映画『RRR』を観ていて、とても素敵だと思ったのが「自動車を運転する女性」の描きかた。1920年、イギリス統治下のインドにおいて主体的に何かを成し遂げようとするインドの男に化学反応をもたらすのは、同じく主体的に考え行動する、ジェニーという女性でした。彼女のパーソナリティを補強する表象として登場するのが、1930年型のオースチン7という自動車。舞台が1920年なのに1930年の自動車が出てくるのはおかしい!とキレてはいけません。なんせRRRはSFであり、叙事詩であり、神話なので……。
と言ってもオースチン7のプラモは即座に手に入るもんじゃないし、そこに乗る同スケールの20世紀前半の女性ドライバーフィギュアなんてもっと探すのが難しい。でも「自動車を運転する女性」という概念が欲しいので、模型店のミリタリーコーナーをウロウロしていると、いらっしゃいました。ミニアート(ウクライナ)の「1/35 自動車で旅行する民間人セット 1930-1940年代」というプラモデルです。ちなみにTVでさんざん流れているナートゥダンスのシーンはキーウの大統領公邸前で戦争が始まる前に撮影されたのだそうで、RRRとウクライナは縁の浅からぬ関係にあるんだな。
フィギュアは4体入り。コートを脱いで荷物を紳士に預ける淑女の組み合わせがまずとってもいい。このふたりだけでストーリーができちゃうから、もう木の台座に固定しちゃいました。1/35スケールの世界に、ひとときの平和が訪れるようです。組み立てはかなりファジーな感じですが、「こういうふうにふたりが組み合わさっていてほしいな」と完成図を想像しながらじっくりと貼っていく時間はとっても豊か。
もうひとりの男性は片手をポケットに入れ、反対の手でクルマにもたれかかったポーズ。ポケットに手を入れている左側のジャケットは後ろに向かって裾が流れているので胴体と一体に彫刻されていますが、ダラッと下がる右の前身頃はわざわざ別体として、釦を留めていないルーズな印象をうまく表現しています。ここ感動したな〜。
当然ながら重心は脚から外れていて自立してくれないので、彼は観たい景色が作れたときにちゃんと地面に接着して固定する必要がありそう。しかしハイウエストで猛烈に太いダボッとしたパンツ、革靴やハットの造形もおしゃれ。惜しむらくは似合う車を探してくるのが大変なこと……。
そして今回スカウトしたかった私にとっての主役が彼女。ドライバーフィギュアです。組んでて気がついたんですが、左手でハンドル、右手でシフトレバーに触れるポーズ。英国車は右ハンドルなので、そのままではRRRになれないフィギュアだ……。でもいいんです。快活で聡明な女性が、クルマを運転する様子をプラモデルにしてくれたのが、嬉しい。
戦場を駆けるメカと男の世界、という性格が強い1/35スケールのプラモデルに「こういう景色があっても良くない?」と提案してくれたウクライナのスタッフと、いまオレはあらぬ方角から共鳴しています。オレがジェニーだと思えば、彼女もまたジェニー。それにしても、普段着のプラモって、いいもんですね。