週に3日は通っている地元の小さな居酒屋があって、そこでたくさんの友達ができた。年齢も性別もバラバラだが、みんな揃って大酒飲みだし休日に一緒に遊びに行くような仲になることもしばしばで、さながら町内会の寄り合いみたいになっている。そこにいるトオルさんという還暦間近だが肌ツヤの良いアニキはやたらと活動的で、休みごとにいろんなアクティビティに興じている。オレもいつか一緒に遊んでみたいなと思っていた。
「へえ、キミはクルマのプラモも作るんだ。オレさあ、GT-R乗ってるんだよ。シルバーのサンニー」と語るトオルさんに「いつか見せてくださいよぉ」と返して早幾年。そのチャンスが巡ってきた。
>ホビコレ MONO 1/32 オートモービルキット ニッサン スカイライン GT-R V・SpecII スパークシルバーメタリック
いつものように呑みながら週末の予定を聞くと、GT-Rのシートベルト巻取りユニットが壊れたとかで、修理できる整備工場をようやく見つけてそこに預けていたのがようやく引き取れる状態になったのだという。「あ、オレもそれに付いていっていいですか」と反射的に口走り、翌日ふたりのオッサンが二日酔いのまま電車で2時間もかかる整備工場へと向かったのだった。
修理完了したシートベルトのチェックをして、次にどこに手を入れたらいいっすかねなどと整備マンと会話しているのを見ながらトオルさんのR32の周りをぐるぐると眺めて「プラモで見たまんまだな」などと思う。正直言ってR34の獰猛さはないし、シルエットはわりとエレガントである。どっこい、助手席に身を沈めてみて驚いた。室内のあらゆるところがセクシーなのだ。ちょっと筆舌に尽くしがたいものがある。
これはほんの一例。メーターフードに配されたハザードボタン、ヌメッとしたラインで一体化しつつ、太く短い円筒でスパルタンな雰囲気を醸し出すワイパーのスイッチ類。エアコンの操作系もどシンプルで、いわゆるコンフォートなクルマのごちゃっとした操作系とはぜんぜん違う「走りの匂い」が濃厚なのだ。走っているときのフィーリングが極めて獰猛なのは言わずもがな……。
「ちょっとコンビニ寄りましょう。トイレ行きたいし、ひとつ確かめたいことがあるんで。」
そう言ってオレはMONOの新作プラモをカバンから取り出した。ボディはあらかじめシルバーに塗られていて、窓のトリムも丁寧にブラックアウトされている。工場で職人さんがカーモデルのいちばん面倒なところ(それは楽しいところでもあるんだけど……)を済ませたこのアイテムと、ホンモノを見比べられるまたとないチャンスだ。
「え、もう塗ってあるの。そんなプラモもあるんだね」などとトオルさんが言うのを聞きながら袋をバリバリと開け、ボディパーツを取り出してホンモノのGT-Rの上にかざす。日差しが強くて、塗料のフレークがキラキラと眩しい。
同じだ。ホントに笑っちゃうくらい同じ。ホンモノに塗ってある塗料がプラモにも塗られているんじゃないかと思うくらい同じ。ふたりして「すっげえ、同じだ!」と騒いじゃうくらいに似ている。これを組んだらまたいつもの居酒屋に行って、トオルさんにホイと渡そう。室内のディテールやらホイールの違いやらを肴に、旨い酒が呑めそうだ。
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模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。