに。
軍用車として組むなら全部沈んだグレーでいいんでしょうけど、例えばシートは明るいベージュがいいし、外側は薄いグリーンが似合いそうだし、バンパーやフロントグリルは銀色にピカッと光っていてほしい。そういう可能性を残しながらとりあえず組んでみると、とにかく一瞬で組み上がってしまう。
なるほど、「軍用車(戦車模型の”ツマ”)だからコレくらいの再現でいいかもね」という見方もできるし、逆に「街を走るタクシーや軽トラックがこれくらいあっさりした模型になっていたらとても楽しいだろうな」という見方もできる。とにかくまあ、ちょっとクラシカルでいつでも手に入って流麗なスタイルの乗用車がほしい(しかも精度がめっちゃ高い)となると、みんながこぞってタミヤの11CVを手に入れるのがよくわかった。
もはや左ハンドルのフランス車というRRRとはまったく無関係の地平に来てしまったけど、無事ジェニー(の概念)を運転席に座らせて、めでたく「自動車を運転する女性」の図ができた。こうなると重たいジャーマングレーは不釣り合いだ。とびきり軽やかで、優しい色に塗りたいから、ボディを接着するのはまたこんど。ドライバーとクルマの組み合わせを探すにはまだまだ選択肢が豊富とは言えないプラモデルの世界だから、あなたが「この組み合わせがおしゃれ!」というのを見つけたら、ぜひとも作って、そっと教えてほしい。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。