P-51Dマスタングが好きです。プラモはいろんなメーカー、いろんなスケールのを組んできたけど、ハセガワのビッグスケールモデルは初めて。1/32というのは飛行機プラモのなかでも一二を争うビッグスケールに分類されてて、コイツの場合は完成すると全長307mmというなかなかゴージャスな大きさになります。記事執筆時点ではAmazonでちょっとプレ値がついてますが、店頭在庫があればだいたい2000円ちょいで手に入ります。いいでしょ。
「でっかい飛行機プラモはパーツが多いのでは!?」「難しいのでは!?」「ビギナーは小さいのを組んだほうがいいのでは!?」みたいな先入観を持っている人にもよく出くわしますが、ハセガワのちょっと古くてでっかいプラモは「小さいキットがそのまま大きくなったみたい!」というパーツ分割で、さらに職人の細かい手仕事が光ってるからいいんだよな〜!
まずエンジンが入ってるのがいいよね。小さいプラモではエンジンまで再現するとパーツが小さくなりすぎますけど、でっかいプラモだとエンジンだってデカい。完成したら見えなくなる……と思いきや、ちゃんとパネルを外して上から覗けるようになってます。そりゃ最新のビンビンキットと比べたら牧歌的な表現ですけど、こういうのはですね、「エンジンが、そこにある」ということがめっちゃ大事なんですよ。
金属でできた飛行機も、場所によっちゃあ軽くするために布で作られている部分があるわけです。見てくださいよこの水平尾翼。前方が金属でできてて鋲でビシビシビシーっと内部フレームに固定されているのが見えますけど、後半の動く部分は「布でできていますよ〜」というテクスチャが入ってますよね。こういうのは図面に描けないから、職人さんが「布に見えてほしいな〜」と思いながら金型に直接繊維の織り目を彫刻してるんですよね。手仕事ならではのランダムネスがここにある。
コクピットのパーツなんですけど、床(左半分)を見るとなんか渦巻みたいな傷がついてますね。これは「コクピットフロアは木でできていたんですよ〜!」という表現なんですよ。やや説明的に見えるけど、これまた金型職人氏が「ここはよぉ〜、ホンモノは木なんだよな!」って言いながらカリカリと金型を削っているわけです。指先サイズのコクピットでは嘘くささが爆発してしまうこんな表現も、1/32というドデカ模型なら全然「アリ」になるのがいいよな。
聞くところによれば、昔のプラモの計器盤というのも図面が残っていないことが多い場所なんだそうで。というのも、あまりに細かいし図面にするとあまりに入り組んだ仕事になるし、そもそも図面どおりに機械が彫ってくれるわけじゃありません。デジタルなマシンが導入される以前の時代は「実機の資料を見ながら職人さんが『こんな感じですよね』って言いながら直接彫刻する」というのも普通だったとか。
この計器盤もいい仕事してます。実機そっくりかどうかは置いといて、「実機そっくりであればいいなあ」という気持ちを送り手と受け手がなんとなく通じる雰囲気が良い。好きだ。
主翼には鍵型の大きな穴が開いてますが、ここには機銃と弾帯の機構がそれなりに入る部分。なるほど、マスタングにはこういう武装がこんな風に装備されていたんだなぁということを知るためでもあるし、例えば地上でメンテナンスをしている風景を作るときのアクセントとしても機能します。
決して精密でシャープで微に入り細に入り正確至極というわけではないにせよ、「大きくて少ない手数で完成させられるプラモデルにこそ、こういう遊び心を入れておきたいな」というのが感じられるハセガワのでっかいマスタング。半世紀前の職人さんの息づかいを感じながら、その佇まいをそのままに、レトロゲームを慈しむような感覚で組み上げれば、あなたの感情がビビビと動くはずです。
さあ、どんなふうに仕上げましょうか。まずは手に入れて、眺めましょう。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。