最新の道具で組み立てる、半世紀前のプラモデル/ハセガワのでっかい戦闘機。

 「50年前のプラモ」っていうとかなり古く聞こえる。いまのプラモは出来がよくてパーツの精度も高くて緻密で繊細だ。それに引き換え、ハセガワの1/32マスタングといえばどうだろう。1/72のプラモとほとんど同じパーツ分割……つまり、大きいからってむやみやたらと細かく再現しようみたいな気分はさらさらないみたい。でっかい飛行機が、ズドンと出来上がりそうな予感。じゃあ、ズドンと作ってみたらどうなるんだろう……と夕飯を食べ終わってからダイニングテーブルの上でおもむろに貼ってみる。

 エンジンは簡素なパーツ構成で、パーツの収まる位置もわりとあやふや。目見当で「ここがツライチになっているのが正しそうだな」などと考えながら組み立てる。べつに難しいところがあるわけじゃない。カタチもすごくシンプルで、ホンモノのマーリンエンジンの複雑さは微塵も感じられない。けど、ゴロンとエンジン的な塊が瞬時にこの世に生まれ出るのは楽しい。

 コクピットもずいぶんシンプルな分割だけど、必要最小限の記号が入っている。よく見ると計器盤や側面の機器類、操縦桿なんかも案外繊細な彫刻が入っている。パーツ数が多ければいいってもんじゃなくて、少ない手数でごちゃごちゃとしたコクピットができあがるこのスピード感がいい。大きいプラモの美点は、薄いところが薄く、シャープなところがよりシャープに見えるところだ。

 胴体にエンジンとコクピットを組み込んで眺める。本当に大した工作をしていないのに、素晴らしい存在感だ。もっと緻密なエンジンがほしければ同スケールのタミヤ製や造形村製のマスタングがある。しかしハセガワ製にはハセガワ製の良さがある。「大きい飛行機を組んでみたいな」と思ったら、これくらいのパーツ数でチャレンジを始めたっていいはずだ。むしろこれくらい簡素な分割なのにもっと現代的な彫刻が入ったプラモだって本当はできるはずだし、オレはそういうプラモを組んでみたい(言ってみれば新版のハセガワ製1/32零戦がかなりそれに近いコンセプトだ。素晴らしいプラモなので、そっちもすごくおすすめしたい)。

 古いプラモで不安なのは、大きいパーツ……つまり胴体や翼のパーツがしっかり合うかどうかだ。半世紀も前のプラモだと、そもそもの設計がまずいとか、加工技術が設計に追いついていないとか、金型がくたびれていてうまく組めないなんてこともある。しかし、このマスタングはちょっと驚くくらいピタリと合う。
 胴体の左右パーツにコクピットもエンジンもきちんと収まり、主翼の下面をビタッと合わせるとこれまた隙間なく組み立てられる。当時存在しなかった速乾タイプの流し込み接着剤が本当に魔法のように効く。ピタッと合わせて、接着剤をちょんと流す。ただそれを繰り返すだけで待ち時間はほぼゼロ。もしタイムマシンがあったら、このプラモが発売された当時に流し込み接着剤(速乾)を持っていってあげたい。

 カタチにさえなればいいかな、と思って組み始めたけど、なんだかあまりにもしっかり組めるので、コクピットをおもむろに塗ることにした。そのへんにあった適当なグリーンを筆にとって、グリグリと突っ込んで塗る。この瞬間、全体を銀色に塗ることが決まったようなもんだ。プラモ作りはどの瞬間でも方針を変えていい。「やっぱやーめた!」の自由もあれば、「あれ、思ったよりいいな。こりゃもうちょっと手を入れましょうかね」の自由もある。最初から最後までカリッカリに集中して作ってもいいし、ズボラを極めたっていい。自分の機嫌が取れれば、それが最高なんだから。

 飛行機模型で隙間が開きがちな主翼上面と胴体の合わせもバッチリだった。大きい模型は難しいなんて決まりはない。むしろパーツのひとつひとつが大ぶりで扱いやすく、ほんの少しの彫刻がより緻密に見え、完成したときの迫力も段違い。それに加えて、こんなに合いの良いプラモであったらなおさらだ。50年待っていてくれたから、50年ぶん蓄積されたツールやマテリアルの進歩を存分に駆使して作ることができる。古くて大きなプラモを作る醍醐味は、ちっとも失われていないどころか、むしろ21世紀のいまだからこそ心底楽しめる環境が揃っていると言っていい。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。